光芒-④
ある晴れた冬の日。あたたかい日差しに、道のわきに固められた雪の表面がとけ、時折バサッと木々に積もった雪が落ちる音が聞こえる。冬眠していたリスなどもうっかり目を覚ましかねない陽気に、村の人々も朗らかに談笑している。
この村を揺るがす大事件がおきたのは、そんな日であった。
お産に呼ばれ最初にあいさつした時は、絵にかいたような、幸せな若々しい夫婦という印象であった。陣痛がきているのに、笑顔で挨拶してくれる奥さんの姿は、とても気丈で好感が持てた。
お産も順調に進み、昼前には片がつきそうでネムスは少し安心していた。あとから思えば、そういう時に限って予期せぬことが起こるものだ。
ストンと生れ落ち、元気に大声をあげて泣いている赤ちゃんを前に、お産の介助をしていた産婆のカンロが急に固まった。今までこんなことはなかったので、ネムスは不審に思い、肩口から赤ちゃんを覗き込んで、息を飲んだ。
生まれてきた赤ちゃんには、尻尾と耳が生えていた。
ネムスも突然の事態に動けずにいたが、さすがの年の功である。立ち直ったのはカンロの方が早かった。へその緒を出血しないように縛って切り、アイコンタクトをしてこちらに赤ちゃんを預けてくる。とりあえず、母と父の目に入らないように背を向けて預かり、赤ちゃんに向き直る。
(ど、どうすればいいんだ……?)
とりあえず、赤ちゃんは元気に泣いている。処置はまったく必要なさそうであり、体を冷やさないように水分をふき取る。片手間に犬科のような耳や尻尾を確かめてみるが、どう考えても本物であった。
(これはあれか、獣人ってやつか?でも、そんなのこの世界でもおとぎ話で聞いたことがあるくらいだ……魔法があるんだから、こういうこともあるんじゃないかと考えておくべきだった……。でもとりあえず、元気だから、あとは両親への説明か)
赤ちゃんが元気であれば、生まれた後母とともに過ごしてもらうのが、母児の愛着形成のみならず赤ちゃんの状態の安定にもよい。カンガルーケアというものであり、実際この世界でも行われていたのだが、これをするなら説明が必要だし……。
カンロの出方を伺う。まず、獣人をどう扱ってよいかネムスには経験がなかった。さらに言えば、ネムスはあくまで見た目は少年であったので、基本的にはカンロのお手伝い、という名目での同席である。こういう場合には、やはりカンロから発される言葉がものを言う。実際医療業界において、見た目が若いのはデメリットになりうる。患者から信頼を得られにくいのだ。
「あの、赤ちゃんは……?」
おそるおそる、といった口調で尋ねられ、ようやく、カンロが口を開く。だがそれは、ネムスにはまったく聞き覚えのない単語であった。
「”凶星”です、ご両親」
何を言っているんだ、とネムスはぽかん、とするが、両親には伝わったのか、真っ青な顔になり、母は突っ伏して大声で泣き始めてしまった。
「お預かりして、今後のことを決めさせていただきます。よろしいでしょうか」
泣き伏した母親の背中をなでながら、父親がこくり、と頷いた。完全に流れに乗り切れていないネムスは、どういうことかと全員をかわるがわる眺めてみるが、なにもわからない。すると、カンロからバートン、クララと村長を呼んでくるように言われ、急いで駆けだす。何やら良くないことが起きているのだろう、と理解したが、この転がりだした状況がどこに着地するのかはネムスには皆目見当がつかなかった。
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