23話 会議室の隅
ポーカーテーブルに座ったのは、軽音楽部・演劇部・囲碁将棋部・ダンス部・軟式野球部、そして我が問題解決部の6人だった。
その周りには、俺たちがそうであるように部長以外の部員たちが数人で囲んでいる。
そうして、ポーカーが始まろうと言うとき、
「最円、なんでここにいるの?」
不意に聞き覚えのある声が俺を呼んだ。
「歩……お前こそ……」
そこにいたのは億本歩。つい数週間前まで六組にいた生徒。
「僕は空手部の部長代理として来てたんだけど……」
「歩、空手部だったのか?」
「部活には入ってないんだ。ただ、親が道場をしてるから幼い頃から空手はやってて、個人選手として大会に出たりするだけ」
その事実に俺は驚いた。というか、歩みたいな可愛い奴に空手をやらせるなんてどんな親だ!
そんな怒りに震えていると、歩は気まずそうに「あはは」と苦笑い。
「見えないでしょ? 空手って力よりも速さのほうが必要だから体幹トレーニングしかやらないし、筋肉を大きくする必要もないから」
どうやら、自身の体格のことを気にしているらしい。歩は歩のままが良いのに。
「空手って格闘技だろ? 危ないんじゃないのか?」
「あー、高校はそこまで危なくないかな? 防具は付けるし、当てるの厳しいんだよ。昔、連盟主催の大会で事故とかあったみたいで色々変わってる」
「そう、なのか」
それでも俺は心配だった。防具をつけるとしても、格闘技である以上接触は避けられない。そもそも、歩を殴ろうとしたり蹴ろうとすること自体が重罪に値する。
「それに、僕がしてるのは戦うほうじゃなくて、演武をするほうだから打ち合いとかやったことないし」
「そうなのか!」
それを聞いて胸をなでおろした。さすが、分かっているじゃないか。歩のお義父さんとお義母さんは。
「この学校の空手部はあまり強くなくて、生徒会からのお金とかも最初から望んでないから、頼まれて僕が代理で来てたんたけど……最円は?」
「俺が入らされようとしてる部活があるんだ」
「入らされようとしてる?」
キョトンと小首を傾げた上目遣いに、俺は『問題解決部』なんていうダサい名前を言いたくなかったが、歩の好奇心旺盛な瞳には勝てなかった。
「……問題解決部」
「ん? なに、もう一回」
「いや、だから……問題解決部」
言い直して数秒後、歩はいきなり「ぷはっ!!」と破顔。そして、堰を切ったように笑いだした。
そんな歩の姿は可愛くて、思わず見惚れてしまっていると、
「薫、気持ち悪い」
「痛っっ……なにすんだ」
隣りにいた千代田に足を踏まれてしまった。
「笑っちゃってごめんね? でも、そんな部活あったんだ?」
「新しく作ったんだ」
まぁ、正確には作ろうとしている……いや、どうせ部としては承認されないのだから、作ろうしているも間違いだろうか?
「なんだか、すごいね?」
「まぁな。というか、囲碁将棋部とかダンス部とかも俺は初めて知った」
それ以上の説明が嫌で、俺は話題を変えることにする。間違っても、生徒会と手を組んで予算を回収するためだなんて歩にはバレたくなかった。
「囲碁将棋部とダンス部はあまり部員いないみたいなんだけど、大会で成績残してる人が一人ずついるんだよ」
「そうなのか」
「うん」
「成績残してるなら、予算を上げて欲しい気持ちも分からなくないな」
「だよね? あと、演劇部と軽音楽部は普通にお金がいる部活だし」
「軟式野球部は成績残してるのか?」
「大会でベスト4まで勝ち上がったらしいけど、全国には行ってない」
「微妙なところだな」
「でも、軟式野球部の部長が熱い人だから、今回の予算折衝が長引いてるんだって」
そう言われて、軟式野球部の部長を見てみると、
「――俺は! 少ない部員ながらも頑張ってくれる皆のために勝たなければならないんだ!」
確かに、暑苦しそうな坊主頭の三年生が拳を握って座っていた。
「練習めちゃくちゃやりそうな部長だな……」
なんて、思わず吐露すると歩は「そう?」と疑問符。
「軟式野球部の人たち、動画サイトに数十秒のふざけた動画とか上げてて楽しそうだよ」
「そんなことしてんのかよ……」
「うん。内容は僕もよく分からなかったけど、曲に合わせて皆で騒いでる感じだったかな」
「練習しろよ」
とはいえ、歩の言葉で今回の予算折衝が揉めてる概要をなんとなく把握してしまう。
どうやら、予算を上げて欲しい部活と自己主張の激しい部活がいたことによって、面倒事が長引いているらしい。
京ヶ峰の言うとおり、『予算を上げてほしい部長』VS『生徒会』という構図だったのだろう。
それを『部長同士の戦い』に変えた彼女はやはり恐ろしい。
それだけでなく、その戦いに加わって金を回収しようというのだから、もはや悪女まである。
あとは、万願寺がどれだけ勝てるのか……なのだが。
「ツーペア」
「まじか!? 勝負すれば良かった!!」
「降ります」
「くっ、勝負してこいよ!」
「フルハウス」
「うわっ、やられた!!」
「スリーカード」
「はぁ? そんな強い雰囲気なかったじゃん!?」
「オールインで」
「「「「「……!!!?」」」」」
心配どころか、そんなのは杞憂だったらしく、万願寺は圧倒的なゲームを展開していた。
「最円……もしかして、万願寺さんってプロだったりする?」
「ビギナーズラックじゃないか? ……ははは」
もはや、それが言い訳にしか聞こえないほどに、万願寺は他の部長たちからチップを搾取していく。
「待て! なにかおかしいぞ!」
……だからだろう。
「お前! ズルしてるんじゃないだろうな!?」
堪えかねた軟式野球部の部長が、突然怒りの声をあげたのである。




