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仲間

「はっ。……はは。こいつ、何言ってんの?」


 リックは笑いながら周りを見渡して言ったが、その目は笑っていなかった。

 アイリスは一応真面目に話を聞いていたが、リュカは料理を味わっていて、話など聞いてもいない様子だった。

 ラウルは、リックへ諭すように言う。


「リックさん、きっとレオの言ってることは間違いないと思うよ。僕はその場にいたわけじゃないけど……少なくとも、彼らは僕とエリナの前で、魔王死霊軍の武将を一人倒した」


 リックが目を見開く。

 その目に、みるみるうちに涙が溜まった。

 視線をあちこちに飛ばし、涙をぬぐい、それでも流れ落ちた涙がテーブルに雫の跡をつける。


「……嘘つけ。嘘に決まってる」


 リックは、そう言って、涙を拭きながら椅子に座ってうつむいた。


 それと入れ替わりにソニアは立ち上がり、テーブルに手をつき、レオを凝視した。

 テーブルクロスを鷲掴んだ拍子に食器がガチャンと音を立てる。

 ソニアは、リックと同じく目を見張って言った。


「一つだけ教えて。どうしてそんなことができるの? あなたは──」

「僕はただの子供だよ。そんな力があるなんて、思ってもいなかった。でも……」

 

 きっと、父と母を殺されたことで、レオは潜在能力が開花したのだろう。

 確かに、もとから才能はあった。

 シワ一つに至るまで、本物の人間としか思えないほどの変装魔法。

 それが、両親の死を目の当たりにしたことで、引き出せる魔法力と魔素変換率に関わる念力が爆発的に高まり、リルルの魔法力を弾いたのだ。


「……大切な人たちを取り戻したいって気持ちは、きっと強いんだよ」

「…………そうね」


 大した回答になっていない。何の根拠も示してはいない。

 でも、ソニアは、しばらくレオを見つめてから、何か納得したような顔をして席に座った。


 どうやら真剣な話も落ち着いてきたようなので、リュカと同じく、アイリスもそろそろ「食事を楽しむモード」に移行しようかな、とウキウキする。

 レオは、主旨を忘れて食事を楽しもうとする親を横目に見ながら、親に代わってリーダーらしく話をした。


「それに……たぶん、なんだけどね。ティナの国を襲っているアンデッドと、リックの村を滅ぼしたアンデッドは、無関係じゃない。だから、僕たちは同じ目的に向かって手を組んでもいいんじゃないかと思うんだよ」

「は……はぁ? 何でだ? どうしてそう言い切れる?」


 涙を拭って、リックが言った。


「魔王軍のアンデッドは、全て大将リルルの指揮下で動いているはずだ。武将がイデアを襲撃し、先に死霊秘術師が大勢いる村を押さえたんだろ。だから、これから本格的にマキアを陥落させるための攻勢に出るはずだよ」


 レオは、前菜として出されたカルパッチョを口に放り込んだ。

 アイリスとリュカは、口に含むと溶けるように消える魔法料理を味わい、鼻に抜ける香りを十分に堪能していた。

 アイリスとリュカ、ラウルとエリナは、互いに顔を見合わせ、美味しいね、と小声で言い合って微笑み合う。レオは、眉間にシワを寄せてそんな仲間たちを一瞥した。

 食べていたのはアイリスたちだけで、四人の獣人たちは、料理に手をつけることもできず、レオの話を聞いていた。


「……じゃあ、これからマキアが? もう、時間が──」

「そ……それで? だから何なんだ?」


 ティナが頭を抱えながらうろたえる。

 リックは、慌てながら話の続きを促していた。

 レオは、座ったまま静かな声で回答する。


「僕たちがリルルと対峙した時、そのかたわらにはボスクラスのアンデッドが三匹いた。一匹はサイクロプス。一匹はドラゴニュート。最後の一人は悪魔剣士だ」


 リックとソニアが椅子をガタつかせる。

 その勢いで食器が音を立てた。


「そのドラゴニュートは、どんな奴だ。人型をベースにした竜人族か?」

「違う。完全にドラゴンだね。ドラゴン……というより、でっぷりと太ったトカゲのようだった。あれは『竜神族』だろう。身長は四メートル程度。魔王軍の黒い鎧を着ていて、光り輝く長い槍を持っていた。リルルの魔法力である緑色に両眼を光らせた、凶悪な人相の奴だったな」

「…………」


 リックは目を閉じて天井を仰ぐ。

 ソニアは歯を食いしばった。ギリっという音が、アイリスにも聞こえた。


「……大将と、三匹の強力な武将がついていて、それでもなお、お前らは逃げ切れたってのか?」

「うーん。その点については、お父さん、どう思う?」


 突然話を振られたリュカは、慌ててレオを見る。


「なんだ?」

「いやいや。話、聞いてあげてくれる? リルルと戦った時の話だよ。どんな感触だったか、って聞いてるの」

「厄介なのはリルルだけだろう。他の奴らは、まとめてかかってきても問題なかったな」


 リュカは、次に運ばれてきたスープを覗き込みながら、リックのほうなど見もしないで言った。

 

「……だってさ」


 レオは、両の手のひらを上に向けて、肩をすくめた。

 リックは、はは、と苦笑いする。


「それにね。ドラゴニュートの術者は、大将であるリルルで間違いないと思うよ。リルルの魔法力は緑色だ。ドラゴニュートの目の色からしてほぼ間違いない。リルルを倒せば、自然とドラゴニュートは死ぬ。つまり、マキア一帯を襲っているアンデッド軍の指揮官を殺せるんだ」


 レオは、ニヤッと口元を引き上げる。

 

「正直に言うよ。僕らも、仲間が欲しいんだ。今の話を総合すると、リルルのそばには武将クラスが三匹ついていたことになる。次に挑んだ時にも取り巻きが三匹かどうかはわからないけど……いずれにしても、いくらお父さんが強くても、このままじゃ勝てない。お父さんには、大将リルルとの一対一に専念してほしいんだ。だから、ドラゴニュート、サイクロプス、悪魔剣士を相手にできる仲間を、僕らは探してるんだ」

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