あの命この命⑨
切って捨てて、ひねって避けて。
何度繰り返したろう。まだ戦闘に慣れていないネムスにとっては、正直途方もなく長い時間に感じた。父の訓練の賜物で、体はまだ動くが、頭の奥がぼんやりするような精神的疲労感が徐々にたまっていくのを感じていた。
10匹程度の狼型の獣を片づけたところで、いったん小型の魔獣の襲来がやんだため、少し気が緩んだ。剣先を少しおろしたネムスに、父からの指示が飛んでくる。
「ネムス!しゃがめ!」
慌てて、つぶれるように、不格好に体を地面に転がすと、頭の上すれすれを何か大きいものが通り過ぎる。頭の防具をかすめた様で、防具がちぎれて頭から外れた。
「なっ」
ガキィィィン!という音を立てて、カミックの目の前でその大きいものが止まる。カミックが盾で受けとめていたのは、竜の尾であった。
「ネムス!気を抜くな!同時に竜の攻撃も見ておけ!」
「は、はい!」
狼たちと戦いながら、竜をみておけという注文に、そんな無茶な!とも思うが、できないと死ぬだけだ。そのことを肌で感じたネムスは気合を入れなおす。
徐々に、確実に、大勢はこちらに傾いていた。カミックが竜の攻撃を受け流し、クリンスマンが隙をついて大きな一撃を何度か入れ込む。バートンで魔術でサポートする。
(これなら……)
そう思った矢先、竜がはた、と動きを止めて、首を上に向けた。
(な、なんだ……?まさか!)
「と、父さん!ブレスです!」
以前熟読した図鑑に書いてあった。竜は追い込まれると火の息を吐く。広範囲攻撃だ。タメが必要なので、少し体の動きが止まるのである。
「まずい!ブレスを吐く前に叩くぞ!」
みるみるうちに口元に炎がたまっていくのが見える。カミックとクリンスマンが急いで距離を詰めようとするが。
(ま、間に合わない!)
竜が首を大きく反らせ、勢いをつけて炎を吐き出そうとする。二人の顔が焦りでゆがむ。
その瞬間。
何か小さなものが稲妻のように地面から跳ね上がると、竜のあぎとに命中した。カミック達に吐き出そうとした炎は、空に向けて放たれ、大きく狙いを外した。
「「うおおおおおおお!」」
野太い二人の声が重なる。千載一遇のチャンスであった。父とクリンスマンの放った全力の斬撃は、竜の胸に深々と大きな傷を作った。
『ガぁアあアあああああぁアあアあああああ!』
竜は痛みにもだえると、バサバサと背中の翼を羽ばたかせる。そのまま浮き上がり、ネムスたちに背を向けると、そのまま大きな翼を広げて、空へと飛び立っていった。
一瞬の静寂。
「えっ、あっ、逃げた?」
ネムスが状況をつかめず困惑して発した言葉に、カミックが頷く。
「逃げて行ったな。よかった……すまんな、ネムス。助かったよ」
鞘に剣をおさめ、歩いてきたカミックにくしゃくしゃと頭をなでられる。乱暴な動きだったが、心地よかった。
路地の奥でこちらににらんでいた魔獣たちも、踵を返して背を向け走り去っていく。どうやら、あの竜がボスだったのだろう。
「みなさん!脅威は去りました!」
カミックが振り返って教会からこちらを伺っている村人たちに握りこぶしを大きく掲げ、大きな勝鬨が上がった。




