祝福を
「リ……ア……?」
「カ、イン?」
カインが私の目の前に立っている。呆然と私を見つめている。
私は何が起こっているのか理解が追いつかなかったが、まずカインを上から下へ、全身くまなく確認した。
カインは呆然としているものの、しっかりと地面に立っている。服装も足元がやや汚れている程度で、ケガはしていないようだ。足元を確認した私はまた上へ瞳を動かしてカインの顔を確認する。目がばっちりと合った。
「カイン!!!」
私はカインに飛びついた。カインの体躯にしっかり抱き着くとぬくもりが伝わる。私の瞳の奥がじんわり温かくなった。
生きてる。カイン生きてる!
カインの気も知らずに、私は甘えるようにカインの胸に頬をすりつける。すると、カインの手が私の頭をなでた。
「リア?本当に?幻覚じゃないのか?触れる…香りもリアの……」
呆然としながらも、カインは私を確かめるように顔や頭をなでまわした。
「リア!」
そしてそのまま抱きしめられた。
「良かった。カイン、無事で良かった!」
「リア、どうしてここに……いや、もうどうでもいいな。迎えに行く手間が省けたのだから」
「……え?」
カインのぬくもりに浸っていた私だったが、カインの言葉に我に返った。話をするため距離をあけようと、カインの背中にまわしていた腕を緩めると、カインの腕が拒むように強く抱きしめてきた。
「カイン?」
「リア。とても素敵なお屋敷を見つけたんだよ。きっとリアも気に入る」
突然何の話?
「や、屋敷?」
「そう、君と僕の。今から行こうか。家具も揃っていたし、掃除もされていたからとてもキレイで清潔だよ。今日から住める」
「え?え??カイン??」
「大きなベッドもあった。今夜から一緒に寝ようね。毎晩毎晩、可愛がってあげる。君はどんな声で鳴くのかな。たくさん気持ちよくなろうね」
カインが私の耳元で楽しそうにクスクス笑う。そして何を思ったのか、私の耳の形をなぞるように舐めてきた。
「ひゃあっ!」
「ふふっ。可愛い」
私は驚いてカインから離れようとしたけれど、カインの腕はますます私を締め付けてくる。私の身体は押しつぶされて、心地よかったものが一気に苦しくなった。
「ダメだよ、リア。僕から離れようだなんて」
「カイ、ン、く、苦しい」
ハッとしたカインは腕を緩めて、私の顔を心配そうにのぞきこんだ。
「ごめん!僕……」
私は息をついて、カインを見上げた。
「…大丈夫。カインの方こそ、どこもケガとかしてないよね?土砂崩れに巻き込まれたと聞いて、私……」
カインは微笑んだ。
「ああ、やっぱり崩れたのか。あの大きな音はその音だったのかな。実はね、街道を馬で駆けていたんだけど、山の方から小さな石がコロコロ落ちてきていたのが気になって、森の方に入ったんだ。街道に入ってから精霊たちもおかしな動きをしていて落ち着かなかったというのもあるけれど」
私は泣きそうになりながら、つぶやいた。
「カインが異変に気付いて良かった。精霊眼持ってて良かった……」
「リア……」
「殿下!」
カインが優しく頭をなでてくれていると、カインの後ろから男性の声が聞こえた。
「殿下、お一人で行動なさらないでください」
甲冑を着こんだ男性が数人現れた。護衛の騎士様かな。馬も連れてる。
「……そちらのご令嬢は」
「あ、私は、ふごっ!」
言いかけた私を、カインは隠すように抱きしめた。変な声出たじゃないの。
カインは騎士様を一瞥する。
「…行き先を変更する。パルマ家に引き返すぞ」
騎士様は少し驚いた後、表情を険しくした。
「なりません。街道を大きく逸れている上に、ここは森の中です。もう日も沈んでしまいましたし、動き回るのは得策ではありません」
「……チッ」
カインが舌打ちしたぁ!
私は初めて見るカインに驚きつつも、少し嬉しくなった。穏やかで優しいカインも好きだけど、素っぽくはないのよね。舌打ちカイン、新鮮だなあ。
すると、騎士様の一人が私を見て戸惑った。
「あ、あの、そちらのご令嬢はここで何を?靴を履いてないように見受けられるのですが」
カインが、バッと私の足元に目を向けた。私もつられて自分の足元を見る。確かに私は靴を履いていなかった。だってテラスで脱いだもの。そうよ、私、自分の屋敷に居たはず。この状況どう説明すればいいの?
「えっと、これは……」
何か言わなければと口を開いた瞬間、視線が回転する。
「わっ!」
「リアが汚れてしまう!」
そう言いながら、カインが慌てて私を抱き上げた。横抱きにされた私は、カインの首元にしがみつく。
びっくりしたぁ!
「ごめんね、リア。今日は森で野宿になりそうだ。リアは僕が抱えているから、僕の膝の上で眠るといいよ」
ものすごい過保護発言出たんですけど。護衛の騎士様方、引いてない?
そうだ。皆、カイン達を探しているのよ。森ってことはリステンおじさまが言っていた森で合ってるよね?
「あの皆様、街道沿いの森にいらっしゃるんですよね?今、陛下が皆様を探されているんです。ここが森のどのあたりか分かりますか?」
全員がざわめいた。カインに苦言を呈していた騎士様が残念そうな表情をする。
「申し訳ありません。この森の地理には詳しくない者ばかりでして。暗くなってしまいましたし、木々も濡れているので狼煙もあげられません」
雨は止んでいたけど、木も土も湿っている。どうにかならないだろうか。せめて誰かにカイン達は無事だと、森にいると伝えられたら―――
そう思って、私はハッとした。そうだ。私、カインに出会えたら自分の気持ちを伝えるって決めてたんだった。
「野宿できそうな場所に移動しましょう。向こうに小川と洞窟がありましたのでひとまずは―――」
護衛の騎士様がそう言って歩き出した。
私を抱えて歩き出したカインに、私は話しかけた。
「カイン、あのね」
「ん?」
カインは私の瞳を見つめた。私も見つめ返す。
「大好きだよ、カイン」
すると、カインの瞳が大きく見開かれていく。私は続ける。
「本当はね、カインにずっとそばにいて欲しいの。でも、わたしのこの思いがカインの邪魔してるんじゃないかと思い込んでしまって、だから、ウソついたの。……ごめんなさい」
私はうつむいた。
「結婚しよう、って言ってくれてすごく嬉しかった。でも、それは私を憐れんでいるから言ってくれたんだと思ってしまって」
「リア」
「私、カインの隣にいてもいい?」
「ダメだ」
私は泣きそうになった。やっぱりそばにいちゃダメなんじゃない。でも、いいの。気持ちを伝えることが目標だったもの。
……あれ?でも待てよ。さっきカイン、私と一緒に住む屋敷がどうのって言ってなかった?
ん?どういうこと?一緒に住むのはいいけど、隣はダメってこと??んん??一緒に寝る発言は何だったの???
私が混乱していると、カインの泣きそうな声が届いた。
「ダメだ、リア。どうして」
私はカインの顔を見上げる。戸惑った、何か焦っているカインの顔が目に飛び込んできた。
「どうして身体が透けているの?!」
「へっ?」
私は自分の身体を見た。私の身体を包んでいるカインの腕や身体が見える。明らかに私の身体が少しずつ消えていっている。そう思っていると上に浮き上がる感覚がした。
「カ、カイン!」
「リア!!」
カインが必死になって私をつかもうとするが、カインの手は空を切るばかりで一向につかめない。私も必死になって手を伸ばす。
「ダメだ!リア!僕から離れてはダメだ!!行かないで!!!」
そう言われても、私にもどうにもできない。身体はゆっくりと浮上していく。
「リア、僕も好きだ!愛している!だから、だから行かないで。僕のそばにいて!!!」
カインの菫色の瞳から涙が流れる。私はそれを見て胸が苦しくなった。
カインの気持ちを初めて聞いた気がする。カインのそばに行きたい。カインの涙をぬぐってあげたい。
私はずっとカインに甘えてきた。でも、今は不思議と甘えたい気持ちじゃない。
泣いてるカインを慰めたかった。そもそも泣いているカインなんて初めて見たの。もしかしてカインもこんな気持ちで接してくれていたんだろうか。
愛しい。
「カイン」
私はカインに口づけた。
とても軽く、唇の表面をなでるようなキスだった。カインの驚いた表情がとても印象的で。
私はなんとなく自分の屋敷に帰るのだと思っていた。だから、カインに伝える。
「帰ってきてね。カイン。王都で待ってるから。約束だよ?」
「リア!!!」
私は瞳を閉じた。
チョコのソフトクリーム食べたい。こんにちは。いかがお過ごしですか?
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