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届けたいもの

両親が亡くなる前日だった。


「父様と母様なんて大嫌い(だいっきらい)!!!」


私は大好きな両親に向かってそう叫んだ。理由は全くくだらないものだった。


その日、私は両親にお出かけ用のドレスを買ってもらった。でも、その後に可愛いクマのぬいぐるみを見かけてしまって、両親にねだったのだけど結局買ってもらえなかった。


翌日、私はまだ怒っていて、両親とまともに会話しないまま、二人は夜会へと出掛けてしまった。


私はリィにたしなめられ、二人が帰ってきたら謝るつもりでいた。




ああ、今更思い出すなんて。






私はぼんやりと王宮のサロンのソファに座っていた。

陛下と王妃殿下は、ずいぶん前に退出していた。私を励まし続けていたリステンおじさまも、少し前に誰かが呼びに来て席を外している。


王宮のメイドさん達が紅茶をいれてくれたけど、私は飲むことなく紅茶のカップをただ眺めていた。



カインから離れようとしていたけど、こんな離れ方は望んでない。

カインが死んだらどうしよう。いや、もうカインは―――


違う。違うの。カインには幸せになって欲しいの。


一番辛いときに一番近くでずっと支えてくれたから。

たくさん、たくさん寂しさを埋めてくれたから。


世界で一番幸せになって欲しかっただけなの。



カインの笑顔が浮かんだ。私は涙が溢れた。



気付いたメイドさんがハンカチを差し出してくれたけど、受け取れなかった。もう、動けない。気力がわかない。涙だけが落ちていく。



「アマリア様」


すると、リステンおじさまがいつの間にか帰ってきていた。おじさまは私のななめ前で片膝をつき、私の顔をのぞきこんでくる。でも、目は合わない。私がカップを見ていたから。


「旧街道沿いの斜面が広範囲にわたって崩れたようです。カイン殿下は昨日、パルマ侯爵邸に泊まられ昼前に出立なされたそうです。その際、急いで王都に帰りたいからと旧道を通るとおっしゃっておいでだったと」


……それで巻き込まれたの?


私はまだ紅茶のカップを見つめていた。


「ただ、殿下が旧道に入られたのは確認したそうですが、その後の足取りが分かっておりません」


私はおじさまを見た。おじさまと目が合う。


「陛下は捜索隊を結成し、その第一陣が先程、現地に向かいました」

おじさまは淡々と事実を述べる。けれどその瞳は『諦めるのはまだ早い』と言っていた。

「私も第二陣として向かいます」

おじさまは私の様子を窺いながら伝えてきた。私はぼんやりとおじさまを見つめながら首をかしげた。

「……おじさまも?……どうして?」

「実はあの辺りの地理に少し詳しいのです。街道の反対側は広大な森になっておりまして、もし殿下が街道から見つからなければ森へ向かわれた可能性がありますから。私は森の捜索に加わります」


私は目を見開き、息を呑んだ。

ああ、そっか。うん、そうよ。まだ死んでない。きっと生きてる。どこにいるかわからないだけよ。

大丈夫。大丈夫。


うつむいた私は、ぎゅっと瞳を閉じて念じるように自分に言い聞かせる。

その時、ふと先日のおじさまとの会食を思い出した。

あの時の陛下と父様の話を。


まだ、間に合うだろうか。


「……おじさま。……私にも何か出来るでしょうか?」

おじさまはジッと私を見据えた。

「……何か、とは?」


私は顔をあげた。



「私も歌でカインを救えますか?」



父様が歌でどうやって陛下をお守りしたのか想像もつかない。私の加護は父様より格上だと言われても、父様のように出来るかわからない。でも、私も何かしたかった。カインの為に。カインに生きていて欲しいから。今更歌ったところで遅いかもしれない。無駄かもしれない。もう間に合わないかも。


すると、おじさまが静かに、だけど明らかに熱意のこもった声音で言った。




「やらないで後悔するより、やってみて後悔なさいませ」




私は、またも目を見開いた。おじさまの顔をまじまじと見つめる。それまで硬い表情だったおじさまがフッと笑った。

「使えるものは、なんでも使ってやってみますよ。私なら」



おじさま……。


おじさま、私、出来れば後悔しない方向でやってみたいのですが……。

それ、どっちみち後悔してるよね。


私もフッと笑った。そう思える程に元気が出てる。そうよ、歌を歌うぐらいしか出来ないんだから。もう、がむしゃらに歌ってやる!私は膝に置いていた拳をさらに握りしめた。そして、気合を入れて立ち上がる。


「伯爵邸に帰ります」


おじさまは微笑んだ。

「かしこまりました」







私は伯爵邸のテラスで歌いたかった。

あのテラスでは父様と一緒に歌の練習をたくさんした。その歌を母様が聴いていてくれて、私にとってはすごくリラックス出来る場所の一つだった。


歌の加護は場所の制限がない。防音を備えた部屋だろうが、地下深くの牢獄だろうが関係ない。父様がそう言っていたのはいつだったけな。



テラスに着いた。未だ雨が降る庭を見つめながら呼吸を整える。気合を入れるために靴を脱ぎ、素足で立った。


何を歌おう?いろんな歌があるから、何を歌えばカインに届く?カインを助けられる?


そう思っていたところに、ふわっと風が吹き抜けた。



『相手を想いながら歌うことが一番大事なんだよ』



父様の声が聞こえた気がした。

ああ、そうだわ。父様そう言ってた。ならば、今カインに届けたい歌は―――






私は歌った。カインの幸福と無事を祈って。






そういえば、カインから離れようと決意した時もここで歌ったなぁ。私、あなたに謝るばかりで何も伝えなかったね。それどころか、そばにいなくていいなんて嘘をついた。

あなたともし、もう一度会えたなら、私は自分の気持ちを正直にあなたに伝えるね。だから生きて帰ってきて。ちゃんと聞いてね。



私は目をつぶった。いや、正確には開いてるのよね。

……あれ?なんだか前もこんなことなかった?いつだったっけ?


……そうだ、カインと一緒に歌ったときだわ。

父様と母様のお葬式が終わって、部屋に閉じこもって、そしたらカインが訪ねてきて。

カインは王子様だからおもてなししないと、と思ったの。だからリィ達にテラスにお茶の用意をしてもらったのだけど、父様、母様を思い出して泣き出してしまって。そしたら、カインが抱きしめてくれて。


『ねぇ、アマリア嬢。僕、アマリア嬢の歌が聴きたいな。何か歌ってくれる?』


そうそう、泣いてる人にすごいこと頼むなぁって泣きながら思ったわ。でも私、一人で歌ったことがないから戸惑ったの。そしたらカインが一緒に歌うって言いだした。


『僕もいつかアマリア嬢と歌えたらいいなと思って密かに練習してたんだ。君のお父様ほど上手じゃないけど、一緒に歌おう?』

『歌は何にする?お父様とお母様に何を伝えたい?僕、どれでも歌えるよ』


そう言われたから『謝りたい。大好きだって伝えたい』って言って歌ったのよ。ここで。

そしたら目の前に両親が―――




目の前に両親が???


私はその時のことを思い出し、びっくりして目を開いた。





「……え?」

なに?やけに暗いのだけど。おかしいな。私、屋敷のテラスにいたよね?


辺りは真っ暗だった。私は驚いて歌を止めてしまった。


「ホーホー」

なんだか鳥っぽい鳴き声が聞こえてくる。だんだんと目が慣れてきた。草がうっそうと生い茂り、私の周りを木々が取り囲んでいる。その木々の隙間から星がまたたいていた。足元を見てみれば、湿った大地が広がっており、私は素足で立っていた。



明らかに屋敷のテラスじゃない。



「……ここ、どこ?」

え…、え?え?!待って待って待って!何が起こってるの?なにこれ?!ここどこ??なにこれ??!


きょろきょろと辺りを見回す。でも木と草以外見当たらない。私は頭を抱えた。


突然の事にひとりで混乱していると、後方から『ガサッ』と音が聞こえた。驚いて振り向く。


聞き覚えのある声が聞こえた。私が求めていた声が。









「リ……ア……?」








「……カ、イン……?」



カインがひどく驚いた表情で私を見つめながら立っていた。









得体の知れない虫に唇をかまれる午前2時。どうもこんにちは。いかがお過ごしですか?私の口は半日腫れてました。


終わりそうで終わりませんね。すみません。本当に配分がよくわからない。書いてる私がわかってない。これ、本当に短編予定だったのか疑われるレベルです。


もう、どうにもなんねぇ。


もう少しお付き合いいただけますと嬉しいです。


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