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11 月刊オカルトサーチ

 土産を携え怪異にも遭遇せずに無事帰宅。コクーンハイツ梅見ヶ丘こと我が家も既に目と鼻の先だ。


 警察とかが居るのかと思ったけど、マンションの前はいつも通り閑散としていた。ファミリーマンションではあるんだけど人付き合いなんてほぼなかったんだよな。


 そもそも他の住民ともあまり顔を合わせた覚えがないし。


 通報した下の階に住む住民だって顔を合わせたことがなかった。むしろ下に人が居たのかと驚いたぐらいだ。

 騒音トラブルとは無縁のマンションなのだ。学校帰りの夕方でさえ静かで。


 あ、でも死んだ鼎は魔術師だった。


 魔術師は円滑に活動する為にあまり人とは関わらない。もしかすると、他人へ無関心になるような暗示がかけられていた可能性だってある。


 一々暗示を気にしなくちゃいけない梅見ヶ丘。一度気になると東京にありながらもめちゃくちゃきな臭い街だな。


 前世を思い出して、そういった精神に作用する魔術が解けているのかもしれない。何かと今まで気にならなかった違和感が引っかかるように感じているのだ。


 一方、隣の魔法使いは精神干渉といった攻撃は全て無効化出来るらしく暗示をさして脅威とも思っていないようだ。ただ、暗示にはかからずとも一般的な常識が欠如しているせいで日常の違和感に気が付けないのだが。


 魔力の流れが急に変わったりあからさまにおかしい場所なんかは探知出来るんだけど、そもそもテールは地球において()()がわからないのだ。

 本人が不思議に思ったとしても、俺に魔力がなんちゃらと聞かれたってわからない。


 実家の近所で不思議な魔力があると指差された場所は神社だったりはしたが、俺には清浄な雰囲気すら感じなかった。

 よってテールがあてになるのは純粋な力だけだ。


「帰ったらまた黄粉餅が食べたいぞ。それに炬燵を導入する予定はないのか?」

「日本文化に染まんのが早すぎだろ。あと炬燵の導入予定はねぇ。ダメ人間になるからな」


 帰ったらちょうど昼時だし、実家から持たされた餅を湯掻いてもいいだろう。


 黄粉でも醤油でも善哉でも。日持ちもするし何をかけても美味しくて便利だ。

 既にテールは黄粉砂糖の気分のようで心なしか早足になっている。


「ちょっと君達! もしかしてここの住民ですか?」


 エントランスに差し掛かったところで見知らぬスーツを着た男に声をかけられた。


 七三分けの髪に分厚い瓶底眼鏡。20代中ごろにも見えるし30代後半にも見える。


「何だ貴様は」

「貴様って……いえ、僕はこういうものです」


 若干警戒したようなテールであるが、無理もない。明らかに怪しい。

 その自覚がるのか朗らかに笑いながらも名刺が差し出された。


【月刊オカルトサーチ編集部ライター 干上(ほしがみ) 利世(かがせ)


 ――月刊オカルトサーチ。知ってる雑誌だ。それも前世の知識で。


 怪異や魔術師が起こした事件を取り上げる狂言回しとして作中でも何度か登場していた。


「日本中の不思議な事件を紹介してる雑誌ですよね」

「知ってくれてるなんて嬉しいなぁ」

「そのライターさんがなんで? 鼎さんか窓の顔についてだったりします?」


 薄々理由はわかってるんだけど。実はコクーンハイツ梅見ヶ丘はその界隈ではちょっとした心霊スポットとして名を馳せていたらしい。


 黒い靄の怪異について手掛かりがないのか検索してみるといくつか情報が寄せられていたのだ。窓に顔が映っていただとかそんなものが。


 マンションの名前こそぼかされていたけど、特徴のある構造と立地からしてウチの家だった。最初から知ってたら別の家を借りていたと思う。


 そんな心霊マンションと今回の死亡事件。こういう雑誌なら取り上げもするだろう。

 外傷の見当たらない遺体についてニュースの続報は無い。好き勝手書くには今が好機だ。


「わぁ、話が早いね。そうなんですよ。取材内容は両方です」

「他の人からは何か聞けたんですか? 俺たちも実家から今帰ったばかりで事件についてはよく知りませんよ」

「些細なことでもいいんです。取材をしようにも、そもそもここの住民ってあまり居ないみたいで。やっと見つけても無視されちゃったり」


 話を聞いてくれそうなのがもう君達だけなんですよ、と干上さんはため息を付いた。


「という訳で取材してもいいですか」

「ならぬ。寒いし帰るぞ、トウヤ」


 ここはテールの意見に賛成だ。

 こういう緩やかに押しが強い人、断り辛くて苦手だったからはっきりと言ってくれて助かる。


 姉ちゃんの荷造りもあるし、あまり時間を使いたくは無いんだよ。


「謝礼は焼肉食べ放題でどうかな?」

「そのようなもので――」


 お願いします。テールが何かを言う前に俺は身を乗り出していた。


「本当に知っていることだけ話すのでいいんですよね」

「もちろん。住民から直接話を聞いたって事実が大切なんですよ」

「おい、トウヤ」


 他人で食べる焼肉に憧れてたんだから仕方がないだろ。


「岡町灯夜です。よろしくお願いします」

 

 荷物だけ部屋に置いて、干上さんの取材を受けることにした。焼肉食べ放題なんて普段は行く機会が無いんだから思いっきり食べないと。

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