医務室での再会
お化け屋敷から帰ってきた三人は、思いの外、楽しそうにしていた。
レオは、アルテリアにいた時もアミューズメント的な施設なんかに連れていくことはなかったから、レオがこんなにはしゃいでいるのをアイリスは見たことがなかった。
「ねえ、お母さん、すごいんだよ! めっちゃリアルなゾンビでさあ……」
そりゃ、リアルだろう。だって本物なのだから。
話を聞いていると、リュカは瞬殺で一匹目を斬ったらしい。
お店の人にひどく怒られて、剣は入口に置くように、と注意されてしまったようだ。
しかも斬ったゾンビを弁償しろと言われたので、レオは復元魔法を披露した。それでやっとこさ許してもらったのだ。
「あっ! いた!」
医務室の入口で声がする。
見ると、ジャミル、ティナ、ソニア、リックが立っていた。
ティナは駆け寄ると、レオに抱きつく。
レオの両手を自分の両手で握って、顔をキラキラさせて言った。
「さっきはありがと! ジャミルくんの手、前と全然変わらず動くよ! レオ、本当にすごい。何級の魔術師なの?」
ティナは、紫のウェーブ掛かった長い髪の少女。
ジャミルが戦っていた時は入口の陰に隠れて不安そうにしていたが、こうして見ると勝ち気そうな女の子だ。
それに、今は少し興奮しているようで、テンションが高めだった。その証拠に、ティナの耳はひっきりなしにパタパタし、尻尾はフリフリしている。
レオは、顔を赤くしてカチカチに固まっていた。
エリナのほうをチラッと見て、何かを迷っているような印象だった。
──自分の心がエリナ以外に行ってないって、エリナに思わせたそうな顔だな……。
何を考えているのやら。何度も言うけどエリナはゾンビっすよ。
「あ、その。僕、まだ認定を受けてなくて──」
「受けてない!?」
一同が驚きに包まれる。
勝ち気で気の強そうなジャミルが、呆気に取られたように口を開けていた。
「認定魔術師ですらないのに、このレベルの復元ができるってのか?」
こういう反応はもう見飽きていた。
レオはまだ一〇歳。
認定が受けられる一二歳まではまだ二年もある。それに比べてレオの魔法力は、すでに認定を受けるどころか一級魔術師ですら遥かに凌ぐ破格のレベルに到達している。
ただ、認定を受けるには、さまざまな分野の魔術を浅く広く覚えている必要があるので、攻撃魔法を得意とせず偏った才能を発揮するレオは、もう少し苦手分野を克服する勉強が必要だとアイリスは考えていた。
認定試験は、得意分野特化型の試験ではないのだ。また、そういう特別待遇も存在しない。
認定魔術師である限りは、さまざまな仕事を請け負う可能性がある。
その基礎となる魔術操作は、最低限、一通りマスターしていることが大事だというのが認定試験の考え方なのだ。
「それはそうと、どうしたの? どうしてここに?」
「うん。えっと……もし良かったらなんだけどね、みんなで夕ご飯でも一緒にどうかな、と思って」
ティナは、モジモジしながら言う。
アイリスは、こんなふうに誘ってもらえるのがすごく嬉しかった。
リュカとレオに目配せする。
二人は、快く頭を縦に振った。
「うん、いいよ、大歓迎だよ! でも、どういうお店に行くの? ティナと、えーと……」
「リックだ」
「私はソニアです」
猫娘ソニアはニコニコしていたが、黒髪で背の低い、異国の服を着た青年・リックは腕を組んで、こちらに視線を向けてもいなかった。
「あたしはアイリス。こっちは夫のリュカと息子のレオね! ティナとリックは、アンデッドじゃない……よね?」
「うん! あたしは、ジャミルくんの術者だよ。後ろのソニアの術者はリック」
「でも、そうだとすると、ネクロマンサーとゾンビは、一緒にはお店に入れないんじゃ──」
「そういうところも多いけどね。ゾンビと飼い主が一緒に入店できるところだってあるの。ちょっとだけいい店だから高いし、変装魔法と消臭魔法必須だけど……」
「ペット同伴可」みたいなノリで言うティナ。
どうやら、そういうニーズもあるのだろう。
ジャミルとティナの少し後ろに立っているソニアとリックも、きっと一緒に行くということなのだろう。
だけど、耳をペタッと伏せたリックがなんだか納得いってなそうな顔をしているので、アイリスは聞いてみた。
「そちらのお二人も、一緒に行くのかな?」
即座になされない返答。
やはり、何やら複雑な人間関係が見え隠れする。
ティナは、怒ったようにリックへ言った。
「ねえ。あなた、さっき話したじゃない? お礼を兼ねてお食事に誘うって」
「確かに、こっちとしても都合がいいから承諾しただけだ。なんか僕が行きたいみたいに──」
「はあ? 結局行くってことじゃない! ついて来ておいて今さら行く気ないフリするとか、バカなんじゃないの?」
「バカはお前だろ。見ず知らずの、得体の知れないパーティーに用心もせずホイホイ近寄ろうとするその態度が信じられないって言ってんだ。ああわかった、飼い主がバカだから、飼い犬も頭が悪くなるんだな」
「なんですって!!」
怒りでアドレナリンが分泌されていくティナとは反対に、ボソボソと小さな声で、感情を込めずに言うリック。
どうやらこの二人は仲が良くないらしい。というか、だから武器屋でも喧嘩をしていたのだろう。
でも、あのとき喧嘩をしていたのは「飼い犬」のほうだったはず──
「リック。ここに来る時に、誓ったでしょ?」
ソニアはリックの腕を引っ張って、「めっ」と愛らしく怒るかのような目つきをした。
リックは、そんなソニアの態度で喧嘩腰になるのをやめ、納得いかない顔をしながらも口をつぐんだ。
「お仕置き」の件といい、このやりとりといい、この二人、一体どういう関係なのだろうかとアイリスは首を傾げる。
が、飼い主ともども馬鹿にされたジャミルは黙っていない。
「正面切って悪魔男と戦いもしなかった奴らの言うことなんて無視しろ、ティナ」
ソニアの眉毛と耳と尻尾がピクッ! と動く。
「相手の強さも感じ取れずに馬鹿みたいに向かっていくから腕を切られるんですよ、脳筋虎男」
「ジルベルトにビビって戦いもせずに小便漏らした奴よりゃマシだ、臆病猫娘」
「小便なんて漏らしてないし、ビビってもないですっっ!! 訂正してよっ」
「んだ、やるかコラっ」
「待って待って、医務室で喧嘩しないで!!」
エリナが制止する。
さすがに他人の病室まで来て喧嘩をおっ始めるなんて無礼千万だと気付いてくれたのだろうか、四人は大きなため息を一斉に吐いて喧嘩を止める。
ネクロマンサーはネクロマンサー同士、ゾンビはゾンビ同士、腕を組み、綺麗にプイッと顔を背けて黙った。
なんか厄介なことに巻き込まれたなぁ、とアイリスは思ったが、こんなふうに元気な奴らは嫌いじゃない。
こんなに大勢で食事ができるなんて、いつぶりだろうか。
リュカやレオと顔を見合わせ、フッと微笑み合う。
アイリスは嬉しくなってしまったのだった。




