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あの命この命⑪

「ネムス君っ!」


突然の大声に振り返る。背後にはムズカが立っていた。ルルナがとなりにちょこんとくっついている。


「聞こえてたぞ!傷を縫うのか!」

「は、はい。治癒魔法を使える人がいない以上、そうするしか……」

「よし!じゃあ俺の腕を縫え!」

「……いいんですか?」

見上げながら尋ねると、自然と上目遣いのようになる。ムズカはむんと胸を張って答える。

「君のいう事なら、俺は信じる!頼んだ!」

ぐっ、と血の滴る左腕を差し出してくる。


ネムスは逡巡する。

ムズカの重症度はそこまで高くない。正直、もっと優先して処置すべき患者は他にいる。しかし、今、処置を受けてくれるのはムズカ以外にいるだろうか?


(悩む時間がもったいないな)


「ありがとうございます、ムズカさん。じゃあ横になって下さい」

「おう!」

ムズカに横になって貰い、傷が上面になるよう左上腕の向きを調整する。咬傷であり、刃物の傷とは違って断面はガタガタだ。


(かなり深い傷だが、手元にあるのは絹糸だから、自然に吸収されないし、真皮をまず合わせて、という手は取れないな。それに、感染を考えたら、ある程度隙間をあけて縫う必要があるか)


「ムズカさん、縫う前に消毒するのでしみますよー」

「えっ、おい、さっき洗っただろ!いででで!……酒か?」

「中は洗いましたが、縫うところを一応消毒しないと」

蒸留酒をつかって皮膚を消毒する。針も消毒した上で、糸をつける。


「じゃあ、ちくっとします」

傷の全長をみて、真ん中のところに針をぷつり、と刺す。ビクッとすこしたじろいだムズカであったが、腕は動かさずにいてくれた。

「だいじょうぶ、パパ?」

「ああ、大丈夫だ、ルルナ」


ムズカは右手をルルナとつないでいる。

(局麻がなくて申し訳ないけど、もしかしたら娘の存在が一番の鎮痛剤かな)

そんなことを考えながら、ネムスは傷の対面から針を出す。少し逡巡するが、そのまま単純結紮縫合にすることにする。マットレス縫合も考えたが、感染と、かかる時間を考えると、単純結紮がここは無難だろう。

絹糸を結んで、傷の断面を引き寄せて合わせる。止血を考えると傷は強く合わせたいが、感染を考えればある程度隙間がある方がよい。いいバランスのところで結び、糸を切る。


「ふうー。おわったかい」

「傷の真ん中は合わせました。うーん、あと10針くらいほしいですかね」

「そ、それはあと10回縫うってことか!」

「そうです。がんばりましょう」

「パパ、がんばって!」

「ううう……」


涙目のムズカを塩対応であしらいつつ、どんどん縫っていく。等間隔に針をいれ、締め付けすぎないように、それでいて、しっかり止血できるように。

集中して縫っていたのでネムスは気づかなかったが、いつの間にか、遠巻きに見ていた村人たちが集まってきていた。


「おわりです、ムズカさん。あとは清潔な布を当てておきます。しばらくすると膿が出てくると思いますのでその時は布を取り替えてください。うまく治れば2週間くらいで抜糸できると思います」

「抜糸?」

「糸を抜くんです」

「げええ」

「大丈夫です、縫うのより痛くないので」

「ならまあ、よいか」

「ネムス、ありがとう!」

ルルナが抱き着いてくる。背中をぽんぽんと叩いてやる。


ムズカはしげしげと傷を眺める。血は止まっている。

「しかし、そんな形の器具、何のために使うのかと思っていたが……すごいな」

「いえいえ、むしろそんなにうまく縫えなかったと思うので、ごめんなさい」

自分は内科医だし、縫うのは研修医ぶりだから……と心の中で付け足す。


さて、次に向かう前に、とネムスはムズカに使った器具を集める。これは一度消毒しなければ次の患者には使えない。まずは蒸留酒を含ませた布である程度の汚れを落とす。

(母さんは……あそこか)

大穴の傍でお願いした通りお湯を沸かしてくれていたので、いつの間にか出来ていた人だかりを潜り抜けて母の元に走る。


「母さん、これを一回煮てください」

「煮る?でもこれ、金属じゃない。食べれないわよ」

「食べないですよ!あれです、ジャムの瓶と同じです」

「ああ、そういうことね」


とりあえず煮沸消毒である。完璧じゃないが、この状況だ。これが限界だろう。

結紮はマジで腕がでます

単純結紮でできる傷はいわゆる剣豪みたいな

+++++

こんな感じの傷跡です

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