宝物(カイン視点)
話の後半、カインさんがちょっぴり過激になっております。作者は大丈夫と思って投稿しておりますし、ヤンデレ好きさんからしたらなんてことない、むしろもっと来いやぁと思われるかもしれませんが、もし、こいつはダメだと思われましたらブラウザバックしてください。
「ねぇ、リア。僕が王様になったらリアは嬉しい?」
問われた彼女はコテンと首をかしげた。
チョコレートブラウンの髪がふわりと流れる。思わず掬って口づけを落としたい衝動に駆られる。彼女はうーんと考える素振りをした後、僕をジッと見つめてこう言った。
「わからない。でも、カインが私のそばにいてくれるのはすごく嬉しい。今みたいに」
僕はその言葉を聞いて思わず笑みをこぼした。そんな僕を見て彼女も笑う。
そう。そうか。僕たちは両想いなんだね、リア。
「ずっとそばにいてあげるね。ずっと、ずーっと一緒だよ、アマリア」
あの日の君の言葉は今でも僕の宝物なんだ。
僕は勢いよく自室のドアを開けた。
そのままツカツカと机に向かい、拳を振り下ろす。僕を出迎えた従僕が声を上げて驚いた。
ああ、イライラする。
どうしてこんなことになった。誰が彼女を唆したんだ。
アマリアが僕を拒絶するなんて。
思えば、数日前から彼女はおかしかった。
そもそも、学園に入学してから彼女は僕によそよそしくなった。やはり入学させるべきではなかったんだ。
「どうする。どうしたらいい。考えろ、考えろ……」
僕は焦っていた。リアと僕は両想いのはずなんだ。なのに、なのに僕の求婚を拒むなんて。挙句には
『もう、そばに、いなくていい!!!』
「ダメだ、ダメだダメだダメだ!!!」
陛下から言われていた。彼女が僕を選ばなかったら、潔く諦めろ、と。
「無理だ、そんなこと出来ない。リアは僕のものなんだ。誰にも渡さない」
でも、今日の事が陛下に知られれば、僕には適当なご令嬢が宛がわれるだろう。そして彼女には誰が―――認めない、認められない。
陛下はアマリアを大事に扱う。大切な親友の娘だからか、それとも彼女が神霊歌の加護持ちだからなのか、理由はわからない。もしかしたら陛下もあの時、彼女に魅了されたのかも知れないな。
アマリアと僕は王宮のお茶会で出会った。そのお茶会はアマリアの為のものだった。彼女の加護のランクがわからないので精霊眼を持っている僕に見極めてほしいと、彼女の父ライナスに頼まれたのだ。
僕のこの菫色の目はいろんなものが見えた。精霊は当たり前に見えるし、死者も無害なものから少々危険なものまで見えた。なかでも得意なのが人の気持ちを見ることだった。
人の感情が色付きの靄のように見えた。僕に好意があれば明るいピンク色だし、悪意があれば黒みがかった暗い色をしている。そして、その思いが強ければ強いほど靄は濃くなり、顔なんて見えない程だった。
幼いころは大変だった。加護のコントロールが下手くそだったのか誰の顔も見えていなかった。それどころか、人の多い所ではいろんな感情の靄で覆い尽くされ、気分が悪くなり中座することも度々あった。
だから当初は、あのお茶会にも出たくなかった。当時は僕の婚約者や側近を決めるためのお茶会が定期的に開かれており、僕も疲れていたのだ。
ライナスから頼まれたから僕は引き受けた。ライナスは僕と同じ上級の加護持ちでかろうじて顔がわかる唯一の人だった。僕の加護持ちゆえの辛さや、しんどさを理解して励ましてくれる、優しくて穏やかな人だった。
初めて彼女を見たとき、僕は驚きを隠せなかった。
なんだ、あの子は。どうしてこんなに鮮明に見える。
彼女には一切靄がかかっていなかった。だから彼女のふわふわと揺れるチョコレートブラウンの髪も、ぱっちりとした愛らしいオレンジの瞳も、透き通るような白い肌もよく見えた。
そんな彼女と目が合った。すると、彼女の頬に赤みがさした。耳まで赤くなり、ライナスの後ろに隠れた。僕を見て照れたのか。僕に見られて照れたのか。
かわいい。
そんな彼女をずっと眺めた。僕には彼女の加護を見極める仕事があるし、こんなに鮮明な子は本当に初めてで興味がわいたのだ。
相変わらず周りは靄だらけだったが、彼女が歌いだした途端に靄が薄くなった。彼女の瞳はオレンジから虹色に変化し、室内のはずなのになんとも気持ちの良い風が吹き始めた。加護が発動したのだ。
見極めてやる。僕に見えないものはないのだから。
僕に見せて見ろ。君のすべてを。
僕は彼女を見続けた。だが、おかしい。いつまでたっても見えてこない。こんなことは初めてだった。僕は目に力を込めた。だけど彼女は鮮明なままで。
おかしい。精霊眼は発動しているはずだ。なぜ。どうして。
僕の眼球が震えだしたのがわかった。このままでは失明する。直感的にそう感じた瞬間、僕の目の前に白い衣服をまとった、見たこともない美しい女性が現れた。
『貴方に祝福を』
女性の口が、そう動いて片方ずつ僕の瞼に口付けた。僕は見惚れてしまった。
眼球の震えが治まった。驚いて瞳をまたたいていると、女性はニッコリ笑った。そして歌う彼女と重なるように立ったのだ。その時、僕は気付いた。
あの女性はまるであの子を大人にしたような姿だ、と。
もっと驚いたのが、靄がすっかり晴れていたことだった。誰の顔もはっきりわかる。陛下の顔さえまともに見えて、こんな顔だったのかと思いながら放心していた。
歌が終わると、その女性は消えてしまった。室内にはいつのまにか花びらが舞っており、お茶会に来ていた誰もが感嘆の声を漏らしていた。
不思議だ。こんな幸福な気持ちになるなんて。
そう思いながらも彼女を見続けていると目が合った。すると彼女は柔らかく笑ったのだ。
その瞬間、僕の心臓が早鐘を打った。
かわいい。愛しい。触れたい。
欲しい。
僕はそれ以来、彼女が、アマリア・メロディが欲しくて欲しくてたまらない。
僕は自室のソファに座り、組んだ手を額にあてていた。足はみっともない程カタカタと揺らしていた。王族が貧乏ゆすりをするなど、咎められることだろう。
でもな、僕だって人間なんだ。
「殿下……」
「黙れ」
「……」
従僕が何か言おうとしたが、今の僕には聞いてやれる余裕が無い。
だって、僕のアマリアが僕から離れようとしているんだぞ。
「許せない。リアは僕のなのに。僕がずっと愛でて大切にしてきたのに…。僕の宝を……」
「殿下の宝物ですか?」
黙れと言ったはずなのに話しかけてきた。従僕のメンタルはどうなっている。
「アマリア様からいただいた手紙やプレゼントは厳重に保管してありますが?」
何かトンチンカンなことを言っている。僕がブツブツ言っているせいで、よく聞き取れないのだろう。
「そんなことは知って……」
その時、ハッと思い立った。そうだ、そうだよ。どうして今まで思いつかなかったんだ。
「……アマリアを隠そう」
僕は立ち上がり、机に向かうと引き出しをあさり始めた。色々な書類が床に散らばる。従僕が慌てて拾っていた。僕はお目当ての書類を見つけてそのまま読み始める。
僕は以前、アマリアと一緒に住む為の屋敷をピックアップし、書類にまとめていたことを思い出したのだ。
「リアは僕の宝物なんだから、大切にしまっておかなくちゃならなかったんだ」
監禁、そんな言葉が浮かんだ。
それは犯罪だ、リアが喜ばないと冷静な自分がたしなめてくる。
いいんだ、もう。彼女の心が手に入らないのなら、せめて身体だけでも―――
「……ああ、そうだ。孕ませよう」
連れ去ってすぐに彼女を抱くんだ。ずっと大事にしてきたから、キスのひとつもしてこなかった。
ずっとあの可愛らしい唇に触れたかったのに。ああでも、もう我慢しなくていいんだ。
彼女にも僕の身体の味を覚えてもらおう。僕なしでは生きられない身体にしてやるんだ。
「……ふふっ、ははは、あはははは……」
従僕がびくっと肩を跳ねさせた。
「で、殿下?」
書類を持ったままオロオロしている。きっと僕が怪しく笑っているからだろう。試しに精霊眼で見てみたらやっぱり困惑の色になっている。
もう一人の自分が、そんなことはやめろ、リアが傷つく、あの子を悲しませたくないと必死に訴えてくる。
傷つく?はははっ!僕だって傷ついた!彼女に拒絶されて悲しかったよ?!……慰めてもらわなくちゃ。君の全部で僕を慰めて?アマリア。
その為には、彼女を監禁する屋敷を見つけなければ。明日、下見に行こう。この書類から何軒か見繕わないと。
「僕は休む。明日は朝から出かけるから馬を用意しておけ」
「え?!ですが殿下、明日はまだ学園が……」
「休む」
「え、いや、ですが今からですと護衛の騎士などの準備が……」
「それをしておけと言っている。…返事は?」
「か、かしこまりました」
従僕は困惑の靄のまま、部屋を出ていった。
ああ、君の感情も見えたらいいのに。アマリア。
彼女の歌の効能なのか、あのお茶会以来、僕は精霊眼をコントロール出来るようになった。先程のように意識しないと見ることは出来ない。おかげで僕はとても生きやすくなった。
「僕のそばにいてよ、アマリア。僕も君のそばから離れないから」
翌朝、僕は数人の護衛だけ連れて城を飛び出した。
お風呂に入りに行ったら、いつもは台の上に置いてある桶が床の真ん中に置いてありまして、「一体風呂場で何の儀式を…?」と思った今日この頃。こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
カインさん視点いかがでしたか?病んでる感じが出てるといいんですが。楽しんでいただけましたらマックス嬉しいです。後はデレていただこう。
次回はアマリア視点に戻ります。
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