8話.息を呑む間の出来事
それはあっという間の出来事だった。
「・・・る・・」
ボソっと目の前のアレックスが呟く。
その声はあまりにも小さくて一番近くにいた私でさえも聞き取れなかった。
「あぁ?何か言ったか?」
「聞こえねぇんだよ!」
―――チッ
一瞬、目の前から舌打ちが聞こえた気がした。
あれ。アレックスさん?
アナタ、そんなキャラでしたっけ?
「うっせぇな。断るっつってんだろ」
ひらりと軽やかに馬から降りたアレックスはニヤッと笑って強気な発言をする。
「んだと!?なめんじゃねーぞ!」
当然、挑発された男たちは顔に血を上らせる。
「かかれ!野郎ども!」
「頼むぞ、相棒」
男たちの怒声と同時にアレックスはセーラに声をかけると、地面を蹴り上げ、男たちの中へ飛び込んでいった。
アレックス・・・っ――――――
はっと息を呑んでいる間には既にすべてが終わっていた気がする。
駆け出したアレックスはまず最初に向かってくる相手をすばやくかわす。
そして、そのまま回し蹴りでなぎ倒した。
その後すぐにしゃがんで挟み撃ちで襲ってきた男らの攻撃をやり過ごす。
流れるようにその体勢から相手の腹に拳を打ち込む。
そんな風にしてアレックスに目を奪われていた私は、こちらに向かってきていた男に気がついていなかった。
直前で気がついたものの、対応は間に合わず、やばいっ・・・と思った束の間、「ぐぇっ」と男の奇声が聞こえたかと思うと、セリーンの見事な蹴りが決まっていた。
「ありがとう、セリーン。」
と、ここでセリーンと微笑みを交わし、再びアレックスの方へ目を向ける。
アレックスはすでに4人目の男の持っていたナイフを奪い、リーダー格の男と対峙しているところだった。
さすがにリーダーはちょっと手強そうだ。
互いに距離を保ち、睨み合っている。
数秒の後、相手が先に動き出した。
すかさずアレックスは手にしたナイフを男に投げる。
そして自分は体勢を低くして走り出し、飛んできたナイフに怯んでいた男の鳩尾に拳を入れた。
「ぐほ・・・っ」
男の口から体液が飛び出る。
「獲物の力量くらい見切れよな」
当のアレックスは見たところかすり傷ひとつ無く、散らばっている男たちの残骸を横目に、パンパンと手の汚れを払っていた。
あら。
リーダーって実は弱かったのかしら。
・・・そんなわけないわよね。