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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
二章 最円桜は一歩を踏みだす
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22話 予算折衝前の一悶着

「問題解決部……?」


 職員室にいる与那国先生に顧問のお願いをしにいくと、先生は申請書を読んだあとでため息を吐いた。


「君たちは問題を解決するというより、問題を起こす側じゃないのかね?」


「そういった問答をするつもりはありません。顧問をお願いしたいだけです」


 しかし、そんな態度に屈することなく京ヶ峰は淡々と言う。


「顧問になる以上はそれなりの責任も負わなくてはならない。無駄な問答ではないはずだ。問題解決とは主に何を指す?」


「書いてあるとおり、学校内で起こるあらゆる問題に取り組みます。その解決策を模索するなかで、多角的視点を養い、他者との協力を学び、学校内で生活をする生徒たちに貢献する、というのが目的です」


 それらしい理由を並べた京ヶ峰だったが、それでも先生の態度は変わらず、


「知っているかね? がん細胞というのは、必要のない働きを体内で過剰にし続けることによって起こる病気だ。つまり、問題を解決しようとして動いたことが致命的な問題になることもある」


 あろうことか、俺たちのことを「がん」呼ばわりした。まぁ、六組はもともとそういう所なのだが……。


「なにが気に入らないんですか……?」


 京ヶ峰は先生に対するイラ立ちを露骨に表情にした。


「何をするのか知りたいだけさ。君たちが何の目的もなくこんな部を設立するはずがないからね? それに、同好会ならともかく、部にする意味もわからない」


 それに今度は京ヶ峰がため息を吐く番。


「……同好会では、生徒会からの活動費が貰えませんから」


 そう京ヶ峰が白状したら、先生は口元に指を添えて背もたれに深くもたれかかった。


「なるほど? やはり、生徒会が打ち出した今日の予算折衝には、君たちが関わっているようだね?」


 どうやら、先生は本当の理由を察しているっぽかった。


 まぁ、今週の雑務リストに『生徒会への協力』が入っているのだから当然の推察だろう。


「気づいていたなら黙って承認しても良かったのでは?」


「確認したかっただけさ。言っただろう? 顧問になったら責任を負わなければならないと。知ってて責任を負うのと、知らずに責任を負わされるのとでは全く違うからね」


 そう言ってから、先生は顧問の欄に自分の名前を書くと、引き出しからハンコを取り出して捺印をした。


「……良いんですか?」


 そんな京ヶ峰の言葉を鼻で笑う先生。


「私はやらずに後悔するよりも、やって後悔する派なんだ。それに、生徒会が予算案に手こずっているのは教師陣も分かっていたからね? 最後は強引に事を運ぶのかと思っていたから、こういうのもアリだと思っただけだよ」


 あぁ、そういうことか。


 結局、教師たちも生徒会が抱える問題を分かってて静観していたらしい。口出しをしなかったのは生徒の自主性を重んじているからだろうか? どちらにせよ、最悪の事態は決められた生徒総会当日に間に合わなくなることだ。それを回避するためなら、たとえ強引な手段であっても寛容的に対応するつもりだったに違いない。


 改めて思うが、この学校すこしイカれてないか?


 とはいえ、部活動申請の準備は呆気なく整ってしまい、予算折衝に参加する資格を俺たちは得た。


 そして、放課後。


 予算折衝が行われる会場は普通教室棟にある会議室になっていて、各部長以外に数人の部員たちもいた。


「――大事な予算案をポーカーで決めるなんて横暴過ぎじゃないか?」


 遅れて会議室に入室したとき、まだゲームは始まっていなかったものの、やはり、抗議している者たちが生徒会に詰め寄っていた。


「先生も何か言ってくださいよ! こんなの認められるわけがない!」


 それは、生徒会の顧問として来ている男性教師にまで及んでおり、会議室内の雰囲気はピリついていた。


 まぁ、至極真っ当な意見だとは思う。


 京ヶ峰に言われるがままこんな所まで来てしまったが、正直俺もこのやり方が最善だとは未だに思ってないから。


「なんかヤバくないか?」


 群衆の後ろでそう京ヶ峰に耳打ちすると、彼女は崩れぬ勝ち気な笑み。


「大丈夫よ。こういうのはゲームに参加させたら勝ちだから」


「いや、まだ勝ったと決まったわけじゃないだろ」


 だが、その反論に彼女はため息。


「そういうことを言ってるのではないわ。最円くんは、六組でポーカーをしたときのことを覚えているかしら?」


「……あぁ」


「あの時、あなたは「私を従わせられる」というスケベな報酬に食いついてポーカーに参加したでしょう?」


 その視線は、まるで俺を試すかのよう。


「……いや?」


「とぼけてもムダよ。あなたが鼻の下を伸ばしていたのを、私は気持ち悪いと思いながら見ていたから」


「い、いやいや! そんな事言われたら誰だってそうなるだろ! むしろ、そんな事を言い出したお前が悪い!」


 咄嗟に言ったものの、それすらも京ヶ峰は鼻で笑った。


「要は、どんな手を使ってでも彼らをポーカーに参加させたら勝ちなのよ。見てなさい」


 直後、京ヶ峰は万願寺の手を掴むと、目の前の群衆をかき分けて会議室の前へと進んだ。


 そして、生徒会が用意したポーカーテーブルの前までくると、万願寺を椅子に座らせる。


 その様子を、会議室にいた誰もが注視していた。


「はやく始めましょう? それとも、私たち以外に参加する部はないのかしら? なら、予算アップは私たちの総取りにしてほしいのだけれど」


 その言葉に静まり返る会議室。


「……わかった。時間がもったいなからすぐにでも始めよう。他に参加する部がいないなら、君たちの予算案だけを検討して、他は規定通りの金額にする」


 それに会長である小金原先輩が続く。


「参加しない部は、部活に戻りなさい」


 そして、顧問である教師の言葉が終止符を打った。


 もはや、会議室内の空気は「予算の決め方について認めるか否か」ではなく、「ポーカーに参加するか否か」になっており、内々でしている会話もそのことについて。


 やがて、ポーカーに参加しない部長たちは言われたとおり会議室を退室していく。


 野球やサッカーなんかのメジャーな部は、部員数が多いため、わざわざ生徒会からのお金をあてにしなくても部費で十分(まかな)えてしまうのだろう。


 会議室に残ったのは、部員が少ないマイナーとされる部ばかり。


 そして、彼らは結局、戸惑いながらもポーカーテーブルに座るしかなかった。


 その数は、万願寺も含めてたったの六人。


 きっと、彼らが予算折衝について揉めていた部なんだろうな。


 そうして、京ヶ峰の目論見通り、予算をポーカーで決める狂った予算折衝が始まりを告げた。


「薫。私、帰っていい?」


「ダメだろ。これも雑務に入ってるんだから。あれだ、どんなに暇でも時間まで抜けられないバイトと同じだ」


「……そっか。残念」


 それを、俺と千代田は会議室の隅から傍観することにした。

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