大人になったら
霜月透子さんのひだまり童話館、『ビリビリな話』に参加しています。
「ビリビリ、ビリビリ!」
癖になって止められない。
「ビリビリ、ビリビリ!」
ああ、そろそろ止めないと、叱られる。
でも、爪が布に引っ掛かる感じが凄く楽しいんだ。
「ビリビリ、ビリビリ!」
レースのカーテンに爪を引っ掛けて、よじ登る。
厚いカーテンより、レースの薄いカーテンの方が爪の引っ掛かり具合が気持ちいい。
「ビリビリ、ビリビリリリ!」
そして、上まで登ったら、グッと腰を落として、爪だけに全体重を掛けると、下まで一気に落ちる。
これが気持ち良いんだよね。
「きゃああ! ルーちゃん! 何をしているの!」
ご主人様の悲鳴が聞こえる。逃げなきゃ!
「レースのカーテンがビリビリだわ」
ちょっとやりすぎちゃったかも?
「にゃうん」
謝ったら、抱き上げてすりすりされちゃった。
「もう、しちゃ駄目よ!」
「にゃん!」
約束したけど……多分、誘惑に負けちゃうかも。
だってレースのカーテンの爪の引っ掛かり具合が最高なんだもの。
「ビリビリ、ビリビリ!」
ご主人さんは、レースのカーテンを括って登れないようにした。つまんないな。
でも、夏になったから、網戸にしてあるんだ。
「ビリビリ、ビリビリ!」
これに爪を掛けて登るの、超楽しい!
レースよりも強いから、今回は怒られないと思うよ。
でも、春より僕は大きくなっていたんだよね。
「ビリビリ、ビリビリリリリリ!」
網戸が爪に掛かった僕の体重に負けた。
うん、これはまずいかもしれない。かなり大きな穴が空いたよ。
ご主人様に見つからない様に、冷蔵庫の上に逃げる。
「これで誰が穴を空けたか、わからないはず」
だって、レースのカーテンに爪を掛けている現行犯じゃないからね。
もう子猫じゃないから、ご主人様に怒られるような事はしないのさ。
「ルーちゃん! 網戸に穴を空けたでしょう」
お昼寝して、夕食をねだりにご主人様の足元で「にゃうん」と鳴いたら、抱き上げられて叱られた。
バレちゃった? もしかして、夕食抜きかな?
「にゃうん!」
夕食は貰えたけど、網戸は金網のに交換されたよ。
登れない事は無いけど、爪が引っかかってやりにくいから、登らない事にした。
いつか、レースのカーテンを括っているのを解いて欲しい。
そうしたら「ビリビリ、ビリビリ!」と爪を立てて登るのになぁ。
いつの間にか大人になって、レースのカーテンがヒラヒラしてても登りたいと思わなくなった。
「ルーちゃん、子猫の頃はやんちゃだったのにね」
大人の猫は、そんな馬鹿な真似はしないんだよ。
子猫の頃の失敗を、ご主人様はいつまでも懐かしそうな顔をして話す。恥ずかしい!
でも、身軽にカーテンをビリビリと登っていたのを、時々、夢で見るよ。近頃は、一日中、寝てばかりなんだ。
また、子猫に生まれ変わったら、するかもしれないね。
そうしたら、またご主人様は大騒ぎするのかな。
おしまい