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流星は蒼く輝く  作者: たぷたぷゴマダレ
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第3話【たくさんの水と少しの油】

 ある日、沙紀は大介に呼ばれてその事務所に来ていた。次元獣対策組織——D•M•T。沙紀の勤務場所だ。

 とあるショッピングモールの中で、エレベーターのボタンを特殊な操作をした場合にのみ辿り着く。事務室や医療室など、ある程度の施設は揃っていた。


「あっ」

「…………」


 事務所に向かうエレベーターの中で、紫の髪で、鉢巻を巻いた女性。大和紫。一応、沙紀の後輩にあたる者——と、はちあってしまった。

 紫は、わかりやすい敵意の視線をこちらに向けてくる。理由はわかっているので、沙紀自身も咎めるつもりもなく、それ以前に、気にするつもりもない。

 一応挨拶だけは返した。長い沈黙は、エレベーターの音で止まり、消える。沙紀は呼ばれた事務所まで向かうと、紫も横に並んでついてくる。


「……あんたも呼ばれてきたんスか」

「紫さんも、ですか。ええ、そうですね。大介さんに呼ばれたので」


 大介。二人の上司に当たる者で、名前は源田大介という。次元獣退治をして、もう30年も経っているそうで、ベテランの中のベテランであり実力も相当のものだ。

 沙紀も彼が本気を出しても勝てる気はしない。いや、手を抜いてももしかしたら軽くあしらわれるかもしれない。

 沙紀が認める、数少ない強い強い人間。それが大介だ。しかし、彼は少し掴みどころがないところがある気がする。少しだけ嫌な予感は、した。

 こんこん。

 軽くノックして、中に入る。ドアを開けると、透明な大きな机を挟むようにソファが置いてあり、そこに大介が座っていた。


「おう、おつかれ。まぁ、座れよ」


 促されるままソファに二人とも座る。かなり使い込まれてるソファなので、ボフン、という音と共に体が下に沈んだ。

 大介はタバコに火をつける。タバコの煙は、あんまり好きじゃなかったが、もう慣れてしまった。

 ブンブンと音を鳴らして換気扇がタバコの空気を吸い込んでいく。まるで餌を食べる動物のようにも見えた。

 しばらくした後、大介がわざとらしいほど重々しく口を開ける。


「頼みたいことがあってな」

「頼みたいこと、ですか」

「あぁ。まぁ、何、そんなに難しいことじゃない……ドクター」

「はいはーい!」


 その声とともに、子供のような足音が聞こえ、こちらに誰かがやってくる。

 青い髪を伸ばし、ピンクの白衣を着ている。下には緑の病衣を着ていて、少しチグハグとしていた。

 下着代わりに沙紀と同じようなオレンジ色のパワースーツを着ている。そのため、見た目は小さく子供のようだが、力は強い。

 なお、彼女。もしくは彼。誰も性別は知らないらしく、さらに大介と同期らしい。謎が多い人物であった。

 そんなドクターが、何か紙を二人に手渡す。沙紀は中身を見たとき、ゲッ。と、顔を歪ませた。それは、紫も同じようだった。

 そこには、この先しばらくの予定表が載っていて、二人の予定も載っていたが、偶然にも二人ともの行動予定のルートが全てかぶっていた。

 だが、ここまで被っているとそれにはもう作為的なものを感じてしまう。それに気づいたのか、大介がめんどくさそうに髪の毛を掻き、口を開ける。


「まぁ、見てもらった通りだが、二人ともしばらく共に行動してもらいたい」

「待ってくださいっス!」


 紫が声を荒げた。少しだけ気まずそうな顔をするが、すぐに口をまた開ける。


「誰の提案なんスか、これ!」

「僕だよ!」


 ドクターがそう元気よく言って、にこりと笑う。紫が唖然としていると、ドクターは、二人の間に座り込んだ。


「この前二人とも、一緒に戦ったじゃん? その時思ったけど、いいコンビになりそうだなって」

「お言葉ですが、それは難しいと思いますよ。私と紫さんじゃ、ノルマをこなしている数も……そして何より、戦闘力が違います」


 低い人に合わせるのは面倒です。沙紀はさらにそう付け加える。その言葉を聞いた紫は顔を歪ませて、ふるふると震えていた。

 紫はおそらく弱いわけではない。しかし、まだ経験が浅く、沙紀が一人で戦う方が明らかに効率がいい。

 紫は、怒りに任せ立ち上がり、沙紀の方を指さす。


「自分も嫌っスよ! 仕方なく手を組むならいいスけど、積極的に行動なんて……」

「まぁ、いいじゃん!」


 ドクターはそう言って、沙紀の手の上に、紫の手を乗せる。ジメッと汗ばんでいた紫の手は、少し気色悪かった。


「仲良くしよ! その方が楽しいよ」

「う、うう……」

「とにかく、決まったことだ。明日から行動しろよ」


 以上、解散。大介はそう一方的に告げた。ちらりと紫を見ると、彼女は納得してないようだった。それは沙紀も同じだ。

 面倒なことになる。沙紀はなるべく聞こえないように、小さくため息をこぼしたのだった。


 ◇


 沙紀には学校がある。これは、大介が通った方がいいと提案して行かせられている学校である。社会経験と、一生物の友達を見つけろ。そう、本気とも冗談とも分からない顔で言われた気がする。

 友達は見つかってはいないが、沙紀は、とある人物に目をつけられていた。


「緑川さま〜! お待ちになってくださいまし〜!」

「しつこ……い……!」


 放課後、沙紀はバタバタと走って彼女から逃げる。あの日のように、全力で走ってもいいのだが、そうすると周りにあらぬ印象を与えてしまいそうだった。

 今はまだ、城ヶ崎智代子から逃げる緑川沙紀としか見られてないからいいのだが。


「緑川さま! この前の話、たくさん聞きたいですわ!」

「なんのことですか」

「とぼけないでくださいまし! あんなに激しいく、濃厚な日を過ごしたと言うの——」


 Uターン。行動は早く、沙紀は智代子の口を押さえて、近くの教室に入り込む。放課後なので、人は少なく。数人の生徒が突然入ってきた二人に視線を向けただけだった。


「緑川さま?」

「誤解されそうなこと言うのは控えていただきたいのですが……」


 沙紀はチラチラとあたりを見渡す。他の生徒は、もう、二人のことは気にしてないらしく、それぞれの作業に戻っていた。

 ホッとした沙紀は智代子の口から手を離す。


「とにかく、この前あったことは、内密に……」

「まぁ……わたくしと緑川さまの内緒の秘密……!!」


 智代子は体をクネクネと揺らす。沙紀は、ため息をついて、彼女を置いて教室から出る。

 すると当たり前のように、智代子が彼女の横に張り付いてきた。うんざりとしている沙紀には気づいてないのか、智代子は口を開ける。


「緑川さま、わたくし、貴方さまのことをもっと知りたいですわ」

「そうですか」

「ええ!」


 智代子はそう言って沙紀の手を握りしめるが、沙紀はそれを振り払い、無視して前に歩く。

 彼女がなにを言おうが、沙紀に時間はあまり残されていない。靴を履き替え、校門に出るとスーツを過ぎた男女二人。そしてもう一人、紫髪の女性がいて、彼らは談笑をしていた。


「……あ」


 紫髪の女性はこちらに気づき、少し顔を歪めるがすぐにぎこちない笑顔を向けて口を開ける。


「お疲れ様っス沙紀さん」

「……紫さん」


 鉢巻をつけた彼女が、にこりと笑う。


「あのぉ……」


 智代子が少し声を出す。そういえば、智代子は紫のことを知らなかったか。説明するべきか悩んで、口を閉じるが、紫はそれに気づいたのだろう。こちらに近づき口を開ける。


「どうも、自分大和紫っていうっス! 沙紀さんと同じ次元獣に関する仕事をしているんス。あなたが、城ヶ崎智代子さんスね?」

「まぁ……! はい、わたくしは城ヶ崎智代子ですわ! 大和さま、どうかよろしくお願いいたしますわ」

「自分のことは紫でいいっスよ!」

「あら! でしたらわたくしのことも智代子とお呼びくださいまし!」


 そういって二人は握手をする。コミュ力が高い二人だから、仲良くなるのも速そうだ。単純にすごいと沙紀は考えた。

 二人が会話してるのを見て、少し暇になった沙紀はあたりを見渡す。

 そして一つ、オンボロな中古車が目についた。アレは確か紫がよく運転している車で、愛車と言い張っていた気がするが、それにしてはぼろぼろすぎる。今もまだ走ってるのが、不思議なくらいだ。


「この車、あの人のなの?」


 男性の声がして、沙紀は振り向く。そこには、ボディーガードの一人、佐藤がいた。


「ん……あぁ、はい」


 佐藤に声をかけられて、沙紀は曖昧な返事を返す。


「すごく使い込んでるよね、これ。あの人……紫ちゃんか。車好きなのかな」

「さぁ」

「さぁって……あはは」


 佐藤は小さく笑っていた。バカにされたような気がして、沙紀は思わずムッとした顔を浮かべる。

 ちらりと時計を見て、沙紀は紫の方に向かい歩く。そして、彼女の前で大きく咳払いをして、口を開ける。


「……紫さん、もう行かないと間に合いませんよ」

「ん、あぁ……了解っス。じゃあ、智代子ちゃん、また!」

「ええ、お疲れ様ですわ!!」


 智代子が手を振り、見送ってくれた。

 沙紀は車に乗り込む。車の中は、思ったよりも臭いはしなかった。消臭剤とかも置いているらしく、少しだけ心地よさも感じる。


「この先まっすぐ行ったA-2地点に次元のズレを発見したらしいです、急ぎましょう」

「……っス」


 しかし相変わらず空気は重い。ここだけ重力が跳ね上がっているのかと勘違いしてしまうほどに。

 沙紀だって多少の気まずさは感じてはいるが、そんなことを指摘するつもりはないので、何もすることもなく、気まぐれに窓の外を眺めていた。

 人の動きは少なく、まばらに歩行者やら自転車を乗る人が見える。この普通の生活風景を見れる今は、ある意味幸せなのかもしれない。

 現場に着くまでは暇である。行動を共にしろとのことなので車に乗ってはいるが、本来ならば走っているのでもうついてもいい頃合いだ。


「ふわぁ……」


 退屈にあくびをこぼす。

 薄目で遠くを見た時、沙紀は気づいた。この先に、次元のずれがあるのを見つけた。しかし、目的地とは違うのだから、わざわざやる必要もない。

 気付くのだろうか。そう考えたのと同時に、車がゆっくりと徐行し始めて、やがて停車した。

 ちらりと横を見ると、紫はジッと一点を見つめていた。


「……地図すら読めないんですか?」

「違うっス……ほら、あそこ……」


 紫が指差す先。それは先ほど沙紀が見つけたところと同じだった。沙紀としては、めんどくさいので気づいてほしくはなかったのだが。


「あんた、気づいてたっスよね」

「ここは行くべきところではないです。先に、いくべきところがあるはずでは?」


 沙紀は紫の質問には答えない。どんよりとした、重い空気が車内に広がっていく。

 紫はため息を一つこぼした。モヤモヤとした気持ちを溜めているのか、彼女は数秒黙り、車の鍵を開ける。


「ちょっと」

「自分はこっちをやるっス。あんたは……走って向かえばいいっスよ」


 返答を待つ前に、沙紀は車から出るように促される。このまま反抗しても埒があかないと考えた沙紀は、渋々車から降りた。

 紫はそそくさと次元のずれの方向に向かう。沙紀は彼女の背中を見ながら、声をかける。


「別行動は許されてないと思いますが」

「じゃあここは見なかったことにしろってことっスか?」

「そうなりますね……」

「あんたは……! いや、いいっス……自分は、こっちにいくっス」


 それじゃあ。と、一方的に別れを告げた彼女はそのまま次元のずれの中に落ちていった。

 残された沙紀はとりあえず大きく伸びをした。どうするべきなのか、暫し考えることにしたのであった。


 ◇


 気に入らない。


 それが、彼女。大和紫が緑川沙紀に抱く感情だった。

 沙紀のことは少しはしっている。だからこそ、気に入らなかった。この理由は、個人的な感情によるものなので、よろしくないことだとはわかる。

 しかし、沙紀自身の態度もあり、いつのまにか嫌うという感情は正当化されていて、その事実に紫はなんとなく気づいてはいた。


(ああ、もう……!)


 紫はいつものジャージの下に、戦闘服を着込んでいる。黒い、ぴっちりとしたスーツ。これが次元獣と戦う時に着るものだ。

 黒いのが普通であり、沙紀が着用しているカラフルな服装とは違い、シンプルなのは単純に余計なものはいらないから。

 沙紀は規格外の力があり、そのため紫のようなシンプルなスーツだとそれに耐えることができず、特別仕様の戦闘スーツが必須になるのだ。

 しかし、不気味なところだ。紫はこの次元がずれた世界というのが好きにはなれなかった。静かすぎて、この世界に人間は自分しかいないのではないかという考えに至ってしまう。


「……いた」


 しばらく進むと、ネチョネチョとした音を立てて蠢く次元獣。半透明で、少し赤く濁っているその体は、スライムのように見えた。

 体の中に浮かんでいる物体を見て、紫は思わず口を押さえる。


(ごめん……ごめん……)


 奴らは人を襲い、人を食う。そして、紫は間に合わなかった。それだけのことだ。

 紫は自分の手を強く握りしめる。爪が食い込み、スーツの上なはずなのに強い痛みを感じる。


「ヤる前に……ヤる!」


 そこから、紫は真っ先に走り出した。次元獣はこちらに気づいたのか、気づいていないのか。ヌメヌメと動き出す。

 腰から紫は刀を取り出した。次元獣を倒すための刀は、次元獣の体をいとも簡単に切断する。切断して、びちゃりと飛び散る液体は、紫の体に張り付いた。


「この……! この……!!」


 体についた液体を振り払うように、闇雲に刀を振り回し、次元獣の体はバラバラになっていく。分裂したそれは、地面を数回跳ねて、動かなくなる。


「————!」


 次元獣は体を伸ばし、こちらに突き刺そうとしくるが、紫はそれをはたき落とし、距離を取る。

 ぷよぷよと触手のように揺れながら、それはこちらを狙っている。殺傷力はどれほどのものかわからない。

 だからこそ、安定をとる。腰についたもう片方のホルダーから、銃を取り出し、発砲した。バンバン!と響く音は静かな世界に響く。

 次元獣もやられてばかりではない。銃撃で弾かれて飛んでいく肉体を気にしてないのか、一心不乱にこちらにスライム状の体を伸ばす。


「数が……多い!」


 近づいてきたスライムに刀を向けて、正確に切り落とし、ばちゅ、ばちゅと、水を切る音が響きだす。

 一つ一つは大したものじゃない。が、しかし。無数にも思えるそれは、限りなく襲いかかり、終わりがないようにも思える。

 紫の荒い息遣いと、作業のような音だけが響く。紫の顔は、怒りと、疲れを混ぜたような、複雑な顔を浮かべている。


 ザン!


 無数に続く時間に思えたそれが終わったあと、紫は肩で激しく息をして、あたりを見渡す。どうやら最後の一つだったらしく、あたりには無惨に飛び散った次元獣の肉体だったものが転がっていた。


「よ、し……終わったっス……」


 ふらふらになった紫は尻餅をついて倒れる。顔から流れる汗を拭いとって、一息つこうと考えた。

 一人でも勝てた。紫の中にある感情はそれ一つであり、自分のことを下に見ている沙紀達に対して、やってやったぞ。と言わんばかりの気持ち。それだけだった。

 とにかく早く帰って、彼女と合流しなければならない。ふらふらと立ち上がり、紫は帰ろうと——


「がっ……!?」


 瞬間、紫の体に強い刺激を感じた。頬のあたりで感じた痛みに、紫は思わず膝をつく。

 なにが起こったか理解するより先に、紫の右腕が何かに貫かれた。湧き上がる血が、あたりを赤く染めていく。


「なに、が……!」


 紫は貫かれた腕の部分を見る。そこには、綺麗な穴が空いていた。もしかして最初から穴が空いているのかと勘違いしてしまうかのように、精巧で、紫は頭が混乱した。

 そして、視線の先にはグチュグチュと蠢く、透明な液体が見える。


「次元獣……なんで……!」


 倒したはずなのに、紫は混乱する思考の中、刀を構えて立ち上がる。しかし、グチュグチュと蠢く音は、前からだけじゃなかった。

 先ほど飛び散った次元獣は生きていた。こちらを狙うように、徐々にそれは距離を詰めていく。


「くそっ……なんで、なんで……!」


 飛びかかる次元獣に対し、紫は弾くように刀を振り回す。痛みは感じなくなってはいるが、おそらくこれはすぐに消える。一時的な脳内麻薬のようなものだろう。

 つまり、勝負の時間は短い。それまでに次元獣を倒さなければ、動けなくなった紫も死んでしまうだろう。

 痺れがだんだんと進んできた。流れてくる赤い血があたりに飛び散り、ドレスのように舞っていく。

 頭がズキズキしてくる。傷跡が熱い。視界が少しだけ、霞んでくる。気合いで耐えようとしても、限界はあった。


「うっ……!」


 紫は思わず片膝をつく。限界が来てしまったのだ。次元獣は、そのチャンスを逃すわけがなく、一斉にこちらに飛びかかる。


「舐める、な……!」


 紫は慌てて転がって逃げる。空中で次元獣はぶつかり、弾ける。しかしそれだけ、次元獣の数が増えることを示していた。

 もはや、最後の抵抗もできない。しかし、紫は刀を下ろすつもりはなかった。殺された人のためにも、そして、自分のためにも、諦めるつもりはない。

 ここで諦めることはきっと、許されない。負けると分かっていても、進まなければならない。

 目を見開く。瞬間、無数の次元獣が飛びかかってきた。刀を前に構え、口を大きく開けて叫び声を出す。それは、助けを求めるような声ではない。

 ただ、私はまだ戦える。その、意思の叫び声だった。


 ——バチバチッ!


 青色の流星が落ちてきた。それは、地面を抉り飛ばし、次元獣の突撃を弾いた。

 マントをはためかせた少女が、紫の前に立っていた。紫の頭の中が、ぐるぐるとまわりだし、理解ができないというように、熱くなる。


「……お疲れ様です、紫さん」

「な、うぐ……!」


 沙紀が——ゼロツーか、そこにいた。彼女は少しだけ、感心したような。それでいて、やはりというような顔をこちらに向けていた。


「なんでここに……」

「言われた通り目的地の次元獣を倒してきました……こちらは苦戦してるようで。……これで貸し借りはなしですよ」


 ゼロツーは、足を青く輝かせる。電撃を走らせているそれは、紫にとっては希望とも絶望とも取れるような光を感じた。


「ヤるか、ヤられるか。あなたたちはどっち?」


 ゼロツーは上に飛び上がる。それに対して、次元獣は集合し、それに対して立ち向かおうと構えた。

 バチバチ! 青く輝く光を纏い、ゼロツーはそのまま地面に向かって急降下する。次元獣は、そのまま体を伸ばした。

 それとゼロツーがぶつかった時——青い爆発が起き、そのまま紫は吹き飛ばされる。ゴロゴロと数回転がり、痛みで眩暈が起きる。

 眩暈が限界になっても、紫は顔を上げる。そこには、大きくえぐれた地面に、シュウシュウと音を立てて消えていく次元獣。そして、足を払うゼロツーの姿があった。

 ゼロツーはゆっくりとこちらに歩いてきて、こちらを見下ろす。紫は、なんと言えばいいか分からず、口を閉じる。


「立てますか?」

「っ、立てるっスよ!」


 紫は慌てて立ち上がるが、瞬間にふらりと視界が揺れて、そのまま倒れてしまう。ゼロツーは避けることはせず、彼女を受け止めた。


「無理しすぎです。大介さんでもよんで、迎えにきてもらいましょう」

「そんな、迷惑……あっ、いだ……!」

「……はぁ。向こうもそれくらい考えてるでしょ。まぁ、生きてるならOKですよ……帰りましょ」


 ゼロツーは紫を抱き抱えて歩き出した。いわゆるお姫様抱っこの形になり、紫は慌てて抗議を述べるが、ゼロツーには聞こえてなかった。

 いや、彼女は小さく笑っていたのだから……おそらく、気づいていたのだろう。だが、紫が騒いでるのを見て、少しだけ、面白かったのだった。


 ◇


「あらあら……」


 消えていくゼロツー達の遥か遠く。ビルの上に、一人の女性が立っていた。美しい空気を纏っているような彼女は、ニコニコとゼロツーを見つめている。

 優しい雰囲気はあった。しかしそれは、人間のような温かみを感じることはできなかった。

 すると、後ろから5個の人影が現れた。男女バラバラ、背丈も違うその人影は、女性の後ろに立つようにして、口々に口を開ける。


「……何かそんなに嬉しいのお? ニコニコしてるけどお。でも、その顔見るとこっちも喜ばしいなあ!」

「ふふふ……きっと、彼女は気づいたんですよ……愛し、愛すべき存在に!」

「ふっ、奴等は強そうだな……この俺が叩き潰すのにふさわしい! 早くやらせろ……イライラする!!」

「た、戦うのはダメだよ……! 怪我すると思うと……うええん!」

「なに泣き言言ってるんデスカ……というか、あいつどこにいったんデス?……舐めてんデスカネ……憎たらしいデス」


 そんな後ろの声に対して、女性はなにも答えなかった。ただ一言、彼女は声を漏らした。


「そろそろ会いに行こうかしら……私の愛しの妹ちゃん……♪」

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