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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
一章 最円桜は願いを口にする
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1話 間違えたハッピーエンド至上主義者

この作品は作者が面白いと感じたよくある学園ラブコメ要素を踏襲した作品であり、目新しい要素は何一つありません。そういった新しい作品を求めているかたは他の作品を読むことをおすすめします。

 最円さいえんさくらが義理の妹だったら良かったのに。


 時々そう思うことがある。

 そしたら、気兼ねなく一生彼女の面倒を見ることができるから。


「お、お兄ちゃん……ごめんね? いひっ、いひひひひ」


 引きつった笑顔を向けてくる我が自慢の妹は、そうやって俺の顔色を窺ってきた。


 この愛らしい微笑みは外で見せるものではなく俺にしか見せないもの。

 いわば、俺だけが独り占めしている桜の一面。

 それが嬉しくて柔らかなプラチナブロンドの髪を優しく撫でてやると、くすぐったかったのか再び「いひひ」と笑った。


 ……愛くるしいな。


 桜の髪色は地毛だ。アメリカ人である母から受け継いだそれは人形のように整った顔立ちと丸く青い瞳によく合い、俺の前に完璧なる天使を降臨させている。


 そんな遺伝子が俺の外面にもあったなら、叶わぬ夢を諦められただろう。


 しかし、残念ながら青みがかった瞳の色以外、俺こと最円さいえんかおるは父である日本人の特徴しか受け継いでいない。 


 昔から似てない兄妹だと言われてきた。


 だからこそ、「もしかしたら俺と桜は他人なのではないか?」という淡い期待を抱いてしまう。


 もちろん、そんなわけないのに。


「夢中になるのは良いが、昼はちゃんと食べるんだぞ?」

「う、うん」

「あと、マヨネーズはかけ過ぎるなよ?」

「わ、わかった」


 何度言ったか分からない注意を桜にすると、彼女は俺が昨日学校帰りに借りてきた映画のDVDを大事そうに抱えてコクコクと頷いた。


 そのDVDのパッケージには、筋肉質な上裸の男が額にバンダナを巻いて厳ついライフル銃を構えている。


 よくあるアクション映画。


 ただ、桜は物語に深く入り込みすぎるところがあって、悲しい結末を見てしまうと夜眠れなくなってしまう。


 だから、彼女が見たいと言った映画はまず俺が見て、彼女が悲しむ場面がないかをチェックしていた。


 もちろん、濡れ場があるシーンもダメだ。断じてダメだ。それでもキスシーンくらいは大目に見てやらないと見れるものがなくなってしまう。


 まぁ、桜がホラー映画好きじゃなくて良かったとは思う。ホラー映画はことごとくハッピーエンドがないからな。たいてい、ラストは成仏したはずの幽霊や化物が復活して終わるパターン。

 主人公が幽霊かれらなのだから仕方のないことではあるものの、せめて、これまで感情移入してきた主要人物を最後に殺してしまうのはやめて欲しい。


 そんな事を考えながらため息を吐くと、桜が慌てたように「ごめんなさい」と謝った。


 青い瞳が、穴にうまく嵌め込まれていないビー玉のようにコロコロと瞳の中で揺れている。


 これは、「お兄ちゃんの手をわずらわせてごめんなさい」ということだろう。別に好きでやっているのだから謝る必要はないのだが、


「許す」


 俺はそう言って笑みを浮かべた。


 謝るべきかどうかは関係なかった。悪いのは桜の前でため息を吐いた俺なのだから。


 そんな俺にできることは、少しでも彼女が不安にならないようすることだけ。つまり、謝ってきたことを受け入れてやることだけだ。


「いひひっ」


 それに安心したのか桜は笑った。それに改めて可愛いなと思ってしまう。


 その天使のような笑みを引き立たせているのは、おそらく桜が修道服を着ているせいだろう。


 まるで神から直々に与えられた権能であるがごとき美貌と、そこから生み出される聖なる微笑み。それはもはや神本人と見間違ってもおかしくはないのだが、「神を信仰する」という格好をすることによって、自分は神ではないのだと証明している。神は神を信仰しないからな。アーメン。


 それでも、黒と白によって構成される厳かな服装が桜を神角化していることは間違いなく、可愛さという一点において言えば、そろそろ何かしらの能力が目覚めてもおかしくなさそう。


 まあ、もちろんそんなことはありえないのだが、オシャレとはそういうものだろう。可愛い服を着るのではなく、可愛く見える服を着る。その点で言えば修道服をここまで着こなしているのは世界中さがしても桜くらいではないだろうか?


 本人も気に入っているらしく、ほぼ毎日その格好をしている。


 問題は外出したとき。


 目立つうえに可愛いのだから、誘拐されてしまわないよう常に気をつけていなければならない。


 この可愛さを全世界に見せつけてやりたいと常々思うのだが、いかんせん桜はまだ十三歳。世間の悪辣にその身を晒すのは早過ぎるだろう。


 いや……。


 彼女はもう十分にそれらに触れただろうから、早いというよりは触れさせたくないというのが本音。


「じゃ、じゃあ……もう行くね? ね? ね?」

「あぁ」


 どもりながら、視線をあちこちに散らしながら、そう言って部屋を出ていく桜。そんな彼女の姿を、俺は扉がパタンと閉まる最後の瞬間まで見ていた。


「……なんであんなに可愛いんだ。チクショウ」


 きっと今頃、あの扉の向こうで胸を撫で下ろし呼吸を整えたりしているであろう桜を思い浮かべると軽く身悶えてしまう。


 そんな俺をシスコンだと言う者もいるが気にしたことはない。


 なぜなら、妹を愛するのが兄というものであり、桜が可愛いのはまぎれもない真実なのだから。


 彼女にはどうか幸せであって欲しいと俺は願う。

 

 これまでハッピーエンドの作品ばかりを与えていたからか、いつしか俺もハッピーエンドしか受け付けない気質になっていた。


 だが、誰もが幸せであって欲しいという気持ちは、決して悪いことじゃないだろう。


 ハッピーエンド至上主義万歳!


 そして、妹を泣かせた奴は、地獄に送ってやろうとも思う。


 悪い奴らが世界からいなくなってしまえば、目に見えるのは幸せな人たちだけ。


 そしたらほら、ハッピーエンドの完成だ。

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