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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
三章 最円桜はヒーローの夢を見る

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16話 思わぬ協力者

 胡兆からの伝言「今度の日曜日」というのはやはり、財前宗介・十文字早紀カップルとのダブルデートの件だった。


「よくダブルデートなんて話通せたな」


 そんな感想を胡兆に洩らすと、彼女は肩を竦めて笑う。


「財前くんはあなたに興味を持っていましたから、それを助けたに過ぎません」


「興味?」


 心当たりは全くなくて首を傾げたが、胡兆は「はい」とすぐさま首肯してみせた。


「まぁ、私のせい……と言えばそれもあるかもしれませんが、決定的だったのはおそらく最円くんが一組の窓を割った事件。あれ以来、彼はあなたに興味を持っています」


「それは興味というより敵視じゃないのか? 俺を一組から永久追放しようとしてくるくらいだし」


 事の発端でもある「最円薫の永久追放」。そんな計画を進めようとした相手が俺に好意的とも取れる興味を抱いているとは到底思えない。


 そう思っての反論だったのだが、予想と違って胡兆は複雑な顔をしてみせた。


「彼は、面白いものを見つけると分解したりしたくなる人なんですよ。壊すのとは違います」


「ちょっと意味がわからないぞ……」


 それは笑顔の胡兆のせいなのか、それとも説明された財前のせいなのかわからないが、背筋が凍りつくのを感じた。


「確かに財前くんはあなたを追放しようとしてますけど、別に嫌ってるわけじゃありません。そのことはダブルデートの話が通ったことで証明されましたよね?」


「まぁ、嫌いな奴とダブルデートしたい奴はいないよなぁ」


 胡兆の言ってる理屈は理解できる。それでも、俺の中には不可解な部分が多く残っていて、たぶん考えても無駄だろうから今だけは勝手な憶測で決めつけて納得することにしよう。


 あれかな? 好きな女の子に嫌がらせをしたくなるみたいなやつかな?


 とすれば、財前は俺のことが好きなのだろうなぁと納得できる。


 ……いや、それでダブルデートとかただの修羅場じゃねーか!


「私にしてあげられる事はここまでです。あとは、自分たちで頑張ってください」


 そう言った胡兆は、立ち上がって帰る支度を始めた。


「ありがとな。なんとかやってみるよ」


 面倒なことは後回しにして、取り敢えず胡兆がしてくれたことに礼を言うと、彼女はふっと表情を緩めた。


「前にも言いましたけど、最円くんのためじゃありませんよ」


「そうだったな」


 そう言い残して彼女は帰ってしまった。


「おい薫。さっきの話、一体どういう事なんだよ」


 その後、胡兆がいる前では一言も発せず固まっていた益田が俺に話しかけてくる。まぁ、財前のことは置いておくとして問題は……、


「光、大丈夫か?」


「俺のことは無視かよ!!」


 同じように黙りこくっていた光のほう。


「……ん」

「やっぱり、十文字早紀の事か?」

「……」


「おーい、聞いてますかー?」


 光は元クラスメイトである十文字早紀を「苦手」だと言っていた。返事がないところをみると、どうやら当たってるっぽい。


「どんな奴なんだ。十文字は」

「……陽キャ」

「……あぁ、なるほど」


 その一言で完結してしまえるあたり、陽キャという単語の破壊力は計り知れない。


 光は普段六組内ですら寝たフリして過ごすほどコミュニケーションに難がある。


 そんな彼女が苦手とする者など、すこし考えれば分かることだった。


「俺がいるから安心してくれ」


 こればかりは難しい問題であるかもしれない。とはいえ、今回のダブルデートの話を進めるよう胡兆に頼んだのは俺だから、可能な限りバックアップをするつもりではいる。いや、しなければならない。


「おいぃ! なんで俺には説明してくれないんだよぉぉ! 仮にもここ俺の家だよぉ!?」


 言葉で安心させようとしてみたが、それでも光の浮かない表情は晴れず、どうしたものかと考えていると――、


「お困りなら、私が助けてあげようか?」


 突然、部屋の扉が開き、益田姉である日那乃さんが笑顔で入ってきた。


「日那乃さん、もしかして聞いてたんですか……?」


 それに顔を手で覆って問いかけると、


「私の部屋は隣なんだよね。会話とか全部聞こえてくるのよ」


 彼女は悪びれることなくそう言った。


「……姉貴、何度も言ってるけどノックくらいしてくれ。あと、これは俺らの問題だから首を突っ込まないでくれ」


「大助こそ全然話に入れてもらえてないじゃない。それに、ノックノックっていつも言ってるけど、大助がイヤホン無しでエッチな動画見てるのもまる聞こえなんだから変なタイミングで入ったりしないわ」


「……なッッ、おま、はぁああ!? 何言ってんだ! バーカ! バーカ!」


 そんな益田に日那乃さんはやれやれと肩を竦めると、俺と光に視線を向け、ほんほんとひとりでに頷いてから近寄ってくる。


「光ちゃんだっけ? 実は私、メイク系のアルバイトとかしてた事あるんだけど、良かったらメイクアップさせてくれない?」


 その提案に俺は驚いた。


「その代わりさ、ビフォーアフターを動画にして投稿してみたいんだけど良い?」


 光も驚いたようで、ただ日那乃さんの顔を見上げて呆然とするばかり。


「ちゃんとオシャレしたら可愛いと思うんだよね。さすが薫くん、見る目あるねぇ」


 彼女は光の髪先などを軽く触れながらニヤニヤと俺に笑いかけてくる。どうやら、偽の恋人であることまではバレてないらしい。まぁ、胡兆が話したのはあくまでもダブルデートの事だけだもんな。


「あの、でも……動画は」


 そこでようやく光が言葉を発した。


「動画は怖い?」


 それに頷く光。


「ってことは、私がメイクするのは良いってことだよね?」


「それは……」


 言い淀んで泳いだ瞳は、日那乃さんの服や爪のネイルなどを観察している。男の俺が言うのもアレだろうが、日那乃さんは確実にオシャレな女性だ。


「じゃあさ、一応動画を撮ってみて、全部終わったあとで投稿していいかどうかもう一度聞くね」


「……あっ」


 それを日那乃さん自身も分かっているのか、光が答えに迷っている間に事を進めようとした。


「光、嫌なら嫌と言ったほうがいいぞ。断ったって、たぶんこの人困らないんだから」


 だから、一応そう言って流れを切る。


「薫くんだって彼女が可愛くなるなら賛成でしょ?」


「可愛いから彼女にしたんですよ。今のは俺に対して(・・・・・)失礼じゃないすか?」


 彼女にしたのは光がジャンケンに勝ったからなのだが、それは言う必要はないだろう。


「へぇ……。光ちゃんに対して、じゃないんだ?」


「受け取りかたは人それぞれでしょ。ただ、俺には嫌な言い方に聞こえただけで」


「別に可愛くないなんて言ってないけどなあ。もっと可愛くなれるって事だったんだけど?」


「なるほど、そうやって化粧品買わせてたんですね。バイト経験はメイクじゃなく、そっち方面で活用してるって解釈であってますか?」


「うわぁ、薫くん意地悪じゃない? その言い方。傷つくんだけど?」


「すいません。俺、守りたいものしか見えてなくて」


 そんな言い争いをしている時だった。


「あ、あの……!」


 光が少し大きな声をあげた。


「……その……やってみたい、です」


 シンと静まり返った部屋のなかで、続けて呟かれた言葉。


 それに俺と日那乃さんは顔を見合わせ、互いに争う理由が無くなったことを理解。


「ありがと。じゃあ薫くん、今度の土曜に光ちゃん借りるね」


 そう言って勝ち誇ったような笑みを浮かべる日那乃さん。もはやそれには俺も笑うことしかできない。


「全然関係ないんですけど、さっき言ってた動画とかってよくやってるんですか?」


「たまにね? 暇なときは配信とかもしてるし。友達に協力してもらってメイクアップ動画も出してるけど、結構反応良いから任せて」


 そう言ってグッと親指を立てた日那乃さん。ネットの反応と思えば正直怖いところではあるものの、それが客観的意見であることも間違いではない。


 まぁ、彼女を見ている限り、やり手ではありそう。


 そうして、光のオシャレについては日那乃さんに任せることになった。


 益田はというと、その後もずっと気まずいまま。


 後日、彼の口から「お宝は橋の下に全部捨てた」と言われたので拾いに行かせた。不法投棄は犯罪だからな? 捨てるならちゃんとした方法で捨てなければならない。


 念の為、益田の母親にも直接説明しておいたから大丈夫だろう。

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