18話.ささやきが聞こえる距離
お待たせしました。
「見つけたぞ!リチャード様っ!こちらですっ!」
その声が聞こえたのは、ちょうどゲートを潜り抜け、シリア王国との国境線を目の前にしていた時であった。
数秒前までは何の疑いもなく家出(国外逃走)の成功を確信していたため、自分の身に起きたことが一瞬理解できなかった。
「くそっ 見つかった!ティナ、シルヴァンに跨れ!早くっ!」
そう言うとアレックスは自身もセリーンにひらりと跨ると国境線を目指して駆け出した。
私もあわててシルヴァンに跨ると、遅れをとらぬよう、急いでアレックスの後を追う。
数秒のち、リチャードも遅れてゲートに到着した。
「シリアの・・・っ!早く追え!」
そんなリチャードの怒号が背後から聞こえる。
・・・リチャードが怒鳴るところなんて、初めて聞いたわ。
私にはずっとやさしいお兄さんみたいな感じで接していて、お転婆な私を叱るときも決してあんな風に怒鳴ったりはしなかった。
「ひめさま・・・っ」
リチャードの怒号を聞いたことで感傷に浸っていると、切羽詰まったリチャードの声が聞こえた。
それは、ささやくような、小さな声だった。
にも関わらず、私に聞こえたってことは、それだけリチャードが近くにいるってことで。
気が付いたときには、リチャードは手を伸ばせば届きそうな距離にいた。
「クリスティナっ」
少し先でアレックスが呼ぶのが聞こえる。
後ろではリチャードが私に向かって手を伸ばしてきていて・・・。
つかまる・・・っ!
そう思った瞬間のことだった。
「パルティア国王直営部隊近衛騎士団の方々。これから先は我がシリア国の領土にあり。ここを通過されるのならば、正式な手続きを通してからにしていただきたい。」
そんな凛々しい声とともに、シリアの軍服を身にまとった兵士たちが、わたしたちの間を遮ったのであった。