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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
三章 最円桜はヒーローの夢を見る
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11話 帰り道

「あれ……千代田ちゃん?」


 放課後、光との約束通り彼女を家へと招待するために一緒にいると、万願寺が戸惑った様子で話しかけてきた。


 その声と表情からは「なんで千代田ちゃんと一緒にいるの?」といったところ。


「光を家に呼んだんだ」

「そ、そうなんだ?」


 俺がそう説明する隣でコクコクと頷く光。そんな彼女は、不思議そうに万願寺を見つめている。


 さしづめ「なんで万願寺が話しかけてきたの?」といったところだろうか。


「万願寺と京ヶ峰は、俺の怪我が治るまで飯をつくりにきてくれてるんだ」


「……」


 返答はなかったものの、光の表情からは疑問は解消されたスッキリ感が見て取れた。


「あー、そうそう。今日はさ、私がご飯作りに行く番……なんだよね」


「……そう」


 にも関わらず、二人の間に漂うぎこちない空気はなんなのだろうか?


 無言解析を得意とする俺だが、そこだけは読めずに呆然としてしまう。


 ……まぁ、二人が仲良しとは言えないからなのかもしれない。事実、光と万願寺が教室で喋ってるところなど見たことがないし。友達の友達は気まずい、コレ誰もが通る一般常識ネ。


 とはいえ、俺が積極的に二人の仲を取り持つ気はなかった。


 そんな事をしなくても、万願寺は光と仲良くなれるだろうと踏んでいたからだ。教室で二人が喋ってないのは光がずっと寝たフリをしていたからであり、それがなければクラスメイトとしての親密度は築けると思っていた。


「……ご飯なら、私が作る」


「そ、そか! 今は最円くんと千代田ちゃん恋人だもんね!? ごめん、うちの考えが足りなかった」


 だが、どうやら気まずい原因はそれだけじゃなかったらしい。


 そんな二人のやり取りを聞いて初めて、その要因の一つに『俺と光が恋人である』ことが含まれていたことに気づいた。


「じゃ、じゃあさ、私は帰るね?」


 そう言って先に帰ろうとした万願寺の腕を掴む。


「……へ?」

「いや、飯は万願寺が作ってくれ」

「……」


 告げた言葉に今度は万願寺が呆然。その視線はゆらゆらと揺れてから光の方へと向いた。


「あー……、千代田ちゃんじゃダメなのかな?」


 それに俺は首を振る。


「ダメじゃないが、俺はお前のほうが良いって言ってるだけだ」


 それに万願寺はすこし驚いたような顔をしてから、


「……わかった」


 静かに頷いた。


 帰る気配のなくなった万願寺から手を放してやる。それでも彼女は、どこか居心地が悪そうにしていた。


 おおかた光に気を遣ったに違いない。だが、万願寺は一つ勘違いをしている。


「言っておくが、俺は何かを誰彼構わず頼んだりしないぞ」


 ご飯をつくって欲しいというのは、万願寺の料理の腕を高く評価して頼んだことだ。成り行きで京ヶ峰もそれに参加することになってしまったものの、最初の前提は覆らない。


「俺はお前だから頼んだんだ。それを簡単に誰かに譲ったりするな」


 光がダメなわけじゃない。そもそも、最円家のご飯をつくるということ自体、他人に任せたくないことだ。


 なぜなら、それは桜のご飯をつくるということだから。

 

 それでも彼女に頼んだのは、その桜が万願寺の飯を美味しいと言ったから。


 そこを履き違えないで欲しい。


「じゃあさ、私……買い物してからいくね?」

「ああ」


 そうやって会話を済ませると、万願寺は逃げるようにその場をあとにした。


 残された俺と光はしばらく立ち尽くしていたが、俺が「行くぞ」と声をかけると黙って付いてきた。


「……」


 前々から思っていたことだが、光が一体何を考えているのか俺には皆目検討もつかない。


 まぁ、それは光に限らずどの人間においても等しい事なのだが、彼女は自分の感情を言葉にしないためコミュニケーションとしてのレベルが一段と上がっている気がする。


 とはいえ、喋ってほしいか? と言われればそうではなく、無言の間を埋めるための言葉は返ってしんどい。


 それでも、一緒に帰るのだから偽の恋人として何かできる事はしておくべきだと考えた俺は、とある提案をしてみた。


「手でも繋ぐか?」

「……え、やだ」


 やだって言われちゃったよ……。


「ご、ごめん。その……汗とかすごいから」


 嫌な理由を明確に言われちゃったよ……。


「俺そんなに汗かいてないぞ? ほら」


 そう言って手のひらを見せつけてやると、光は一瞬ポカンとしてからブンブンと首を振った。


「ちがう。汗は薫じゃなくて、その、私の」

「あぁ、そういうことか」

「うん」


 確かにそれは嫌かもしれない。


「だったら腕組むか?」

「……え」


 さっきと同じ反応だったから、また拒否されるかと思った。


 だが、今度はそうじゃなく戸惑った反応で止まったまま。


 やはり原因は手汗にあったらしい。


「流石に腕なら大丈夫だろ」

「……うん」


 光は頷くと、歩きながら半歩の距離だけ詰めてきて、組みやすいように腕を差し出したら、そっとそれを掴んできた。


「――あのカップルかわいい」

「――ねぇ〜」


 なんて、横を通り過ぎた女性二人が聞こえる声で会話している。


 どうやらちゃんとカップルには見えているらしい。


 これなら、会話がなくても楽に偽の恋人を演じられる。


 学校の誰かに見られたとしても問題ないだろう。


「……」

「……」


 それにしても、ホント喋らないな……。


 横目でチラリと光を見ると、彼女はてくてくと歩くことだけに集中していた。下を向いて足下を確認しながら進んでいるのは、もはややり過ぎのようにも見える。


 FPSをやってるときは俺に「下を向いてる」と指摘してくるくせに、リアルでは彼女のほうが下を向いているのはなんとなく面白い。


 だから、からかいがてら俺から指摘しようかと思ったのだが、


「……」


 少し屈んで覗き込んだ顔が、あまりに真剣だったから口にするのはやめておいた。


 何を考えているのか分からない光だが、彼女なりに一生懸命なのだろう。


 だから、俺もそれを尊重して、ただ歩くことだけに集中することにした。

たまに、まったく進展しない回があるのですが、ヒロイン的には進展してる話ではあるので、どこかでヒロイン視点の内幕をだします。

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