16話.分身との決別
その後の私の行動はすばやかった。
給仕の話を聞いた私はまず散髪屋に行った。
途中巡回中の近衛とすれ違うたび、マントのフードを目深にかぶり、ドキドキしながらしのいだ。
お金はいくばくかの硬貨をアレックスからもらっていたので心配はない。
そして、やっとの思いでたどり着いた散髪屋でお尻の辺りまであった髪を胸まで切った。
その上、髪の色を目立たない茶色に染め上げる。
ハニーブロンドで、城に居た頃は侍女たちが口をそろえて「勿体無くて切りきれませんわ」と散髪を渋っていた自慢の髪。
私もお母様ゆずりの豊かな髪をとても気に入っていたのだけれど、自分の将来と引き換えに失うことには少しも躊躇いはなかった。
ただ、やはり切られた髪がはらはらと床に落ちていく光景を見たときは、自分の分身が切り離されているように感じて、妙に悲しくなってしまった。
◇◇◇
「アレックス、お願い。すぐにこの街を出ましょう?」
日がだいぶ西に傾いた頃、宿に帰ってきたアレックスは悲壮な顔をして訴える私に、そしてなにより、すっかり変わってしまった私の姿に驚き目を見張った。
「おま・・・っ! どうしたんだ、その髪は!?」
あぁ、もう!
そんなこと、今はどうでもいいのよ!
はやく、はやくこの街を離れないと、すぐにでも私は捕まってしまうわ。
近衛騎士団は王直属の精鋭部隊。
他の騎士団が行う国境や地方の守備や、紛争地への派遣などにはめったなことでは赴かないが、代わりに王族の護衛、秘密裏での暗躍が主な任務となっている。
もちろん、私にもリチャードという騎士が護衛についていた。
小さい頃から傍にいたリチャードは、私にとってもかけがえのない人で、彼に黙って城を抜け出したことは今でも悔やんでいる。
そんな彼のことだ。
ここに近衛騎士がいるということは、リチャードがいないはずがないだろう。
もちろん、私をみすみす行方不明にさせてしまったため、ということでもあるのだろうが、責任感の強い彼のことだから、きっと心配して自分を責め、必死になって私を捜していることだろう。
そんな彼に、いくら外見を少しばかり変えたからといって見つからないわけはない。
一瞬でも彼の視界に止まってしまったら、私はきっとその数時間後には城にたどり着いていることだろう。
だから。
だから、はやく。
「お願い、アレックス。一刻も早く、この街を離れたいの。」
重ねた言葉に、アレックスは一瞬躊躇の表情を見せたが、その後に軽く頷き、こう言った。
「わかった。日が暮れる前に発つぞ。準備しろ。」