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悪役レスラー(♂)が悪役令嬢に転生してヒーローになる話  作者: 芋男爵
第一章 悪役令嬢×悪役レスラー=ヒーロー
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第四話、気に入らないよねお兄ちゃん

 

 アラン・ドラゴバッファはドラゴバッファ家の長男だ。

 ドラゴバッファ家はそれなりに地位のある貴族だ。

 彼は生まれながらに地位を約束されていた。


 その上、彼には力があった。

 二人の妹が魔術の才に恵まれたように、彼は剣の才に恵まれた。


 地位も力もある人間には人望も集まる。


 彼は全てを与えられていた。


 気に入らない人間は、時には人を使い、力を使い、徹底的に蹴り落としてきた。


 彼の前に敵は居なかった。


 ある日、妹の一人のオリヴィエが頭を打って高熱を出した。

 それに対して、彼は思った。


 どうでもいい。

 それで死のうがなんだろうが、女は嫌いだから悲しくもならなかった。


 結果的に妹は死ななかった。

 どうでもいい。

 別に憎い訳じゃない。

 俺には関係ない。


 そう思った。

 そう思っていた。


 目覚めてから、オリヴィエは変わった。

 体を動かすのが嫌いだったのに、突然トレーニングを始めた。


 それに対して、彼は奇妙に思った。


 どういう心境の変化だ。

 どうせ反動で直ぐに辞めるぞ。


 後日、筋肉痛で震えるオリヴィエを見て彼は嘲笑った。


 それ見た事か。

 あの様子じゃ泣き言を言って辞めるだろう。


 しかし、オリヴィエは折れなかった。


 筋肉痛が完全に治っていないうちにまたトレーニングを始めたのだ。


 気味が悪いと彼は思った。


 兄妹なら、嫌でも行動が目に入る。

 その今まで見てきた行動と、明らかに違っていた。


 それが、何となく気に入らなかった。


 更に、オリヴィエはもう一人の妹ノルンと話し始めた。

 前までは積極的に話すことなんて無かったというのにだ。


 気に入らない。


 オリヴィエが変わってから一週間が経過した頃、彼が学園で最も信頼する男ジャンと歩いていると、オリヴィエの姿が目に入った。

 オリヴィエはノルンと話していた。

 しかも、いつも連れている女二人の姿が見えない。


 やはり気に入らない。


 二人が仲良くしていること自体にではなく、自分の想像と違う動きをすることが、彼にはとても不快だったのだ。


 彼はオリヴィエのことが気味悪くてしばらく避けていたが、今日は何となく話しかけてみることにした。


 特に話す内容も無いので、いつも通り悪態をついた。

 いつも通り、反論なんて無いはずだった。


 今までのオリヴィエは彼を恐れ、悪態をつかれても反論などしなかった。


 しかし、オリヴィエは反論した。


 それも、彼のことなんてなんとも思っていないかのような目で。


 気に入らない。


 彼はオリヴィエに決闘を申し込んだ。

 鍍金を剥いでやろうとしたのだ。


 その態度はなんの根拠も無いものだ。

 こういう場合になったらすぐに本性を見せる。


 彼はそう思っていた。


 しかし、何と驚くべきことに、オリヴィエは決闘を受けた。


 心底気に入らない。


 彼は思った。


 くだらないプライドでまだその本性を隠すと言うなら、力ずくで引き出してやろう。

 その態度が本心だったとしても、力の差を分からせて前の関係性に戻してやろう。


 一瞬で距離を詰めて木剣で腹を打つ。

 その一撃、たった一撃で事足りると彼は確信していた。


 実際、オリヴィエはその一撃で蹲った。


 これで思い知っただろう。


 彼が踵を返して帰ろうとしたその時、オリヴィエは攻撃してきた。


 一瞬反応が遅れたが、相手はド素人だ。

 それでも十分に防いで反撃する余裕があった。


 オリヴィエは仰け反ったが、今度は倒れなかった。

 多少体勢は崩れていたが、それでも彼の一撃を耐えるのは不可解であった。


 気に入らない。


 先程より力を込めて、三撃打った。


 今度こそ終わりだ。


 彼はそう思った。


 しかし倒れない。

 今度は木剣を支えにして堪えた。


 気に入らない。


 彼はイラつきに身を任せて、叩き続けた。

 何度も、何度も。

 数分叩き続けた。


 だが、倒れない。


 なぜ倒れないのか。

 この妙な手応えはなんなのか。


 オリヴィエは彼の小さな小さな良心が痛む程にズタボロである。

 それでも倒れないのだ。


 また気に入らないと彼は思ったのだろうか。

 違う。


 彼が抱いた感情は恐怖であった。


 未知に対する嫌悪感と恐怖。


 その恐怖心から、彼は思わず顎に全力で打ち込んでしまった。


 しまった、と彼は思った。


 死のうがどうでもいいが、殺したい訳では無いのだ。


 オリヴィエは生きていたが、今度こそ完全に倒れた。

 結果的にはこれで良かったのだろう。


 もうしばらくは立ち上がれない倒れ方だった。

 そのはずだった。


 それでもなおオリヴィエは立ち上がったのだ。


 足を震わせ、口から血を流し、何かを呟き続けながら立ち上がった。


 彼は人生で一度も味わったことの無いような寒気に襲われた。


 オリヴィエは突然彼に話しかけた。

 それも同意を求めるような言い方だ。


 支離滅裂だと彼は思った。

 効いていない訳じゃないんだと理解した。

 だからこそ理解出来なかった。


 なぜ立てる?


 考えていると、オリヴィエは突然剣を投げつけてきた。


 くだらん小細工。


 そう思いながら剣を弾いた次の瞬間、彼の目の前からオリヴィエが消えた。


 ズンッっと体に重さがかかり、そしてその重さは背後に移動した。

 完全に予想外の重量感に体勢が崩れ、後ろに倒れる。


 そして突然彼を謎の苦しさが襲った。


 経験のしたことが無い苦しみに困惑し、首に触れようとする。

 首には、オリヴィエの腕が回されていた。


 スリーパーホールドである。


 彼は力ずくで腕を外そうとするがビクともしない。

 (リア・ネ)(イキッド・)(チョーク)とはそういう技なのだ。


 だが、彼はそれを知らない。


 どうにかして腕を外そうとするが、いい手が思いつく前に意識が遠のき、もがくことしか出来ない。


 負ける。


 完全に意識が途切れる前に、彼はそう強く意識した。


 こちらは一切傷付いていなかったのに、突然訳も分からない攻撃でいきなり負ける。

 クソッ。

 クソッ。

 クソッ。

 気に入らな───。


 ……

 …………

 ………………


 彼が目を覚ましたのは、気を失ってからすぐだった。


 負けたという実感の湧かぬ間に教師が現れ、彼等を叱りつけた。

 彼は特に叱られた。


 女性をこうも一方的に痛めつけるなんて──と。

 そんな彼を、オリヴィエは庇った。


 強さに男女は関係ないと言ったのは自分だと。


 彼のオリヴィエに対する認識は随分と違うものになった。


 気味が悪かった。

 なぜ自分を庇うのか分からなかった。


 恐怖を感じた。

 なぜそうもボロボロで笑っていられるのか。


 やはり気に入らなかった。

 自分に勝ったことを一切誇っていないその表情が。


 その後、彼が自分からオリヴィエに関わることは無かった。


キャラスペック


名前:アラン・ドラゴバッファ

性別:男

年齢:8歳

職業:貴族の長男

性格:とても悪い

特性:臆病

筋力:強め

知力:意外と良い

魔力:普通

好きな物:力

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