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お見舞い

作者: Chie

 阪急宝塚線の石橋阪大前駅で降りた。構内を出る


と、沙耶は立ち止まって大きく深呼吸した。東改札


口。右手に箕面線の線路があり、左手には商業用の


建物が不均等に並んでいる。その間には、空まで繋


がる空間がぱあっと広がっていた。いつも利用する


西改札口は、出た瞬間、いきなりアーケードに空を


塞がれている。そして、その下には小売店が所狭し


と建ち並び、あらゆる層の人が行き交う雑多な空間


だった。これから労働かあ、と思うと、沙耶はその


雑多さにイライラしたものだった。が、二ヶ月前に


沙耶の感覚は百八十度変わった。恋をしたのだ。バ


イト先の後輩、仁に。


 沙耶のバイト先、Kコーヒーは西改札口から出て、


アーケードを横切った先にあった。沙耶はそこで働


き始めて三年近くになる。収入を得ることが一番の


目的だったが、バイト同士の淡い出会いも少し期待


していた。しかし、生活費の足しになる程度の収入


は得られるものの、出会いの方はからっきしだっ


た。素敵な人もいるにはいたが、関係が深まるまで


には至らなかった。だが、今回は違う。新入りとし


て入ってきた仁に、沙耶が教育係として付くことに


なったのだ。二人は急接近した。大学一年生になっ


たばかりの仁は、沙耶より年下だったが、恋に年齢


など関係ない。まだまだ店内で会話するくらいの関


係だったが、仁の沙耶に対する態度は明らかに他の


人に対するものとは違った。断然優しかった。沙耶


は、仁も自分に恋をしていると確信した。

 

 その仁が昨日から熱を出し、バイトを休んでい


た。仁は、実家から離れて一人暮らしをしてい


る。沙耶はドギドキしながら連絡を取り、お見舞


いに行く約束を取り付けた。だから、今日は東改


札口なのだ。仁のアパートがある側。空からの光


は遮られず、真っ直ぐに沙耶を照らした。まる


で、沙耶と仁のこれからの展開を暗示しているか


のように。

 

 沙耶は可愛い保冷バッグを揺らさないよう気を


つけながら、アスファルトを進んだ。バイトの合


間に、僕のアパートに行くのには、駅から中道を


通った方が近いんです。と仁が話していたのを思


い出す。が、ラインでは、正面の道を真っ直ぐ。


高架線下の自転車置き場まで来たら左。信号のあ


る交差点まで行ったら右に曲がり、後は緩やかな


坂道をひたすら真っ直ぐ。と書いてあった。遠回


りかもしれないが、飲み屋街になっている中道を


通るより断然分かりやすい。道々、駅に向かう大


学生たちとすれ違ったが、仁ほど顔の整った学生


には出会わなかった。


「待っててや、仁!」


 携帯が鳴った。仁は熱っぽい体を横に向け、携


帯を手にした。母さんからだった。


「うん。熱、大丈夫。バイト先の先輩が差し入れ


しに来てくれる。教育係の沙耶さん。なんか、母


さんみたいでつい甘えちゃって。そうそう、年齢


も母さんと一つ違いなんだよ」


 その時、ピンポン。玄関チャイムが鳴った。


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― 新着の感想 ―
[一言] わぁ……。 なんと言えば良いのかなって感じですね〜。
2022/11/11 21:16 退会済み
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