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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
一章 最円桜は願いを口にする
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24話 学食での一幕

 昼休み。いつものように学食で飯を食べていると、益田がやってきた。


「おい、薫! お前、あの宣教師とよろしくやってるなら、俺が票を入れなくてもいいよな!?」


 彼は怒った態度で俺に詰め寄ってから、向かいの席にドンと座る。


「まったく……追放されたお前を心配してたってのに、お前は六組の女子とイチャついてんだからな! 心配して損したぜ!」


 そんな独り言を喚きながら弁当を広げて食べ始める益田。宣教師が誰のことを言っているのか分からなかったが、万願寺のことだと気づく。


 まぁ、俺は胡兆から票を入れてもらえる約束をしているから益田の票なんていらないのだが、彼の言い分はすこし違う気がした。


「別に……俺が誰と仲良くしようと勝手だろ? というか、それでお前が俺に票を入れなくてもいい理由にはならん」


「何いってんだ。なるに決まってるだろ! つーか、お前と宣教師を出会わせたのって、前回の価値残りシステムでお前に票を入れなかった俺ってことになるよなぁ? あーあ、お前に票入れてりゃ良かったぜ。羨ましいなぁ!」


「羨ましいのか?」


「羨ましいね! 今すぐにでもお前と宣教師の仲を引き裂いてやりたいくらいだよ! まったく!」


「じゃあ、俺に投票すればいいだろ? そしたら、同じクラスじゃなくなる」


「ばっ、バカ野郎。そんな野暮できるかよ。俺はお前の幸せを願ってやれる数少ない友達なんだからよ」


 益田は鼻の下を指で擦るとニヒルな笑みを浮かべて「言わせんなよ」と呟いた。なんだこいつ。


「まぁ、次も薫が六組に残るには追放されなきゃならないよな? そのためには、俺が薫に票を入れないことはもちろんだが……お前も他に追放者候補が出ないようにしなきゃならない」


 彼は腕組をして、ひとりウンウンと頷いている。


「だから、俺は薫に票を入れてやれないが、薫は俺に票を入れてくれればいいよ」


「……」


「一足先におめでとうと言っておく。俺も……胡兆さんとのラブロマンス頑張るからさ」


「……」


「いろいろあったけどさ、やーっぱ、友達の幸せは応援してやるのが一番だと気づいたんだ」


「……」


「だから、お前も俺の恋を応援してくれると助かる。他の誰でもない……お前の鼓舞で、俺は勇気をだせるんだからさ」


 そう言って、益田は親指を俺に立ててウィンクした。


 あぁ、なるほど。


「……お前、俺に票を入れなくていい理由を正当化しようとしてるだろ」


「んドキぃ!」


「それがバレたくなくて最初威圧的に話しかけてきたんだろ」


「んドキぃ!」


「でも、俺と万願寺の仲を邪魔する感じできたら、俺が思わぬ提案してきたから方向転換して態度変えただろ」


「んドキぃ!」


「本当は胡兆よりもお母さんのほうが好きなくせに。マザコン野郎」


「いや、それはない。断じて」


「嘘発見器要らずかよ。お前は」


 なんでこいつこんな分かりやすいんだ……。嘘がバレた時の反応がもはや嘘くさいレベル。


「嘘発見器ってあれだろ? 嘘ついたら電流がビリビリ流れるやつ」


「パーティーグッズのほうな、それ。本来はポリグラフ検査といって、呼吸とか心拍を測定するだけらしい」


「へぇ。詳しいんだな?」


「ちょっと気になることがあって軽く調べたんだ」


「嘘発見器が気になって調べた……?」


 益田は訝しげな目で俺を見たあと、ポンッと拳で手のひらを叩いた。


「さては……浮気してないか、宇宙人に嘘発見器をかけられたな?」


「どんな状況だ。あと俺は浮気なんてしないし、なんなら万願寺と付き合ってもないぞ」


「付き合ってない……だと……!?」


「あぁ。お前の勘違いだ」


 そう答えると、しばらくあ然としていた益田は突然ハハハと笑いだした。


「おいおい、冗談きついぜブラザー! 一体どこに付き合ってもない男女が仲よさげに買い物してる光景があるっていうんだ!? もしかしてあのスーパーで売ってたのは男女の友情か? そんなものあったら世の中にある会社はすべて経費で買ってるだろうなぁ! なにせ、それだけで社内における男女トラブルを未然に防げるんだからよ! 恋には落とさず経費で落とすってか? そんなことあるわけないだろ!」


 まるで、海外映画に出てくる陽気なキャラみたく振る舞う益田。


 そんな彼の胸ぐらを俺は掴んだ。近くにいた生徒が驚いてこちらを見ている。


 どうしても許せないことがあった。


「お前にブラザー(お兄ちゃん)と呼ばれる筋合いはない……ッッ」


 益田はゴキュリと唾を飲んだ。


「なんでそこで怒んだよ……沸点おかしいだろ」


「妹に手を出したらただじゃおかない……」


「よ、よくわからないが……なんかわかったからやめとけ。暴力沙汰なんて起こしたら、投票するまでもなく六組み決定だぞ」


 恐る恐るそう言った益田をしっかりと睨みつけて、俺は胸ぐらを放してやる。


「別に殴るつもりはない。ただ脅迫しただけだ」


「それも結構スレスレだけどな……」


 彼は胸を撫で下ろしてから制服を整えた。


「万願寺と買い物をしてたのは、あいつが料理上手くて妹に作ってやってるからだ」


「家にまであげてるのか……。薫のシスコンっぷりを見てなけりゃ、完全に夫婦認定してるところだ」


「あぁ、それと益田は前回同様に胡兆に投票して大丈夫だ」


「え? いいのか?」


「票を確約できた」


「まじかよ。あれ? じゃあ、薫の票は……?」


 不安そうにし始める益田を安心させるように俺は笑いかけてやる。


「心配しなくていい。俺もお前にいれるから」


「助かった」


 俺に票を入れるのが胡兆という事実は教えないでおく。


 そんなことをすれば、益田がまた騒ぎだすのが目に見えていたからだ。

 まぁ、よくよく考えたらわかりそうなものだが。


 そうして、益田との昼食を終えて学食を出ると、普通教室棟の近くにパトカーが停まっているのを目にした。


「警察……?」


「なんだなんだ?」


 益田も興味津々の声をあげる。


「なんだろうな?」


「去年みたく、どっかのクラスで盗難でもあったんじゃねーの?」


「盗難なんてあったか?」


「覚えてないのかよ? 臨時集会があって先生が話してただろ? まぁ、俺らのクラスじゃなかったけど」


「ふーん」


 そういえば百江が話してたな……。たしか、その時は万願寺が疑われたって。


 益田は適当に言っただけかもしれないが、その言葉は見事に的中した。



 一日前に二年五組の教室で、財布が盗まれる事件が起こっていたのだ。



 そして放課後、生徒は体育館へと招集され、六組の生徒も雑務免除で招集されることになった。 

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