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悪役レスラー(♂)が悪役令嬢に転生してヒーローになる話  作者: 芋男爵
第一章 悪役令嬢×悪役レスラー=ヒーロー
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第三話、今日から頑張る その三


「……」


 一人の取り巻きを連れたその男の名前はアラン。

 一つ上の兄だ。


 オリヴィエと同じつり目は、確かな血の繋がりを感じさせる。


 ノルンとは違い、彼とオリヴィエは明確に仲が悪い。

 喧嘩すらしない程だ。

 せいぜい少し悪態をつく程度。


 だからこうして話しかけてくることは無いはずだが……。


「なぁにやってたんだァ?」

「別に、少しお話をしていただけですわ」

「ふーん」


 人を小馬鹿にするような笑みを浮かべながら話しかけてくるアランに、若干の嫌悪感を抱く。


「ま、女ってのは弱いからすぐ群れる生き物だからなァ。別に話しててもおかしくねぇか」

「……」


 女性差別的な悪態に少しムッとして、俺はアランの後ろにいる取り巻きを見ながら口を開いた。


「あら? そういうお兄様こそ、人と群れるのがお好きなようで」

「あ?」


 アランは数秒驚いたような表情で固まった後、顔を引き攣らせてこう言った。


「こいつは俺の優秀な右腕ってヤツだよ、お前ら女が群れるのとは訳が違ぇんだ」

「それを言うならノルンだって(わたくし)の大切な妹ですわ、お兄様の言う”群れる”とは違うと思いますわ」

「……なんだお前」


 アランの表情がどんどん怒りに染まっていく。

 反論自体に腹を立てているというよりは、反論されたことに対して腹を立てているようだ。


「最近のお前はなんだか俺を苛立たせるなァ……」

「それはそれは、ごめんあそばせ」

「特に目が気に入らねぇな……、気に入らねぇよ」


 アランは着けていた左手の手袋を取り、こちらに投げつけた。

 手袋は俺の胸に当たり、ポトリと地面に落ちる。


「拾えるか? あぁ? 拾えねぇだろ。弱くて臆病な女のお前には拾えねぇだろ!」


 これは決闘の申し込みだ。

 この手袋を拾えば決闘を了承したということになるらしい。


「もうやめましょうお姉様」


 ノルンがそう言いながら俺の腕を少し引っ張って、この場から去ることを促した。

 普段ならそれに従って決闘など断っていただろうが、俺は二度目の差別的発言にカチンと来てしまって……。


「強さに、男も女も関係ないと思いますわよ」

「お姉様!?」

「……は?」


 つい拾ってしまった。

 前の俺ならカチンと来てもスルーしていたはずだが、なんというか、精神が幼稚になっている気がする。

 これも転生の影響だろうか。


 アランは俺が手袋を拾ったことに対して心底驚いた顔をした後、怒りを強引に鎮めようとして崩れた笑みを浮かべる。


「ふっ、ははっ、そうかよ。おい」

「はい」


 アランが取り巻きの男に左手を伸ばすと、男は腰に掛けていた木剣をその手に渡した。

 そして、アランは左手の木剣をこちらに投げ、俺の足元で落ちたそれを指差しながら話し始めた。

 拾えということだろう。


「お前が決闘を受けたんだぞ。今更怖気ても遅いからな」


 俺がそれを拾うと、アランも自分の腰の木剣を引き抜いて構えた。


 ここで一つ困ったことが出来た。


(剣ってどう使えばいいんだ?)


 アランとオリヴィエは同じ学校にいるが、習っていることは違う。

 アラン達は剣術を主に教えられているのに対し、オリヴィエ達は魔術を主に教えられている。


 オリヴィエは剣術をほとんど知らない。

 当然俺もだ。


 つまり、剣での戦いは圧倒的に不利だ。


「シッ!」

「っ!」


 そんなことを考えていると、アランが一瞬で距離を詰めてきた。


 この速さ、おそらく俺がさっきやっていた身体能力強化の魔術を使っているのだろう。

 俺とは違い、体に合った無理のない範囲で。


 アランの攻撃に何とか反応しようと見よう見まねで構えてみるが、想像通りに木剣を動かせず、容易に弾かれ横腹を打たれた。


「うぅッ」

「……ふん」


 腹を抱えて蹲る俺を見下した後、振り返り帰ろうとするアランを見て、俺は即座に立ち上がり、縦にまっすぐ木剣を振るった


「やっ!」

「!?」


 一瞬驚いて体勢を崩したが、それでも防がれ、更に反撃までしてきた。

 やはり剣の扱いはあっちがずっと上だ。


「痛た……」


 しかし見えない訳では無い。

 見えるのなら覚悟を持って受けられるし、受ける箇所も少しはズラせる。


 プロレスの特性上、受け方は嫌でも上達する。

 とはいえ、プロレスは相手と息を合わせるものだ。

 相手に合わせる気がないとものすごくやりづらい。

 これではいつ受け方を間違えてダウンするかわかったもんじゃない。

 早いうちに反撃の手立てを考えなくては。


「なんでしょうか?」

「兄妹喧嘩?」

「決闘ですって」


 野次馬が集まってきた。

 参ったな、これで負けたら大恥だ。


 アランは野次馬に一瞬視線を向けて、小さく舌打ちをし、再び距離を詰める。


(さっきより速い!)

「オラァ!」

「ぐッ!」


 今度は三発立て続けに当てられ、膝から崩れた。

 何とか木剣を支えに踏みとどまり、体勢を整える。


 そうしてアランが打って俺が立ち上がる流れを数分繰り返すと、徐々にお互い息を切らし始めた。


 俺の体はズタボロ、対してアランの体には傷一つ無い。

 これでは決闘と言うにはあまりにも一方的すぎる。


 しかし、アランの顔からは余裕の影が消えていた。

 何度打とうが立ち上がる俺に、精神的に疲れてきたのだろう。


 だが、俺も精神的に追い詰められてきていた。

 一向に反撃出来ないこともそうだが、一番の理由は野次馬達だ。


「いくらなんでもやりすぎじゃないか?」

「あんなにボロボロにされて、可哀想に」

「でも、いい気味じゃないですか」

「あの子の我儘にはウンザリしてましたし」

「清々しますわ」

「いっつも偉そうにしてましたものね」

(うるせぇ……)


 時折聞こえる言葉とクスクスという笑い声が、胸に突き刺さる。

 俺がやった訳じゃないのに。

 いや、俺がやっていないからこそよく突き刺さるのだろう。

 身に覚えのない罵倒というのはよく効く。

 一人や二人ならまだしも、こうも大人数に言われるとかなり効く。

 俺の場合は過去に似たような経験があってトラウマになっているのでより効く。


 そうして周りに気を取られ、集中力も無くなる。


「シャァ!」

「しまっ──」


 顎が跳ね上がった。

 食らわないようにしていた顎への攻撃を食らってしまった。

 集中を欠いたせいだ。

 脳が揺れ、膝から崩れ落ちる。


「アハハハ」

「クスクス」

「ウフフフ」

「ケタケタ」


 ぼんやりする頭が、様々な嘲笑だけを拾う。


 どうしてだろう。

 昔からだ。

 気づけば俺が悪役だった。


 成長が早い俺は、中学の途中まで、いつも周りより一回り大きかった。

 そのせいか、それとも悪人面のせいか、色んな嫌な奴に絡まれた。

 イジメだ。


 仲間外れにされたり、物を隠されたり、父親が居ないことを馬鹿にされたり。


 ある時、どうしても許せないことをされて殴ったら、俺だけが責められた。

 暴力は良くない。

 俺が怒られたこと自体に不満は無いが、相手が何も咎められないことには納得出来なかった。

 でも、そのことに何を言っても聞いてもらえなかった。

 誰一人信じてくれず、俺だけが悪者だった。


 それからも、状況は違えどいつも俺が悪者にされた。

 プロレスに出会っていなければ、きっと俺を刺したあの男のように、俺は正気ではいられなかっただろう。


 尤も、プロレスでも結局悪役(ヒール)レスラーだったが。


 あぁ、昔のことを思い出したら、なんだか無性に腹が立ってきた。


 なんでいつもこうなんだ。

 俺は自分から何かをしたことは一度だって無い。


 なのにこれだ。

 一度死んでもこれだ。


 そういう星の下に生まれた?


 そういう運命?


 ふざっけんな。


 だったら変えてやる。


 やってやるよ。


 震える体に鞭打って、無理やり立ち上がる。

 運命を変えるんだ。

 あの程度の嘲笑でへこたれていられるか。


 だいたい、リングに立てば客から野次の一つや二つ飛んできただろ。

 ネットを見りゃ暴言の三つや四つ書いてあったろ。


 この程度でへこむようでプロレスラーが務まるかよ。


 頭揺れて逆に冴えてきた。

 そうだよ、俺はプロレスラーだ。

 だったら木剣(こんなもん)にこだわる方が弱くなるよな。


「ですよね? お兄様」

「あ?」

「これ、お返ししますわ」


 俺は振りかぶってアランに木剣をぶん投げると同時に脚に魔力を込めた。

 体に合った魔力を込めることは俺にはまだ出来ない。

 出来ないことにこだわり続けてはいけない。

 だから、逆にありったけを込めて、地面を踏み抜いた。


 木剣を難なく弾いたアランの目の前に一瞬で飛び込み、飛び上がる。

 アランの肩に手を置いて背後に回り、首に右腕を絡める。

 突然背中に体重が掛かったアランは、バランスを崩し後ろに倒れた。


 右腕で左腕を掴み、その左腕でアランの頭を押さえ、そして絞め上げる。


(リア・ネ)(イキッド・)(チョーク)』、その中でも頸動脈を圧迫する技『スリーパー・ホールド』である。


 脚は弾けるような音と共に動かなくなった。

 この技で決まらなければ、俺は確実に負ける。

 たが、確実に決められる自信が俺にはあった。


 裸絞めは一度決まれば逃れる方法は無いと言われている。

 プロレスであればロープブレイク(頭部、腕部、脚部いずれかの首をロープの外に出すことで技を解除させるルール)があるが、ここにロープは無い。


 アランとの筋力差や体格差を考えれば、かの偉大なる先輩プロレスラーの言葉のように、俺を持ち上げて地面に思い切り叩きつけて脱出できたかもしれない。


 だが、アランはこの技を知らない。

 知らない技の対処が咄嗟に出来るほど戦い慣れてはいないだろう。


「ぁ──ぎ────ッ!!!」


 アランは必死にもがくが、腕が一切緩まることは無い。


「───……」

「ねぇお兄様、これからは仲良くしましょうね♪」

「………………」

「あら?もう落ちてますわね」


 落ちたアランを少し退けて、上体を起こし、右拳を掲げる。


「ア、アラン様?」

「お姉様!」

「嘘だろ……?」

「勝ったの?」

「何今の?」


 周りのざわめきを聞き優越感に浸る。


 ここからだ。

 俺はここから、誰もが認めるヒーローになってやる。


 なんて、ちょっと子供っぽいだろうか?


 まぁなんにせよ、ここが俺のスタートラインだ。


 ***


 この後めちゃくちゃ先生に怒られた。


キャラスペック


名前:アラン・ドラゴバッファ

性別:男

年齢:8歳

職業:貴族の長男

性格:とても悪い

特性:傲慢

筋力:強め

知力:意外と良い

魔力:普通

好きな物:自分、力

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