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流星は蒼く輝く  作者: たぷたぷゴマダレ
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第6話【彼女は太陽に近づきすぎた】

 どんよりと曇っている空からは、雨が激しく落ちていた。ぼーっと窓からそれを眺める智代子は、深いため息をつく。


「沙紀さま……」


 小さな声で、智代子はつぶやいた。雨の轟音にその声は、教室の中に響くことなく、目の前で浮かんで消える。

 沙紀は、あの日から学校に来ていなかった。ドクターに連絡を取ってはみたが、いい返事はなく。部屋に閉じこもってるとの答えだけが返ってきた。

 化け物の、告白した沙紀。智代子はまだ、信じられてはいなかった。しかし彼女の声、そして目は、その言葉は真実だと告げていた。

 もう一度会いたい。そう願うのは、智代子のわがままだろう。しかし、その気持ちを止めれるほど、智代子は大人ではなかった。

 数日間。ドクターに毎日メールを送っていた。内容は簡単に言えば、また沙紀に会わせてくれ。それだけだ。

 期待してる返信は正直こないだろう。そう考えている。だってこれは、智代子のわがままなのだから。

 ふと気づくと授業は全て終わり、放課後になる。あたりを見渡すと、皆。いそいそと帰宅の準備を始めていた。当たり前のように。


「――――っ」


 智代子は逃げるように席を立ち、そのまま教室の外に出る。進む足は、だんだんと速度を上げていき、周りの生徒の視線が智代子を包む。

 靴箱から出る。外はまだ雨が降り続けていて、嫌な気持ちを加速させる。少し大きめな傘を取り出して、さす。ぼたぼたと傘に跳ね返り落ちていく雨の音が、うるさかった。

 ぐしゃり、ぐしゃり。踏みしめる土が、いやらしく智代子の足にまとわりつく。一歩、踏み出すだけでも重く、二歩。踏み出すだけでも、徒労が凄まじかった。

 校門に近づくと、車のクラクションの音が聞こえた。顔を上げると、車の窓から、佐藤がこちらに手を振っている。

 ドアが開き、その中に智代子は入る。元気ですか、と尋ねてくる佐藤の顔は、いつもよりにこにことしていた。

 後部座席には東雲がいて、彼女の横に智代子は座る。東雲はチラリとこちらを向いて、言葉をつぶやく。


「……まだ、緑川さまのことを考えているのですか」

「…………」


 東雲の言葉に、智代子は沈黙で返した。

 あの日、智代子は東雲たちに連絡して迎えにしてもらっていた。それは良かったのだが、智代子の様子を見て、東雲達は何かあったことを理解した。

 そこからは早かった。いくら、智代子が弁明しても、もう緑川沙紀と城ヶ崎智代子は会わせないほうがいという結論になった。

 両親二人、そして東雲もそれに納得していたが、智代子はしない。そのため、あれから東雲と智代子は不仲の冷戦状態が続いている。


「緑川さまと出会って、智代子お嬢様は変わりました。嬉しい方向に」

「でしたら……」

「しかし、先日あなたは、鳩尾を殴られていた。次元獣というものは、よくわかりませんが、何かあったのは事実。そして、その何かを引き起こしたのは、緑川沙紀。あの少女のせいだというのも、また事実」


 理解してください。東雲は最後にそうつけたした。

 はい。そうですね。智代子は、そう言い切れなかった。東雲が言ってることは正しいのだ。だったら、もう。それを受け入れるしかないのかもしれない。

 車は走る。雨のせいか、外がよく見えない。佐藤はその中でも、鼻歌交じりで車を運転し続けていた。


「わたくしは――」

「智代子お嬢様、沙紀ちゃんに会いたいの?」


 佐藤が、突然口を開けた。東雲が「おい」と、短くいうが、佐藤は笑いながら、言葉を続ける。


「俺は東雲ちゃんじゃなくて、智代子お嬢様に聞いてるんだ。で、どうなの?」

「……会いたいですわ。無理かもしれません。けれどわたくしは!」

「ダメです! あんな危険人物に会わせれる訳が……!」

「東雲さま! なぜ、そういうのです! 緑川さまは優しくて、素敵な女の子なのに、なぜ……!」

「しかし……!」

「しかしもなんでもありませんわ! 東雲さまなんてき――!」

「はいはい、ストップ、ストップ!」


 佐藤が大きな声を出して、2人を制止する。ヒートアップしてきたのは理解していたため、止めてくれたことは感謝しかない。

 あのまま進んで出ていた言葉。それを言わずに済んだ。きっと、あれをいうと、もう仲良くできない。

 佐藤は小さく苦笑している。隣を見ると、東雲もバツが悪そうな顔を浮かべていた。


「二人とも、落ち着いた?」

「はい……」

「ああ……」


 いつの間にか、車は停止していた。家に着いたのかと思ったが、窓からほのかに見える隙間からは、いつもの家ではないことしかわからない。

 どこかにいったん止まったのだろう。おそらくは、二人が喧嘩を始めそうになったから、佐藤が気を利かせて車を止めたのだ。

 その佐藤は、どこかに電話をつなげていた。親しげに、誰かと話していて、二人のことはもう忘れてるように思えた。

 重い、沈黙が続く。ちらりと東雲の方を見ると、彼女は少し暗い顔を浮かべていた。そして、こちらを見て、小さく頭を下げる。


「智代子お嬢様。申し訳ございません。声を荒げてしまい」

「いえ……」

「……私は、ただあなたが心配なのです。お父様も、お母様も……よければ、そのことを少しでもわかって――」


 コンコン。


 そのとき、雨の中、かすかに聞こえたら雨音以外の音。どうやら、誰かが扉を叩いているようだった。何か、駐車違反でもしたのかと佐藤の方を見る。

 それと同時に、扉が開いた。立っていたのは、傘をさしている小さな子供。誰だろうと思っているとき、その子供は口を開ける。


「やっほ! チョコちゃん久しぶり~」

「ふ、え……ド、ドクターさま!?」

「お、きたね、ドクちゃん」

「佐藤くんもおひさ!」

「ふ、二人は知り合いなんですの……?」

「うん! この前チョコちゃんを家まで送ったときに、軽くお話しして、そのあと電話番号を交換したんだ!」


 えへへ! と、ドクターは笑う。その可愛らしい笑顔で、思わず車の中の空気も緩んだ。

 すると突然、ドクターが智代子の手を握った。驚き、ドクターの方を見ると、彼女は変わらずニコリと笑う。


「行こっ!」


 その言葉の真意を聞くより先に、ドクターは智代子を引きずり走り出した。後ろから、東雲の叫び声が聞こえるが、その声はすぐに途絶える。

 全身が雨に濡れながら、智代子とドクターはショッピングモールの中に入る。今までいたのは、ここの駐車場だったのか、と理解する。

 クシュン。体が濡れて、くしゃみが思わず出る。

 しかしなぜ、ドクターは自分をここに連れてきたのか。その疑問を投げる前に、ドクターは前を歩く。

 エレベーターの前に立ち、ドクターが何やら捜査を始めていた。逃げるわけにも、声をかけるわけにもいかず、智代子はただ黙る。


「頼まれたんだ、佐藤くんに」

「……え?」


 唐突に、ドクターは口を開けた。


「佐藤くんは言ってたよ。チョコちゃんが信じたい人ならきっと、いい子なんだって。だから、手を貸して欲しいって……ちょっと強引だったけどね」

「そう、なのですか……」

「うん。ボクも嫌だからさ。このまま沙紀ちゃんとチョコちゃんが離れるのは……でも、チョコちゃんはあの子のことを知らない……ね、教えてあげようか」

「い、いいのですか?」


 もちろん!ドクターは笑った。こちらを向いて、天真爛漫な、太陽のような笑顔を向ける。


「でも聞いたらキミは逃げれないよ」


 そしてその口から出た言葉は、冷たく。そして重い。氷水を背中に流し込まれたような気持ちになり、智代子は思わず身震いをする。

 後ろに向かって歩こうとする足に気付いて、智代子顔を数回横に振る。そして、笑顔を無理やり顔に貼り付けて、口を開けた。


「覚悟の上です」

「……いい顔だね。うん。じゃあ、話そうか」


 ついておいでよ。その声とともに、エレベーターの扉が開く。

 先に乗り込んだドクターと、おそらく佐藤と東雲が乗っている車がある方を自分が来た方向と見比べ――

 ――一歩、前に進んだ。


 ◇


 少女は、白い部屋で目を覚ました。頭がズキズキと痛み、重い風邪を引いたかのように、体全身が寒く、さして熱い。吐き気もして、眩暈も続き、世界がぐらぐらと揺れる。

 あたりを見渡すと、自分以外に二人の子供がいるのがわかった。一人は、白い髪の女性。もう一人は、黒髪の少年。

 彼女たちは、まだ起きてなかった。ゆっくりと上体を起こすと、途端にざわめきが聞こえた。

 白い壁だと思っていたのは、どうやら鏡のようだった。鏡の向こうには、白い服の大人がたくさん立っていた。

 彼らはパチパチと拍手を鳴らす。中には口笛を吹くものもいた。そのうるさい音が聞こえるたびに、頭がグラグラの鳴り、爆発しそうな痛みに襲われる。

 その音に誘われてか、二人の子供たちも目を覚ました。お互いに顔を見合わせる。見たことない、顔だった。

 その時、微かに声が聞こえていた。


「――実験は成功だ」


 ◇


「えー……キミたちは身寄りのない。子供だった」


 数日後。頭の痛みも引いた彼女たちは、教室のようなところに集められていた。相変わらず壁は白く、ざわざわとした音も聞こえる。

 前には、眼鏡をかけた、偉そうな男いた。近くには、黒い服を着た、怖そうな人達もいて、彼らはその男を守るように立っていた。


「いま、日本は……いや、世界は土地不足に悩まされている。住むところがなくなってしまったのだ」


 横を見ると、女性はあくびをしながらその話を聞いていて、少年は精一杯ノートに彼の言葉を書き示していた。

 自分はというと、ただ聞いていた。ノートに取ることはなく。だが、女性のように不真面目な態度は取らず。ただ、その話を聞き、覚えていた。

 しかし、男性は女性も。そして自分にも注意はしなかった。チラリと見るだけで、何も言わない。


「あー……そこで我々は、新しい土地がないか探した。海の埋め立て、そして月、火星。しかしどれも莫大な費用がかかった……そんな時、ついに見つけたのだ」

「じ、次元のズレの世界、ですね!」

「うむ、よく覚えていたな」


 男性は笑う。その顔を見て、少年は嬉しそうに微笑んで、こちらを見た。褒められて、嬉しいのだろう。彼の目は、それを共有したいと訴えていた。


「次元のズレ。我々はそれを偶然見つけた……その世界は素晴らしかった。我々と同じ土地、空気。そして、建造物も我々の世界とリンクしている。つまり単純に地球が2個増えたのと同じなのだ。しかし、問題もあった」


 そう言って男性はホワイトボードに何かを書き始めた。


「次元のズレの世界には、化け物がいた。それは……次元獣と言った」


 次元獣の文字。それが、ホワイトボードに大きく描かれている。


「近年続く、人間の失踪事件……それらはほとんど次元獣の仕業とされている。彼らは普段次元のズレの世界に住んでいるが、そのズレの入り口を突如発生させて、そこにいた人間を巻き込むことがあり、そして、そのズレの世界に我々が住むには、その次元獣が邪魔なのだ」

「……邪魔」

「そう。だから君たちは、その次元獣を倒さないといけない。我々、人類の平和のためにも。そして、未来のためにも」

「み、未来……!」


 男性はそう言い終える。

 少年は大きく何度も何度も頷き、ノートに文字を書き連ねている。

 自分は、そこまで熱中はできない。けれど、やる気がないわけではなかった。拳を握りしめて、自分の闘争心を高めていく。


「君たちは普通の人間とは違う。体には、次元獣の遺伝子が組み込まれている。量は様々だが、大体75%50%25%……」


 女性、自分、少年を指さして、男性は言う。

 指を刺された時、お前は人間とは違う遺伝子があると言われると思うと、自分が少し気味悪く感じた。

 これはいつか慣れるものなのだろうか。

 男性はさらに熱弁を続けていたが、少女はあまり聞けていなかった。他の二人も、同じように気味悪く思っているのだろうか。

 少年は、特にきしてないような顔を浮かべており、もう一人。女性は、興味なさげにあくびをしている。自分の身体について、そう、気味悪く感じてるのは、自分だけのようだった。

 しかしまるで、ヒーローのように言われている今は、悪い気はしなかった。この力で、世界を救えるのかもしれない。

 少女に、小さな翼が生えた。


 ◇



 そして、そんな生活を続けて、数日後。このままでは呼びづらいとされて、彼女たちに仮の名前が振り分けられた。

 女性はゼロワン

 少女はゼロツー

 少年はゼロスリー

 それぞれ、そう決められた。

 少女――ゼロツーにとって、名前をつけられたというのは、少しだけ嬉しく思えた。自分が、人間として認められたような気がしたから。

 ゼロワンとゼロスリーも名前を決められて嬉しいのか、よく絡んでくるようになった。少しうざったらしいが、彼女達は、数少ない家族のようなもの。と思うと、受け入れることはできた。

 部屋は3人同じ部屋。そこそこの広さがあり、ゼロツーが何人寝ても問題はない。

 それぞれ入り口以外の壁に沿うように、自分のスペースを作って生活していた。特にゼロワンは、たくさんの本を持っており、それに囲まれて生活している。


「ね、ね、ゼロツーお姉ちゃん。さっきのお話聴いてた?」

「……いや、特には聴いてない」

「そんな! だめだよ、ちゃんとしなきゃ!」


 対してゼロスリーは、よく自分に話しかけてきた。お姉ちゃんお姉ちゃんと、まるで犬のように、ゼロツーの近くをまとわり続けていた。

 ゼロツーは少し鬱陶しく感じてはいたが、特に嫌というわけではなかった。たまに会話したりして、時間を潰す。ゼロスリーもそれで満足しているようだった。

 一方ゼロワンの方はというと――


「ゼロツーちゃん、ゼロワンくん、お姉ちゃん思うの。人間の素晴らしさを」


 そう言って彼女はうっとりとした目を浮かべる。彼女の周りに乱雑にばら撒かれた本は、天井にも当たりそうなほど。

 ゼロワンは、人間が好きらしい。それも、病的なまでに。

 私達は、人間を守るためにその力を使うことになっている。普通の人間と違い、歳もとらず、身体能力も全く違う。

 その言葉通り()()()()()()()()()()()()()()のだろう。そのことは、ゼロツーは理解していたし、悪くないとも感じていた。

 しかし、ゼロワンの態度は少しだけ苦手だった。ゼロワンの思想は、火のように熱く燃えていて、触れると燃えてしまいそうだった。

 しかし、ゼロスリーは、そんな彼女にキラキラとした視線を向けていた。そんなゼロスリーの目に気づいたのか、ゼロワンは得意げな顔になる。

 普段は、大人のような雰囲気を持っている彼女も、そんなところは子供なんだなと、ゼロツーはぼんやり考えていた。

 ゼロワンは積み重なられた本の塔の中から、一冊抜き取る。そしてそれを、パラパラとめくりだす。


「見て、このページ! 人間は本当にすごいのよ。食べ物を美味しく料理したり、乗り物で移動を楽にしたり……それに、嘘や悪いことをすると自ずとバチが当たる! つまり人間はみんな、優しく心温かい存在なの!」

「なるほど……」

「人間ってすごいんだね!」


 まるで自分が褒められてるかのように、ゼロワンは鼻をさらに高くする。

 ゼロワンとゼロスリーはこのように、人間に対してかなりの好印象を持っている。ゼロツーも、話を聞くと、そんな人間のことを考えて、胸が躍った。


「ええ、そうなの! それに人間はみんな助け合う。助けてって言えば、どんな時も助けてくれるのよ!」

「すごいなぁ! そんな人間さんたちのために戦えるなんて、僕らってすごいんだね!」

「そう! 私たちは、人間を救う選ばれた存在なの!」

「そう思うと……少し嬉しいものですね」

「ええ、ええ! でも……」


 ゼロワンはそう言って忌々しそうに、自分の体の腕を見つめる。穴が開くのではないかと、疑ってしまうほど、彼女の目は強かった。


「……それに比べて次元獣は汚らわしいわ。あいつらは醜い。人のために戦えるからいいけど、本当ならこの体に次元獣の遺伝子が入ってるなんて、信じたくないわ」


 ゼロワンはそう言って自分の手首部分をさする。彼女の手首に入っている横線は、2度と消えない模様と化していた。

 次元獣の遺伝子が組み込まれている。

 その言葉は、ゼロワンにとってはヒーローになれる気持ちよさより、得体の知れないものに侵されている気色悪さの方が大きいのかもしれない。

 もし、未来。何か、スーツ等ができれば話は変わるかもしれない。しかしそれでも、ゼロツーたちを完全に過去のものにするのは、不可能だろう。


「早くこの世から全ての次元獣を消し去りたいわ」


 ゼロワンはそうボソリとつぶやいた。彼女の目には、強い、憎悪のようなものを見て、ゼロツーは寒気を覚える。

 彼女は本気なのだろう。次元獣を全員殺し、愛する人間を救いたい。それだけが、彼女を作り上げている。

 ゼロツーにとって、それはとてもおそろいことのように思えた。しかし、それを指摘する気にも、正すようにも思わない。そもそも、こちらに危害は来ないだろう。そう、考えていた。


「みんなー! お疲れ様!」


 扉が開き、一人の子供が入ってきた。

 とてとてと、可愛らしい足音を鳴らす子供。名前は知らないが、周りの人はその子供をドクターと呼んでいた。

 彼女はゼロツーたちの主治医のような、そういう立場の人間だった。いろいろなスケジュール管理もしていて、主治医というより、マネージャーのように見えた。

 年齢はまだ、20歳前後らしいが、それにしては見た目がゼロスリーと同じか、それ以下のように感じる。そのことを聞くと、若作りしてると言って、笑っていた。

 彼女は色々と、ゼロツーたちに指示を出す。体力検査の結果、やはりゼロワンが一番成績が良く、逆にゼロスリーは一番低いことも。

 ゼロスリーはシュン。と、顔を曇らせるが、慌ててドクターは「それでも想定より十分高いよ!」と、フォローしていた。

 コホン。と、ドクターは小さく咳をして、口を開ける。


「明日は、とうとう次元獣を実際に倒してみるよ。だから今日は早く寝てね!」

「倒す?」

「うん。君たちはみんな次元獣を倒さないといけないからね、本番じゃなくて練習だから、みんな見てる以上、大きな危険はないと思うけど。それでも気は抜かないようにね!」


 バン!

 大きな音が鳴り、振り向くと。ゼロワンがふるふると震えていた。彼女から漏れる笑い声は、この部屋に響き渡る。

 彼女の足元には、先ほどまで読んでいた本が落ちていた。小さく、不気味に笑う彼女は、一言口を開ける。


「明日が楽しみです」

「――っ」


 その言葉を聞いたとき、ゼロツーは心臓のあたりを押さえて、ジッとゼロワンを見つめた。

 強い、殺気を感じた。

 この場にいる全員の心臓が貫かれ、体から血を垂れ流し、無様に生き絶えている。その光景が、簡単に頭に浮かんできた。

 そして、それをやっていたのは――

 ドクターとゼロスリーはそんな二人を不思議そうに見ている。ゼロツーはごくりと、生唾を飲み込み、殺気が消えるのを待つ。


「とにかく、明日はよろしくね!」

「はい! 頑張ろうね、ゼロワンお姉ちゃんにゼロツーお姉ちゃん!」

「…………ええ」


 にっこりと微笑んだゼロワンから、ようやく殺気が消える。それと同時に、ゼロツーも糸が切れたように、地面に座り込んだ。

 心臓が跳ねている。まだ、そこにあることに、ホッとした。そして、ゼロワンの方を見る。

 彼女はルンルンとした気持ちで、本を読んでいた。もしかしたら、先ほどの殺気は、気のせいだったのかもしれない。

 しかしもし。明日、何が起きた時に、すぐに動かなければならない。ゼロツーはそう考えて、強く手を握り締めたのだった。

 ゼロツーの翼が、大きくなって、羽ばたこうときた。

 その時だった。


 世界が大きく音を立てて揺れ始めた——


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