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剣聖は一五歳のまま

「お前の話が本当だとして、」


 リックは、レオが話す言葉に圧倒されてしばらく固まっていたが、数秒の時がその凍結を溶かしたらしく、ようやく口を開いた。


「そうだと仮定すると、頼みの綱はお前の親父さん、ってことになる。だが、さっきからお前の親父さんは料理にしか興味がないようだぞ。はっきり言って、お前の話は何もかもが胡散臭い!」


 レオは、あ〜あ、といった感じで呆れた顔をしながら背もたれに体重を預ける。


「ほらぁ、お父さん? ちゃんとしてよ。リックが信じられないってさ」

「仕方がないな。俺は前からこうだ」

「そんなこと言ってもさぁ。最初に言ったでしょ、僕らには仲間が必要なんだよ。大事なところなんだからさ、しっかりやってよ!」


 十歳のリーダーに説教される聖騎士団長兼剣聖。

 アイリスは、もちろんリュカがこういう人間だと前から知っている。

 聖騎士たちの前ではピリッとしているのだが、家に帰ってくると言葉遣いとか声の調子がガラッと変わるのだ。

 アイリスの前ではデレデレしてラブラブしちゃう、愛すべき人。

 敵を前にした時に出現する隙のない戦闘モードとのギャップが、アイリスには堪らないのだった。

 

 ティナは、リックばかりが喋っていたので、隣にいるアイリスの体を掴んで自分も喋ろうとする。


「ねえ! ってことは、あたしたちも、あなたたちの助太刀したら、マキアを護れる、ってこと?」

「そうだよ。一石二鳥じゃねえか。スッキリだ、何も問題ねえな!」


 ジャミルとティナは、難しいことを考えるのが苦手なコンビらしい。

 二人ともこうだから、きっと今まで気持ちだけで行き当たりばったりに進んできたに違いない、とアイリスは思った。


 とりあえず、二人は結論だけを求めてきた。

 レオは、ええ、まあそうですね、と気の入っていない声で回答していた。

 そんなティナとジャミルに、リックは軽蔑の念をパンパンに込めた視線を突き刺す。


「バカは幸せでいいな。事はそんな単純じゃないだろ」

「はあ? あんた、いつまであたしたちのこと、バカにしてるわけ? 同じ境遇だし同郷なんだから、もうちょっと優しく──違った。仲間意識・・・・を持って接してもいいんじゃないの?」

「バカだからバカって言ったんだ。大将を倒すって、そんな簡単な問題じゃない。『魔王軍の大将』は何人かいるが、歴史上、ごくたまに勇者によって倒されて入れ替わってるんだ。でもな、死霊軍の大将は、いまだかつて一度たりとも倒せたという記録がない。わかるか? 本来、人間ごときがいくら強くたって、到底敵う存在じゃないんだ!」

「なにその言い草、あんたは魔王軍のファンなわけ? じゃあ、ここで諦めるっての? そんな程度の気持ちなら、最初からミスリルソードなんて追い求めんじゃないわよ! さっさとあたしたちに譲って、引っ込んでなさいよっ!」

「武将クラスだってとんでもなく強いんだ、大将なんて簡単に倒せると思ってるお前らがバカだって言いたかっただけだバカ!」

「どうせ、大将が相手になるって聞いた途端にビビったんでしょ!」

「自警団ごときにビビって小便漏らした奴が──」

「ああ────っっっっ、前のこと掘り返した!! そういうネチっこいやつはモテないんだよ、どうせ嫌われ者だったでしょ、村でも!!」

「おっ、おっ、俺は一人が好きなだけなんだっ! だっ、断じて仲間外れなんかじゃ──」

「ほぉら動揺した!! 仲間外れなんだ! そんな口の聞き方ばっかしてるからそうなるんだっ」

「このっ、」


 とうとう、空になった皿を飛び交わせるほどに喧嘩をし始める。

 冷静だったリックが、もう必死で声を張り上げて叫んでいた。


 ついに「表に出ろ」と言い始める。

 アイリスは必死に止めなければならなくなってしまった。

 皿の割れる音を聞くたびにお店の店員は困り顔を深め、リックとティナを眺めていた。

 いい加減に止めないと店から出禁を言い渡されてしまいそうだったので、レオはお店の人をなだめる。


 店内が超絶騒がしくなる中、ジャミルとソニアは椅子に座ったまま普通に話をしていた。

 ジャミルは、立ち上がってティナと争っているリックの席に座り、ソニアの隣をちゃっかり確保する。

 アイリスは、その会話内容に聞き耳を立てた。


「ほんと、ご主人様たちは困ったモンだよな。

 なあソニア、剣はお前に譲ってもいいよ。本当に大将を倒せるなら確かに問題ないが、レオたちと絶対これからも一緒に行動するとは限らないし、最悪、やっぱり俺たちだけでドラゴニュートと戦わないといけなくなるかもしれないし。

 でも、さっきのレオの話は、結構、的を射ていると思ってんだ俺は。なんとなく、ドラゴニュートを倒せばマキアを襲うアンデッドも引き揚げる気がすんだ。だからさ、レオと一緒に行こう。俺たちは同郷だからさ、一緒に戦おうぜ。俺は手伝うよ。ソニアとリックのことを」

「ジャミル……。ありがとう」


 心なしか、頬が紅潮しているように見えるソニア。


 ──あれ? 

 恋が生まれてる?


 なんか、二人の距離が近い。

 見つめ合う表情が、二人とも──いやもう、これは間違いないな。

 うーん。やっぱり、なぜかアンデッド同士は恋愛がうまく運んでいる気がする。

 レオも、リックも、ティナも。

 なんで生きてる人たちは、うまくいかないんだろうねぇ。

 いや、リックとティナは、あれはあれで案外……。

 おっ!? すると、またレオは一人だけ──


「お母さん。なんか、納得いかないことを考えてる気がするんだけど」


 どきっ、として飛び上がったアイリスは、胸の前で小さく両手を振った。

 

「……な訳ないよ! 大丈夫、大丈夫!」

「何が大丈夫なんだか」


 レオに目を細められる。

 ようやく、落ち着いたリックとティナは、自分の席に着く。

 リックに尻で椅子を追い出されたジャミルも、渋々自分の席に着いた。

 ようやく落ち着きを取り戻しつつあるお客たちを横目で見ながら、ホッとした表情で料理を運ぶ店員たち。

 エリナとラウルは、イチャイチャしながら知らぬ間に自分たちだけの世界へ入っていた。

 レオは、リュカに声をかける。


「ねえ。ところでお父さん、ちょっと提案なんだけど」

「なんだ?」

「あの自警団の人──『ジルベルト』だっけ? あの人も、仲間にしたいんだけどさ」


 ばあん! と大きな音が鳴って、赤いオーラが舞い散った。

 一瞬、何かが爆発したかと思った。一同は、びっくりして席から転げ落ちていた。

 リュカは、まるで全闘気を放出したかのように紅蓮の魔素オーラを噴出させる。


「なんだと!?」

「いやっ……待って待って。落ち着いて」

「これが落ち着いていられるか。アイリスに手を出す奴は、何人たりとも生かしてはおかん!! 市長の顔に免じて、あの場は見逃してやっただけだ。次に会った時には、二度と日の光を拝めんように八つ裂きにしてやるわ!!」


 殺意と狂気を丸出しにする剣聖。

 昔から、アイリスのことになると一切の手加減がない。

 

「ちょっと話を聞いてよ。リルルのそばにいた、悪魔剣士の相手をね……」

「あんな奴の手を借りる必要はない! 俺が皆殺しにしてやる、大丈夫だっ!!」


 リックたちはすっかり争いを止め、床に尻と両手をついて、唖然としながらリュカを見つめていた。

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