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解放しないと

初めて投稿します。

至らない点が多々あると思いますが生ぬるい目で見ていただけると助かります。


R15は念のためにつけています。

「カイン殿下につきまとうのはおやめなさい」


新緑がまぶしい季節。


私 アマリア・メロディはたくさんのご令嬢に囲まれていた。

学園の食堂へ行く途中、声をかけられ振り向いた所、あっという間に中庭へ連れていかれたのだ。


「あの方は側妃様のお子ですが兄君様に勝るとも劣らない程、優秀な方です。さらには、『精霊眼』の加護をお持ちなの」


ご令嬢方の真ん中でひときわゴージャスな美女が私に語る。


知ってる。私とカインは幼馴染だもの。


「今はまだ婚約者をお決めではいらっしゃいませんが、殿下はいずれ有力な貴族のご令嬢と婚約なさいます。王位を取るために」


それは知らなかった。


「確かに殿下は素敵な方だわ。見目麗しいし、穏やかだし」


他のご令嬢方もうんうん頷く。


しなやかな黒髪に優し気な菫色の瞳を持った美丈夫。

カインはご令嬢方の憧れの的だった。


「殿下をお支えするのに貴女では力不足ですの。富も権力も何も、持っていないでしょう?」


そうですね。そうだけど、


「殿下に恋をするのは自由だわ。そこは責めません。殿下と親しい間柄なのも承知しています。でも、身は引いて下さらないかしら。私もこんなこと言いたくないのよ。殿下の将来の為なの」


ご令嬢方の後姿を見送りながら、私は力なく近くのベンチに座った。


「……つきまとってるつもりはなかったんですけど……」



レイシャント王国。


クロード・シンラ・レイシャント王が治める、大陸の東に位置する穏やかな気候の国だ。私はその国の、メロディ伯爵家の一人娘として生を受けた。

クロード王には五人の子供がいる。その一人がカインだ。



私とカインは王宮のお茶会で出会った。


私の父様はカインのお父様、クロード陛下と親友で側近も務めていた。

父様が私の事を陛下に話したことがきっかけで、両親と共に王宮へ招待していただいた。


その場にカインも同席していた。


父様は『精霊歌』と呼ばれる数少ない加護持ちの一人で、特殊な歌を歌うことで様々な奇跡を起こす人だった。


私はそんな父様を尊敬し父様の真似をしてよく一緒に歌っていたのだが、そんな私の姿に父様は感激し、なぜか王族の前で披露する羽目になってしまった。


それまで人前で歌ったことがなく緊張していたが、父様と一緒に歌えたことで私はいつのまにか瞳を閉じて熱唱していた。


気持ちよく歌い終え瞳を開けると、室内にも関わらず色とりどりの花びらが舞っていた。


やっぱり父様の歌はすごいなぁと周囲を見渡した時、呆けたカインと目が合った。


うんうん、すごいよねぇ。私も初めて見たときは驚いたもの。

と思っていたのだが、なぜかカインは父様ではなく私ばかり見つめてきた。


そしてお茶会終了後、カインの方から声をかけてくれたのだ。


「アマリア嬢 僕の文通相手になってくれない?」


父様にうながされ戸惑いながらも頷くと、カインはとろけんばかりの笑顔で喜んでくれた。笑顔がまぶしくて顔を背けた記憶がある。


この時からカインと交流するようになった。

私は8歳、カインは10歳だった。


カインと出会ってから8年目を迎えようとしていた。



当時を思い出していた私は、中庭のベンチから腰を上げ食堂へと向かった。

時間が遅かったせいか食べ終えてお茶を飲んでいる人がほとんどで、人の数も落ち着いていた。


その中に団体で昼食を取っているご令嬢方がいた。キャッキャと楽しそうな声が聞こえてくる。その中心にはカインが居た。


「へえ、食堂では季節に合わせたデザートが出ていたんだ。知らなかったな」

「ご存じないのも仕方ありませんわ。殿下は今までサロンの方で昼食を取っていらしたんですもの」

「もっと暑くなってくると目にも涼し気なデザートが出るんですよ。殿下はこれからも食堂でランチを召し上がるのですよね?」

「そのつもりだよ」

「でしたら今度、皆さんでいただきましょう!楽しみですわね」


わあ、楽しそう。


会話を聞きながら、注文したランチセットがトレーの上に出来上がるのをカウンターで待つ。

チラッとカイン達を盗み見た。ご令嬢方や側近さんはほぼ食べ終えているのに対し、カインのトレーの上にはご飯がこんもりとのっていた。


カインも遅かったのだろうか。それにしては、側近さんが食べ終えているのはおかしい気がする。いつもカインの斜め後ろに控えて行動を共にしているイメージがあるからかな。


そんなことを考えているうちにランチセットが出来上がった。私は席を探す。

カイン達の目に入らない、出来るだけ遠くの柱のかげになっている席を見つけてこっそりと動く。


カインの事は好きだ。大好きだ。私もランチをご一緒したい。でも、周りのご令嬢方は苦手だった。


私には同性の友人がいない。異性の友人もカインだけだった。昔から社交は苦手で、屋敷で本を読んで過ごす事の方が多かった。


苦手意識に拍車がかかったのは学園に入学してからだ。

実は先程のお呼び出し、初めてじゃない。

意地悪されたり、暴言を吐かれたり…はないのだが、複数で囲まれてカインについて苦言を呈されるのは気分の良いものではない。

反論してみれば、一斉に返ってくるのでとても怖い。

元々、自分の気持ちを言う事が苦手だったこともあり、私は心の中で反論や相槌を打つようになってしまった。


「リア!」


私が席に着こうとした瞬間、大声で呼ばれた。恐る恐る振り向いてみれば、イスから立ち上がったカインが私を見つめていた。

カインは自分のトレーを持って私に近づいてくる。ご令嬢方が慌ててカインに付いてくる。


いや、お姉様方は来なくていい。


「遅かったね、リア。待ってたんだよ」

「そ、そうなんだ。ありがとう」

「今日はこっちで食べるの?いつもの席、取っておいたんだけど」


学園の食堂は席なんて決まっていない。誰でもどこでも食べていい。ただ、誰がどこで食べるか、だいたいの位置は自然と決まってくる。

あのスペース、私じゃなくてカイン達の定位置だと思っていたんだけど、カインの中では私の席だったらしい。


「まあいいか。さあ、食べよう」


カインは私が座ろうとしていたイスの前の席にサッと座った。このスペースは二人用で団体では座れない。カインに付いてきたご令嬢方はトレーを持ったまま立ちつくしていたので、私も気になって座れなくなってしまった。するとカインがご令嬢方に振り向いた。


「あれ?君たちは食べ終わったでしょう?僕たちの事は構わずに、午後の授業の準備でもしておいで。楽しい時間をありがとう」


立場が上のカインからそう言われては教室に帰るしかない。ご令嬢方は渋々、退席していった。その際、何人かのご令嬢に睨まれる。


カインの事、睨めないからって私を睨むのやめてください。


「ほら、リア。座って。食事が冷めてしまう」

「う、うん」


カインの側近さんは近くの席に座って本を読み始めた。まるで、『僕は空気ですのでお気になさらず』と言わんばかりにひっそりと。


「そうだ、リア。今日は一緒に帰れそうなんだ。リアの馬車は先に屋敷へ帰しておくから僕の馬車で一緒に帰ろう」

「生徒会の方はもういいの?」

「ひとまずね。夏休み前には新生徒会メンバーへの引継ぎも終わると思う。やっとお役御免だよ」

「……そっか。でもカイ……殿下は会長だし引き継いでも忙しいんじゃないの?」

「ふふっ。心配いらないよ。リア、寂しい想いをさせてごめんね」


謝っている割には笑顔がまぶしい。なんでそんな嬉しそうなの。


私にはカインにつきまとっている自覚はない。

そもそも、学年も教室がある棟も離れている。学園は無駄に大きいので、短い休憩時間では教室の往復なんて無理だし、カインは生徒会長なので必ずしも教室にいるとは限らない。生徒会室は申請しないと一般生徒は入れないし。


そうなると、会える時間は限られる。

この、ランチの時間だ。

ご令嬢からお呼び出しされ始めたのもランチがきっかけだった。


私に友人がいないことはカインも分かっていた。だから心配してくれたのだろう。

食堂利用初日、私が食堂で食べていると、いつも王族専用のサロンで食べていたらしいカインが現れた。それだけでも十分目立つのに、私を目ざとく見つけ出したカインは満面の笑みで私を呼び、隣に座ったのだ。


カインが笑顔で私を呼ぶのは割とよくあることなので、私もカインも気にしてなかったが周りは違う。しかもカインは私を愛称で呼ぶし、私もカインから名前で呼ぶことを許されていたので、入学当初は不敬にも呼び捨てていた。


周りの礼儀正しい令嬢、令息からしたら『何なの、あの子』である。


私は悪目立ちしてしまったのだ。


カインはその後も、私を見かけては声をかけてくれる。

通学の馬車も一緒に乗ろうと誘ってくれる。

ランチを待っていてくれる。


私にはカインにつきまとっている自覚はない。でも、


カインが私に対して過保護である自覚はあった。


そして、その理由も私には分かっていた。



私が10歳になる頃、両親が亡くなったのだ。



レイシャント王国には雨の季節がある。

両親が亡くなった日も雨が降っていた。


両親は友人が主催する夜会に出席したその帰り、落石事故に遭い帰らぬ人となった。

雨が続いて地盤が緩んでいたんだろう。


その時のことを私は詳しく思い出せない。

お医者様は両親を亡くしたショックによる記憶障害だろうと言っていた。


覚えていることと言えば、何か両親に対してすごく後悔していたことと、屋敷のテラスでカインと共に歌を歌ったことぐらい。後は延々と部屋に引きこもっていた気がする。


そんな私にカインは毎日会いに来てくれた。


私は両親を亡くした寂しさをカインに甘えることで解消していた。

カインは嫌がるそぶりも嫌な顔も決してしなかった。

いつもニコニコ笑顔で「リアには僕がいるよ。ずっと一緒にいるからね」と頭をなでたり、時には抱きしめてくれた。


私はあっという間に恋に落ちた。


カインのおかげで両親の死も受け止め、外にも出かけるようになった。自分でも気づかぬうちに立ち直っていたのだ。

でも、私はカインに言わなかった。

カインに恋した私は、無条件に甘えられるこの環境が手放せなかった。



そこで私はハッとした。



私、カインの優しさにつけこんでない……?


本当はもう平気なのに、未だ両親を失った傷が癒えていないとカインに思わせて甘え続けている。

ふいに先程のご令嬢の言葉がよみがえった。


『殿下はいずれ有力な貴族のご令嬢と婚約なさいます。王位を取るために』


私は青ざめた。

私、もしかしなくてもカインの人生の邪魔してたの?


『殿下の将来の為なの』


私は突然の罪悪感に襲われた。


「……リア?どうかした?食欲無いの?」

「……ごめんね、カイン…」

「…ランチが遅くなったの気にしてるの?安心して。僕がリアと一緒に食べたくて勝手に待ってただけだから、ね?」

「ごめん……」

「リア?」


カインは優しい。


とても、とても優しい。


だから縋ってはいけなかった。私が縋り続けるから優しいカインは私の手を取り続けるのだ。



自立しなくちゃ。ううん、せめてカイン離れしないと。

もう一人の私が「嫌だ!」と叫んだ気がしたが無視して食べ進めた。


そんな私をカインがジッと見つめ続けていたことに私は気づかなかった。




その夜、私は屋敷のテラスでカインの幸せを願って歌を歌った。

私には父様みたいな加護はないけど、『精霊歌』の歌は元々神様にささげるためのものでもあるらしく

『大事な人が出来たら歌ってごらん』

と言われたことを思い出したからだ。


ごめんね、カイン。


私から解放してあげるからね。




続きが気になる、または面白かったという方はブックマーク、評価をお願いします。

元々、短編で考えていたものなのでそんなに長くならない……といいなぁ。


小説は初めてなので要領悪いですが完結できるようがんばります。


まきぶろ様、琴子様、素敵な企画をありがとうございます。

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