12話.いつもの朝とちがったわたし
湯浴みをすませて出て行くと、アレックスはすでにそこにはいなかった。
代わりに机の上にはメモが一枚。
『朝食、先に下に行って待ってる』
ですって。
こんな紙切れ一枚ですごく心が満ち足りた気分になってくる。
どうしてかしら。
なんだか早くアレックスに会いたいわ。
私たちが泊まっていた宿は、一階が大衆食堂になっている。
混雑している店内ですぐに見つかるアレックス。
彼のまわりはそこだけスポットライトが当たっているみたいに輝いていて、どうにもまぶしい。
いそいで駆け寄ると、私に気づいてふっと目を細めた。
「おはよう。」
「ああ。」
そっけない返事。
いつもはもっときちんと挨拶を返しなさいよって思っていたけど、なぜだか今日は気にならない。
むしろなんだかくすぐったくて、気を抜いたら心臓が勝手に踊りだしちゃいそう。
そうこうしているうちに、おばさんが朝食を運んできた。
「はいよ、お待ち。お前さん達はうちの宿泊客だね?人が多くて悪かったね。騒がしいだろう?」
おばさんが少し申し訳なさそうに言う。
そんなこと全然気にしてないのに。
だから、「お店、繁盛しているんですね。」って返事をしたら豪快な笑いが返ってきた。
小さな村の、小さな宿。
そこは、宿に泊まっている宿泊客はもちろん、村民も食事をしにやってくる。
特にお昼時は一斉に客がやってきててんてこ舞いなのさ、と宿のおばさんがやっぱり豪快に笑いながら話してくれた。
午後は、買い物に行った。
これから向かう予定のロゼは、この村から二日進んだところに位置する。
そのため、ここを出発したらあと二日は野宿ということになる。
進路には特に危険な場所があるわけでもなく、辺りを国営警備隊が警備のために巡回しているのでめったに盗賊などが出没することもない。
ここに来るのに通った森のほうがよっぽど危険なくらいだ。
でも、食料だとか、やっぱり必要なものがあるから。
そう言って斜め前を颯爽と歩くアレックスの背中は、広くって大きかった。
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