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未決裁の強行

 翌朝は雪が降った。

 村のお天気魔法屋さんは、確かに雪だと言っていた。ゴタゴタがあって、ソニアたちはすっかり忘れていたのだ。

 

 ソニアは、ベッドの上で目が覚める。

 もちろん、それはリックの部屋の、リックのベッドの上。


 ──ほんとやばい。

 リック、私がこの姿になってから、生前以上に私のカラダを狂ったように求める。

 朝になるともうフラフラだ。

 リックったら、満足げにスヤスヤしちゃって……私、まだ体中が痺れて、ろくに動けないよ……。


 うおお、と声を出して気合を入れ、なんとかベッドから起き上がる。

 ようやく上半身を起こし、窓の向こうでしんしんと降る雪を眺めてから、リックの寝顔を眺める。


 付き合えたわけではないが、二人の関係は良好だった。

 こうして毎日、リックに愛してもらえる。

 こんな日が続くのなら、これはこれで、そんなに悪くはない……とソニアは思っていた。


「……おはよ。元気?」


 目覚めたリックがこんなふうに言うのは、昨夜のソニアの様子を見ているからだろう。

 きっと、相当へばっていたに違いない。だって、記憶が途切れ途切れなのだから。

 気持ちいいのは嬉しい限りだが、愛された記憶がぶつ切りなのはいかがなものかと思い、ため息をく。


「元気です。余計なお世話ですっ」


 リックの言葉は、へばったソニアを揶揄やゆったものだったろうから、こう返してやった。リックは、ニヒヒ、と意地悪そうな笑顔を作って、ソニアのお腹をさすった。

 

 ともかく今日は、リックは忙しいはずだ。

 トニーとニコに声をかけ、集まって、今後の対応を話し合わなければならないのだ。

 交換期限の一ヶ月というのは、あくまで効力の完全消失までの期間であって、残り三ヶ月程度を越えたあたりから、魔界石の効力は徐々に減衰していくはずだった。すなわち、一刻の猶予も無いのだ。

 リックもベッドで上半身を起こし、首をくるくる回しながら呟く。


「ふう。なんか体がだるいね」

 

 当然だろう。何回してる(・・・)と思っているのか。ソニアなど、とっくにヘロヘロだ。

 だからソニアは目を細めてリックを眺めてやったが、リックはそれに気づくこともなかった。


「とりあえず、僕がまず食堂に行くよ。クララが居たら、また厄介なことになる。クララとは時間をズラそう」

「そうですね」


 それは、ソニアも賛成だった。

 もう、兄弟同士であんなふうに喧嘩をしてほしくなかった。

 

 ソニアは部屋の中で立って、サリーに言われた通り「服を着たい!」と念じる。

 そこへ、先に部屋を出て食堂を確認してきたリックが帰ってきた。

 

「大丈夫だ。クララは、もう出掛けたらしい」

「そうなの? どこへ行ったんですか」

「さあ。あんな奴がどこへ行こうが、僕の知ったことじゃ──」


 ソニアは、リックの口に人差し指を押し当てて、じっと見つめる。

 小さく首を横に振り、彼の考えが口から出てしまわないように促した。

 リックは少しだけ目を見開いたようにする。

 それから、ソニアの手に自分の手を添え、そっとキスをした。


「……わかったよ。そうだね。今のが、今までの僕だ。これからは──」


 ソニアは微笑み、リックに抱きつき、リックの肩に自分の顎を乗せて、体重を預ける。

「重っ」というリックの呻きが聞こえたが、ソニアはふふ、と笑ってリックの手を握る。

 もう一度、今度は唇にキスをして、一緒に部屋を出た。


◾️ ◾️ ◾️


 食事を終え、リックとソニアは家を出た。

 トニーとニコの家を回って、二人と会わなければならない。

 まずはトニーの家へ行こうと歩いていたリックとソニアの前に、数人の村人が集まっているのが見えた。


「……なんだ?」

「さあ……どうしたんでしょうね」


 いつもなら、これに興味を惹かれることもなく立ち去っていただろう。

 だが、リックは迷っているようだった。


 ソニアは、いい傾向だと思った。こんな小さな集落で人が集まっているのは、何か問題が発生している場合だって考えられるのだ。村の筆頭ネクロマンサーたる者が、全く無視して立ち去るのは、適切とはいえなかった。

 

 やがて、リックは決心したように、その人だかりの方へ歩き出す。

 ソニアは、微笑みながら、その後をついて行った。

 リックは、集団に声をかける。


「どうした? 何かあったか」

「リックさん。……いや、なんでも」


 集まっていたのは、村の戦士たちだった。

 死霊秘術を使う、この村を護る戦士だ。

 だが、戦士たちは、リックに事情を話そうとはしなかった。


 リックは、少しだけためらっていた。

 ソニアに助け舟を求める。

 ソニアは、意思を込めて、強く頷いてやった。

 リックは、眉を引き上げて、視線をあちこちに飛ばしながらも、もう一度尋ねた。


「教えてくれ。もし困っているなら、俺がなんとかできるかもしれない」

「…………」


 戦士たちは、それぞれ互いに顔をうかがい合い、うつむく。

 一番前にいた戦士──この村のナンバー3の戦士が、代表して口を開いた。


「……ファビアンさんと、クララが……その。……魔界石を、壊しに」

「なんだって!?」

「まあ……どうせ結果的には『魔除けの守り』に移行するわけだから、早かれ遅かれ魔界石は役目を終えるわけだけど。リックさんの目を覚まさせるには、今すぐ壊してしまった方がいいだろう、って言って。でも、ここであえて壊してしまうのは、みんなも、さすがにどうなんだろう、って……。正確にはまだ村長の決裁が取れたわけでもないのに──」

「どこだ!! どこへ行った!!」


 戦士たちは、予想もしていなかったらしいリックの激しいリアクションを受けて、驚いたように後ずさる。

 

「えっと。……昨日、リックさんたちが取り替えたやつだと思──」


 リックは、話を最後まで聞かずに走り出していた。

 すぐに詠唱し、体を浮かせてソニアとともに浮遊飛行する。

 

 ──二人がいつ出発したのか、わからない。

 急がないと! でも、滑落しないように、ルートも高度も守って飛ばないと──。

 どうか、間に合って──……


 まだるっこしい思いを胸に、必死で浮遊術を操作するリックを見る。

 目の前に迫る岩稜帯を間一髪で回避しながら、最悪落ちても死なないレベルの、最低限の安全を確保したルートで思いっきり飛ばしていく。

 普通にいけば二〇分間はかかるこのルートを、リックは一〇分間で飛び抜けた。

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