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旅人

「さあ、寄合を始めよう。まずは、お忙しい中、集まってもらって感謝する。この村が平和を享受できるのも、ひとえにみなさんの努力の賜物だ。その平和は、強靭な戦士である死霊秘術師と、この村の役人の努力、そして村民の協力によって成り立っている。まずは、日頃のご尽力に感謝したい」


 村長は、挨拶を始めた。

 いつも寄合が開宴・・されるこの集会所は、なかなか良い装飾が施されていた。

 この長細い部屋は、片側は廊下に面しているが、もう片方は全て窓になっていて、かつ、平屋建てばかりのこの村にあって、唯一、二階に位置しているので、村の景色を容易たやすく望むことができる。

 リックは、村長の話などに何の興味もないので、寄合がある時はいつも、挨拶が終わるまでの間、ずっと窓から見える景色を眺めている、といつも言っていた。


 だが、今日は、そうはしなかった。

 なぜなら、村長のさらに上座、テーブルから外れた位置に、一人の女性が椅子をあてがわれて座っていたからだ。


 リックは、その女性をじっと観察しているようだった。

 リック越しに見る彼女は、綺麗な栗色の髪をしていて、とても可愛らしい顔をしていた。

 いったいいくつくらいだろう、と見つめながら考えるが、年齢がよくわからない。

 肌の具合からすると二十代前半だろうか。

  

 あまりに見つめていたからなのか、その女性はリックへと視線を向け、そしてにっこり微笑んだ。

 笑顔になると堪らなく愛らしい顔。女性のソニアでさえそう思うのだから、今、リックはどんな気持ちなのだろう。


「さあ、今日の会議を始める前に、まず、今、この村を訪れている旅人の方を紹介しよう。サリー・ベーカーさんだ」


 女性は、スッと椅子から立ち上がった。

 両手をお腹の前で組んで、綺麗に腰から上半身を折って礼をする。


「ご紹介にあがりました、サリーです。私はここからは少し遠い国から来ました。本が大好きで、それはまあ、知識を愛しているからですが……それが高じて、お休みを頂くと、こうして異国を旅して知識を増やすことを趣味にしております。この村は死霊秘術が有名で、どこよりも優れていると伺いました。ぜひその知識を勉強したく、参りました。よろしくお願いいたします」


 サリーは、また頭を下げる。

 ファビアンは、口を挟むように言った。


「それはそれは、お目が高い。その通り、この村の戦士は下界の死霊秘術師とは比べものにならないと思うぜ。なかなか目の付け所がいい。ぜひ、勉強していってくれ」

 

 いつもの尊大な態度そのままにサリーへ自慢げに言い放つ。

 サリーはニコッとして、椅子に座った。


「遠路はるばるこんな山間部の村まで来ていただいたのだ。この村の良さを、できるだけ知っていただいて、勉強していただくのが良いだろう。そうだな。まず──この村の筆頭ネクロマンサーであるリックに、サリー殿の案内をお任せしよう。宿はこちらで用意するから、リック、心配せずに色々教えてやってくれ」

「えっ……と。僕ですか?」

「そりゃそうだろう。お前がトップなんだ。これ以上の適任はおるまい」

「村長。リックは他人になど興味のない奴です。力はある程度認めるが、上に立つ者としては半人前だ。客人の案内は、この俺の方が適切だと思いますよ」


 いちいちリックをコケにしながら話を進めるファビアンに、ソニアはイライラしていた。

 だが、確かにファビアンの言う通り、リックが客人の案内などしたがるとは思えない。

 だから、ソニアは黙っていた。


「……ええ。それで結構です」


 ソニアが想定した通り、リックはファビアンに案内人の役目を譲る。

 

「よし、まあファビアンも次点の死霊秘術師だ。この村の死霊秘術師の実力を見てもらうのに、何の遜色もあるまい。さあ、では会議に移ろうか」


 リックは、またサリーのことを見る。

 どうしてだろうか、リックは、彼女のことが何か気になっているようだった。

 原因は、あの愛嬌のある可愛らしい顔だろうか……。

 

 リックが見つめると、サリーはまた見つめ返してきた。

 ソニアは、リックの真後ろから見ていて、リックの頭の向きでそれがよくわかったので、もう限界が来て、ムッとしながらリックの肩を揉む。


「いてててて。なんだよっ」

「なんでもないです」


 サリーは、ソニアのことも見つめて、にっこりと笑顔を作った。

 

◾️ ◾️ ◾️


 会議が終わり、宴会が始まる。

 サリーは村長の隣に座り、この村の成り立ちなんかをずっと聞かされていた。

 酔っているから、同じ話がしつこく何回も繰り返されるのだ。

 ようやく村長の話が一区切りしたと思うと、そこでリックがサリーに質問をした。


「それにしても、こんな山間部にある村に来るのは大変だったでしょう。まともな道は無いから魔法が使えない人は登って来られないし、途中には、下界とは比べ物にならないほどに強力な魔物もいる。サリーさんは、魔術師ですか? いったい、どうやってここへ来られたんですか?」


 サリーは、その姿にたがわない、可愛らしい声で答える。


「ええ、私は魔術師です。本業は、蔵書室の主任担当をしておりまして。役に立つか立たないかは別として、知識を溜め込むのが趣味なものですから、いつの間にかさまざまな魔法を使えるようになっておりました。その中には、魔除けのお守りに魔力を込めて置いておくだけで、魔物を領域内に立ち入らせない魔術などもあって」

「ほう! そんな魔法があるのですか」


 ファビアンが食いついた。

 

「ええ。まあ、その効力は術者の魔法力に左右されるのですが……」

「いえね、この村は、魔物から村を護るために、村の外に魔界石と呼ばれる石を配置して、多重結界を張っているのですよ。でもね、魔界石は一定周期で交換しないと効力がなくなるので、交換作業が大変でねぇ。その魔術は、どこにお守りを置いておくのですか」

「村の真ん中に一つ置いておくだけで効力を発揮します」

「これは、すごい知識ですな。もしかすると、今後はそれで良いかもしれない」

「ファビアン。やめろ」

「何だリック。だいたいな、お前の親父も、そこのソニアも、その魔界石を作るための原材料『賢者の石』を取りに行って滑落死したんだろ」

「滑落死? 賢者の石は、浮遊術が使えないところにあるのですか?」

「そうなんですよ。賢者の石があるあたりは、なぜか魔力が安定的に引き出せない、魔力が不安定になる区域でね。そこで浮遊術が切れて、二人は亡くなりました。まあ、ソニアはなんとか発見してアンデッド化し、こうしてリックが飼ってますが……父親の方はついに見つからずじまいでね」


 リックは表情を固くした。

 ソニアには、その理由がわかっていた。

 ソニアのことはともかく、父親のことは悲しい思い出で、亡くなった時には、リックは部屋で塞ぎ込んで泣き続けた。ソニアはその間、ずっとリックのそばにいて慰めたからよくわかっていた。

 思い出したくもないのだ。やっと忘れてきたところだったのに。

 ソニアは、このままファビアンをぶん殴ってやろうかと思った。


「リックよ。なんだったら、お前こそが、この結界をもっと良くするために動かなければならない立場なんじゃないのか。これ以上の犠牲者を出さないためにな」

「…………」

「ファビアン。やめてください」


 ソニアは、もう我慢がならなかった。

 ぶん殴りはしなかったが、殺意のある目で睨んでやった。

 それに呼応したのはドレイク。ソニアに向かって、これから戦闘でも始めるかのような目つきで睨み返してきた。


「……やめろ。ソニア」

「でも! リック、もうこれ以上──」

「大丈夫だ。僕は」

「…………」


 ニヤニヤするファビアンの顔が、ソニアの感情を逆立てていく。

 だが、リックがやめろと言った。

 ソニアは目を閉じ、何秒かを我慢して怒りの感情を鎮めようと努力した。


「そうなんですね……この村の結界は、それほど効力の高いものなのでしょうか。いったい、どのような仕組みなのですか?」


 サリーは、興味津々と言った様子で尋ねてきた。

 この時、初めてソニアは、サリーに不快感を抱いた。

「やめてください」というセリフは、リックのことを傷つけるなという意味で言ったのだ。

 それをこの女は、自分の知識欲を満たすために、ズケズケと話を続けようとする。

 同じく、リックの心をズタズタにしてやろうという気概で溢れるファビアンは、サリーの質問に嬉々として答える。


「ええ。賢者の石から作った魔界石を、村を囲むようにして、八角形を描くように配置します。これが配置完了した時点で、どんな魔物も立ち入ることのできない多重結界が完成します。

 この魔界石は結界内にあるので、外部から破壊することはできません。唯一の弱点は、そのうち一つでも破壊されれば、全結界が消失することでね。

 だから、魔界石の交換作業は、俺たち魔術師が結界石の代わりとなって魔力を放出し、その間に交換するんですよ。

 一つ一つそれをやらなきゃならないから、また面倒でねぇ。今年はその交換作業の年なんですがね、もうすぐその時期が迫ってるんですよ」


 もう、この場から立ち去った方がいいと思った。

 ソニアは、リックへ耳打ちする。


「もう、帰りましょう」

「……ああ。ありがとう。僕も、そうしたい」


 リックは静かに席を立ち、村長に挨拶をすると、ソニアとともに集会所を出た。

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