プロローグ:布良木研一という男について
この物語を始める前に、まず………
布良木 研一という男の人生について軽く紹介しよう。
それは、『涙』と『努力』と『中傷』と『蔑み』がない交ぜになった………複雑で怪奇な物語だ。
小学生の時点で体重90kgを超えた肥満体型。
その顔はお世辞にも『美男子』とは言い難く、はっきり言ってブサイク。
勉強の成績はクラスで一番だった反面、運動は苦手で体育の成績は常に『1』をキープ。
物静かではあるが、社交性のある性格とは言えず、休み時間はいつも図書室の隅で本を読んで過ごしていた。
そんな研一の事を、クラスメート達は『フランケン』というニックネームを付けてからかっていた。
その由来は彼の本名が『布良木 研一』だから………というのももちろんあったが、その大柄でブサイクな容姿を映画の『フランケンシュタイン』に出てくる怪物に重ね合わせたのが最大の由来だった。
自分をからかうクラスメート達を少しでも見返そうと、研一は必死に勉強を頑張り、小学5年の時点で成績は学年どころか校内でトップとなったが……結局、クラスメート達からのからかいの声は卒業まで無くなる事はなかった。
中学校に進学すると、研一はアニメやマンガといったサブカルチャーを愛するオタクに目覚めたが……本来は人々に夢や希望を与えるはずの『二次元』は、ある意味で『三次元』よりも深くまざまざと『現実の厳しさ』を研一の心に刻み込む事となった。
アニメでも、マンガでも、小説でも、ゲームでも、特撮でも………主人公であるヒーロー・ヒロインは皆、見目麗しい美男美女ばかりであり、自分のようなブサイクなデブは『ギャグマンガ』でも無い限りは主人公にはなれず、良くて『ムードメーカー』か、最悪の場合は『悪役』にしかなれない。
結局、『現実』とか『フィクション』とかに関係なく、世の中は美男美女しか幸せになれないんだ……と、思春期の研一は自分の部屋のベッドで丸くなりながら、涙を流す日々を送った。
オタク趣味がこうじて、同じ趣味を共有する仲の良い『友人』や『知人』には恵まれた研一だったが……『恋人』となると話は別だった。
元々デブでブサイクな上にがり勉でオタク趣味な研一に好意を抱く女性などおらず、大半は存在そのものを無視するか、遠くから小馬鹿にするばかり。
勇気を出して告白してみても、大抵の場合は汚い物を見るような目で気持ち悪がられるか、その場で「ふざけんな!」と殴られるか………酷い時にはその場で泣き出された時もあった。
そんな日々が数年余り続き………高校に進学すると同時に、研一はある『計画』と『目標』を立てた。
それは、幼き日に自分をからかう同級生達に付けられたニックネームに、そして更にそのニックネームの由来となった古典文学作品に由来する壮大な『計画』(※研一にとっては)だった。
その『計画』の実現のため、研一はオタク趣味を一時封印してひたすら勉学に打ち込み、高校卒業と同時に工学系の大学へと進学し、遺伝子工学者への道を歩み始めた。
元々優秀な頭脳を持つ努力家でもある研一は、若干20代にして遺伝子工学と生体工学と生物学の博士号を取得し、様々な新発見や新発明を次々に行った。
『拒絶反応0%の移植用クローン臓器の開発、並びにクローン臓器の大量生産ラインの確立』。
『グリフォンやドラゴン等の伝説上の怪物の姿を完全再現した人工キメラ生物の誕生に成功』。
『生きた人間の脳髄を本人のDNAからクローン培養した新しい体へと移植する手術に成功』………。
それらの発明・発見による成果は、当の研一からすれば『本来の目的』の為の副産物のようなものでしかなかったが、『計画』の実現に必要なデータと資金を集めるのに大いに役立つ事になった。
そして………
『本年度のノーベル生理学賞授賞者は……日本人遺伝子工学博士、ケンイチ・フラキ氏です!』
……数々の発明・発見により、ついに研一はノーベル賞を授賞したのだ。
スウェーデンの首都・ストックホルムに建つノーベル賞授賞式会場。
何百という賓客達が拍手を送る中、研一は授賞席へと上がる。
相撲取り顔負けの肥満体に美男子とは言い難い顔………まるでアメリカのマーベル映画に登場する大物悪役『サノス』を連想させるような人物が、真新しい小綺麗なスーツ姿で壇上に上がる様子は少し滑稽であった。
『えー……ありがとうございます。このような名誉ある賞を贈っていただき、大変光栄です』
壇上に上がった研一は、流暢な英語でスピーチを始める。
『私は小学生時代、同級生達から『フランケン』というニックネームを付けられ、そんな同級生達を見返そうと勉学に励んだ末に、今日という日を迎える事となりました。今にして思えば……かつて私の事をからかっていた同級生達には、感謝の念すら感じております』
研一の発言により、会場が賓客達の笑いに包まれる。
研一は続ける。
『今回の授賞は、私にとって通過点の一つに過ぎません。私の最大の目標……それは、『21世紀のフランケンシュタイン博士』となる事です!』
再び会場内は拍手で包まれ、研一は賓客達に一礼した後にスウェーデン国王より賞を授与されたのだった。
この時は……まだ誰も気づいていなかった。
研一の『21世紀のフランケンシュタイン博士となる』という言葉が単なる物の例えなどではなく、『文字通りの意味』だったということに………。
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