プロローグ
俺は23歳プロレスラー。
つり上がった眉と目尻、そして太ましい上腕三頭筋と大腿四頭筋がチャーミングな悪人面のハンサムチェリーボーイだ。
辛口カレーが大好物で、今日もその食材を買いに出かけていた。
そして俺はついさっき食材を買い終え、帰路に就いていた。
道中ブツブツと独り言を呟く男を不気味に思いながら通り過ぎ、交差点で信号が赤から青になるのを待っていた。
横に居る親子の楽しそうな会話を聞いて微笑ましい気分で待っていれば、すぐに信号は青に変わった。
歩きだそうとした時、後方で短い悲鳴が聞こえた気がした。
後ろを向いて見ると、先程の男が人を押し退けながら強引にこちらに走って居るのが見えた。
何かから逃げているのか、それともただ走り出しただけかと考えたが、どうにも様子が違う。
男は何かを狙っているかのような目だった。
プロレスラーは攻撃を上手く受ける為に、正確に攻撃される箇所を把握して正しい受身を取る必要がある。
その経験が活きたのか、男の狙いは先程の親子だとすぐに理解した。
嫌な予感がした俺は咄嗟に男と親子の間に立ち、そしてすぐに男と激突した。
俺の体重は118kg、男の体重は甘く見積っても70kgを超えることは無いだろう。
その上俺は常日頃から屈強な男達とぶつかり合っているのだから、普通ならよろめく事すらないだろう。
踵を返して逃げ出そうとする男を取り押さえようとするが、突如腹部に激痛が走り、俺の体は意思に反して膝をついた。
前のめりに倒れそうになる体を肘で支え、尋常ではない痛みと熱を持った腹部を右手で押さえる。
手にぬめりとした感触の生暖かい液体がこべりつき、悪寒が全身を貫いた。
右手を見てみると、そこには黒みがかった赤い液体がべっとりと着いていた。
鉄のような匂いのそれが何かはすぐにわかった。
血だ。
大量の俺の血が腹部から流れ出ていた。
それに気づいた瞬間意識が遠のき、ついに倒れた。
倒れる俺と血溜まりに気づいた人々が悲鳴を上げ、大丈夫かと声をかけ、救急車を呼ぶ。
強く押えても流れ出ていく大量の血液が、俺に死を伝えてくる。
体が寒い。
熱が血と共に逃げている。
腹が熱い。
血に引かれた熱が腹に集まっている。
徐々に視界が黒く染まり、完全に意識が失われた瞬間、誰かが耳元でGame Overだと告げた気がした。
……
…………
………………
死にたくない。
暗い意識の中でそう思った時、目前に『New Game?』という白文字が浮かび上がった。
それに続くように『Yes』と『No』の文字も浮かび上がってきた。
何故か俺はそれに対して特に疑問も抱かず手を伸ばし、Yesに触れる。
すると文字は霧のように消え、奥から迫る白い光が俺の体を包んだ。
─────
「……」
目が覚める。
(知らない天井だ)
俺はベッドで仰向けに寝ていた。
ここは病室だろうか? 俺は助かったのだろうか?
そんな事を思いながら周りを見渡すが、どうにも変だ。
病室にしては部屋が色鮮やかすぎる。
綺麗な家具やぬいぐるみなど、まるで女の子の部屋のようだ。
尤も、俺は女の子の部屋に入ったことなど無いのでほぼ想像と偏見なのだが。
体を起こそうとすると、後頭部に痛みを感じた。
不思議と腹は痛くない。
どうなっているのかと思い体を見てみると、信じられないものが目に入った。
「……え?」
小さい。
俺の体とは思えないほど。
いや、間違いなく俺の体では無い。
寝たきりで筋肉が細くなるのならまだしも体が小さくなるなど、そんなことがあるのだろうか?
俺は慌てて鏡で自分の体を確認する。
美しい衣服に包まれた体はあまりにも細く、小さく、とても118kgの体つきでは無い。
40kg……いや、30kg程にしか見えない。
眉や目尻は高慢さを感じさせる高さにあるが、悪人面と言うほどでは無い。
股を探ってみると、そこからはアレが無くなっていた。
これではチェリーボーイどころか、ボーイですらない。
俺は……俺は……。
「なんてことですの……」
女の子に、生まれ変わったのだ。
キャラスペック
名前:織笛 辰牛
性別:男
年齢:23歳
職業:プロレスラー
性格:少し荒んでる
特性:タフネス
筋力:ごりごり
知力:馬鹿
魔力:なにそれ
好きな物:辛口カレー