11話.無重力世界
ふわふわと無重力世界を漂っているようだった。
『・・・クリス、クリスティーナ・・・』
どこからか声がする。
柔らかくてあったかい。
兄様が呼んでるのかしら。
「ん・・・な・・に。・・・・にぃ・・さま」
私はまだここにいたいわ。
だってすごく居心地がいいのよ。
『ゆう・・・だ。・・・きろ。』
兄様?
何を言っているのか良く聞こえないわ。
『クリス・・・・・』
なぁに。
兄様、私はここにいたいの。
しつこいわよ。
「い・・・や・・・っ」
すると、どうだろう。
しつこいくらい私を呼んでいた兄様の声は聞こえなくなった。
変わりに、やさしく頭を撫でられている感じがする。
その手はとても愛しげに私に触れていて、すごく気持ちがいい。
その心地よさに惹かれて、ずるずると深いところに堕ちていきそう。
ほら、だんだん意識がフェードアウトしていく。
深い海の底に意識を落とす直前、くちびるを何かやわらかいものが掠めていった、ような気がした。
窓から降りそそぐ光に誘われて、ゆっくりと覚醒する。
あら。
昨日は夕日を見て。
城のことを思い出して。
家族と離れて寂しくなって泣いちゃって。
・・・・・・それから、寝ちゃったみたいね。
そんな私はきちんとベットの上にいて。
きっと見かねたアレックスがベットまで運んでくれたのね。
―――――――アレックス。
昨日の夕、アレックスに頭を撫でられたことを思い出す。
あれは、言外に慰めてくれたのね。
・・・慰めてくれただけよ。深いイミなんてないわ。
そう自分を叱責するも、心臓はバクバクと己を主張し、顔はどんどん赤くなって火照るばかり。
おまけにきゅぅっと肺が詰まって息ができなくて苦しい。
私ったら、どうしちゃったのかしら。
そんな自分の状態に戸惑いつつも、頭の片隅に残った冷静な自分が身体の火照りを醒まさねばという考えにたどり着き、頭を冷やすためにするりとベットから抜け出て浴室へ駆けていった。
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