0話.プロローグ
もうすぐ・・・
あとちょっとで抜け出せるわ・・・
絡みつく木々の枝葉が体に傷を作っていく。
しかし、そんなことを気にしている余裕はない。
一刻も早くこの森を抜け出さなければ私はすぐに連れ戻されてしまう。
『クリスティーナ、嫁にいくのじゃ』
不意に父様の言葉が脳裏をよぎる。
いやよ、いや!
あたし、まだ16歳よ。
嫁に行くなんて早すぎるわ。
『お前と国のためじゃ。国にとってシリア王国と結ばれることは大きな利益となる。もちろんお前にとってもとても良い縁じゃ。かの国の王子は誠実な者であると聞いておる。きっとお前を大事にするであろう。国の財政も安定しておるしお前は何の不自由もないだろう。これ以上良い縁談はもはや無い。クリスティーナ、何が不満なのじゃ。』
不満!?
不満なんてありすぎて全部言い切れないわ!
『しかし、これは既に双国の間で決定していることじゃ。シリアの王子もお前で良いと言っておる。お前に拒否はできない。』
なによそれ!
父様なんて大っ嫌いよ!
心臓が早鐘を打っている。
肺が上手く酸素を取り入れてくれない。
苦しい・・・
あとちょっと・・・
あと少しだけ・・・
そうすればきっと逃げ切れるわ。
「がんばって、シルヴァン。あと少しで森を抜けるわ。」
前方に白い光が見えてきた。
そこを目指して愛馬に跨り全速力で森を駆け抜ける。
私だって一国の王女。
国のためにより大国と、より国に利益をもたらす所と縁を強くするために心を伴わない結婚だってしなくちゃいけないってわかってるの。
わかってるのよ。
だけど、生まれてこの方ずっと城の中。
出会う人は皆私を王女として扱うの。
「パルティア国の第一王女でいらっしゃるクリスティーナ様は」ってね。
甘い恋だってしたことがない。
ずっとずっと、夢だったの。
おとぎ話の、そう、シンデレラのように甘い恋をしてみたいって。
だから私は逃げ出すの。
あんな城の中にいてもシンデレラになんてなれないわ!
あの光に届けば・・・
届けば、きっと私も・・・
―――――「シルヴァン、やったわ・・・」
柔らかい光が体を包み込む。
やっと、やっと城から抜け出せた。
張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れる。
ふと気を緩めた途端に世界は暗転し、意識は真っ暗な闇に落ちていった。