リーダーの務め
強力な魔法を使うには、イマジネーション力と念力が肝になる。
少しでも気を抜けば魔術の質は落ちるから、この二つを極限まで高めるのは相当に集中力を要する。
その上、戦いが終わったジルに復元魔法を掛け、ついでに新たな仲間となったジャミルとソニアにも掛けていたので、レオはちょっとお疲れ気味だった。
お腹が減っていたようだったが、ティナが作ってきてくれたサンドイッチはお腹が満杯だったにもかかわらずさっき食べ切ってしまっていたから、仕方なく飲食店にでも入ることにした。
ジルやサルバドールと別れ、新たに結成したパーティーメンバーと迷路のような石畳の路地を下りながら、レオは母へと提案する。
「ねえ、仲間も得たことだし、準備ができたらアルテリアを攻める段取りでも考えようか」
「うん……でもね、ちょっとだけ待ってほしい」
レオは、眉間に少しだけシワを作って難色を示す。
「早くしないと、助かるものも助からなくなるよ?」
「そうなんだけどね。このゾンピアには、『アブドラ』っていう凄腕の杖職人がいるらしいんだ。レオもあたしも杖がないから、決戦に向けて杖を作ってもらう必要があるんじゃないかと思ってさ」
「そうなんだ? それはいい考えだね。折れない杖を作ってくれたらいいんだけど」
「そういやあんた、どうやって杖なんて折ったの? まさか踏んだりしたんじゃないでしょうね?」
「違うよ。魔法をガンガン使ってたら、バキッ! って派手な音が鳴って」
一瞬、言葉を失う。
確かにレオに与えたのは子供用だった。
でも、だからといって、物理的外力が加わったのでもないのに、魔法力を込めただけで折れるなんて、そんな話、聞いたこともなかった。
それもそのはず、杖は魔法力を込めるために──むしろそれを増幅させるために造られたものなのだから。
だが、当然のことながら、城を脱出してからのレオを見てきたアイリスは、何の疑いもなくこの話を信じることができた。
世界最高の大魔導師と対等に張り合うほどのレオの魔法力を受け止めるには、子供用の杖では荷が重すぎるのだ。
「だいたいさ。多重魔法剣なんて、一体いつ覚えたの?」
「まあ……子供が好きそうな伝説の魔術は、魔術に力を入れる我がアルテリアの蔵書室にはボチボチ転がってるんだよ」
「あのね。浮遊術も覚えてなかったのに、どうして先にこんな魔術覚えるかな」
「でも、役に立ったでしょ? ほら、何度も言うけど、どんな武器が自分に必要か──」
「……その武器をどう使ったら生き残れるかを判断し、決断するための知識と知恵こそが、最も大事なんでしょ? わかったよ、もう耳タコだ」
──だけど、仮にそう思っていたとして、伝説の魔術を実際に使おうなんて普通は考えない。
なぜなら、到底使えないことは明白だから。
ってか、その観点からしても浮遊術は必要だと思うけど。
「で? その杖師は、どこにいるの。僕、もうこれ以上歩きたくないんだけど。そろそろ飛んでいい?」
「だから体を鍛えろって言ってんの。……この街の変装魔法を一手に担っている変装魔法屋『メタモン』の店主が、そうらしいんだ」
「じゃあ、ご飯食べたら、その人を探そっか」
「それがね……」
表情を暗くするアイリスに、レオは首を傾げる。
「どうしたのさ?」
「どこにいるか、わからないんだよね……」
「どうして? だって、アブドラが杖職人だってことは、誰かに教えてもらったんでしょ? その人、教えてくれなかったの?」
「教えてもらったんだけどね。『いくら探しても見つからないけど、どこにでもいる』みたいな、トンチみたいなことを言われちゃって」
レオは、腕を組んで、う〜ん、と唸り始めた。
「さっぱりわからん。ってかさ、サルバドールに聞こうよ。あの人は市長だし、今なら好意的に教えてくれそうじゃない?」
「だね! ……あ、レオ、ここに喫茶店あるよ」
カランカラン、とアイリスが好きな乾いた音を響かせながらドアを開けて店内に入る。
いらっしゃいませ、と可愛い店員の声が聞こえ、反射的に目を向けるとその声に違わない可愛い店員が迎えてくれた。
黒い髪をしたセミロングの女の子。
頭に耳はついていない。尻尾もない。もしかしたら、このウエイトレスは人間か──もしくは人間のアンデッドなのかもしれない。
レオは、席に案内されるまでの間、その女の子をチラチラ見ていた。
アイリスは、レオを後ろからツンツンする。
「あの子、レオの好み?」
「しっ! ちょっと、もう! ……聞こえちゃうでしょ、そんなこと言わないで」
歯を剥き出してニヤニヤするアイリスに、レオは声を極限まで抑えて必死に抗議する。
「九人」はカフェに入るには大所帯だったから、三人・二人・四人に別れて座る。
アイリスは、リックたちのテーブルのほうへ目をやった。
店内は割と混んでいて、少しだけ離れた席にリックたちは案内されていたのだった。
「ねえ、それにしても、あの人たちの恋愛模様はどうなってんだろうね」
「……ったく、お母さんは相変わらずそういうのが好きだよね」
「え〜〜。だって、面白いじゃない! ジャミルとソニア、ぜぇーったい、付き合ってるって!」
レオは、テーブルに注文をとりに来たさっきのウエイトレスの顔をチラチラ見ていた。
もはや好みのタイプであることは間違いないだろう。
「女の子に心を持って行かれたりしない」なんてイキがって宣言していたが、レオと一緒にいて観察している限り、ひっきりなしに持って行かれている。
リュカは他の女に視線をやることなどなく、アイリスの手をとってスリスリしたり、黒く美しい髪を指でくるくる巻いて遊んだりして常にアイリスに触れていた。胸を触ろうとしてきたので「こらっ」と叱る。
レオは、こういう会話の先が見えないのか質問してきた。
「で? だから何なの?」
「だからさぁ、ちょっと証拠を掴みたいなあ、なんて思ったり」
「どうやって?」
「自由行動にしてさ。あとをつけてみない?」
悪趣味な母の提案に、レオは口を開けたまま言葉も出ない。
「何考えてんのさ。誰が誰と付き合ったって、いいじゃないか」
「じゃあ、リックとティナは? 気にならない? もしかしたら、あの二人も付き合ってるかもしれないよ」
レオは、テーブルに頬杖をつきながら呆れて言った。
「そんなわけないよ。だって、ずっとケンカしてるじゃない」
「わかってないなぁ。あっちのほうこそフラグ立ってる、ってやつじゃん」
「…………」
レオは、ティナのほうをじっと見る。
まばたきが増えて、明らかに動揺していた。
何やら悩んでいるようだ。アイリスの見込み通り、やっぱりティナのことは気になっている。
レオの心理を見通せた快感で、アイリスは思わず口元を緩める。
てか、こいつ結構八方美人だな、と、女の子に目移りするレオを好奇の目で観察するアイリス。
リュカは、知らぬ間にアイリスの太ももをさすっていた。
アイリスは、なんか体がフワフワしてくる。
「……ま、パーティメンバーの事情を把握するのもリーダーの務めだし」
とうとう、レオは強引にこじつける。
レオを堕としたアイリスは、ニヤッとした。




