才能の死神
誰もいない丘の上、遠くの街明かり。
これが自分と他人との距離。
ここなら喧噪は聞こえない、誰にも呼び止められない。暗闇に浮かぶ小さな光を眺めながら、ただ自分ひとりのことを考えていた。
ひとりを望み、手に入れ、手ばなす。
その繰り返しでぼくは成長し、老いていく。
たとえ他人と同じ船に乗ろうとも、孤独を愛する自分なら自分を見失わずにいられる。どんなことでも受け入れられると考えていた。
しかし、実際の人生の航海では重いものほど先に捨てられていくし、流行らない思想は売れ残りの果実のように来週には新しいものに交換されていく。
小さなつまずきは、陰口を呼び寄せ、足の引っ張り合いは泥沼の中でクライマックスを迎える。
あこがれていた正義の味方さえ俗物に媚びを売り、不興を買って生活の足しにしていた。
人生が期待を裏切るたびに大騒ぎをして、船をゆらす同乗者に嫌気がさした。
大きな船に乗れば安心だと言いながら小さな船を沈めずにはいられない暴政がそこには敷かれていた。
だからぼくは船を降りた。
結局、ぼくは普通には生きられない。
少しずつどこかがズレていく。
常識を語った口で非常識を真似る。
好奇心と自由の名のもとに協調性を失っていく。
その結果を受け入れる勇気もなく、情けなく逃げ出して忘れてしまう。そしてぼくはこう言って同じことを繰り返す。
最初から期待していなかった。
そんなことだろうと思っていた。
自分にはすべてわかっていた。
この言葉に何度もだまされて時間を奪われていった。やらない理由を探していた。言い訳ばかりを考えていた。本当にやりたいことは完璧な自分がやってくれるはずさ、いつかできることを今やるべきじゃない。今はただ愚かな人を眺めていればいい。安心していよう。安住していよう。
そうやってぼくは見ていた。
才能が死神に殺されていくのを。
ただひとりで見ていたんだ。