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渾沌  作者: saku
1/2

ー 奇 ー

【 壱 】



時に私は残酷になる。

とても残酷になる。

人様からみれば

その変貌は気づかれてないかも知れない。


私の中の奥の奥、その奥底に何かが棲んでいる。

そいつが奥底でモゾモゾし始めると、

私は残酷になる。


最近、そいつが図々しくなってきた。

ひょっこり顔を出そうとする。

私の胃袋を通って。

急に苦しくなって意識が遠のく。

そんなときは直ぐ様人通りを避けなければねらない。

私の大きく開けられた口からそいつが顔を覗かせてニタニタ笑う。


考えてもみてくれ。

口から顔出てるんだぞ。

可笑しいだろ。

ヤバいだろ。

ミギーどころではない。

怖くてお漏らししてしまうレベルだ。

そんな姿を誰かに見られたら、

いや、発見されれば、間違いなく私は捕まる。

捕まって、何やら怪しい秘密機関の研究室に強制連行直行だ。


そして、わかるだろ?

私は研究材料となり、そいつともどもイカれた白衣人間たちの餌食となるのだ。


そして何より、

ヤツがモゾモゾしはじめたら私が残酷になることだ。

どんな風に残酷かと聞かれれば、それはそれで答え難い。

けれど、ヤツが出てきて私が捕まれば、

間違いなくその時は残酷な私でしかないのだ。

きっと、白衣人間たちを残酷に打ちのめしてしまうだろう。

いやいや、痛ぶり食い殺してしまうかもしれない。

どんな味がするのか興味はあるが、想像すると怖くて失禁失神喪失間違いなしなので考えないようにしている。


このままヤツを隠し通せる自信がない。

だから逃げるしかない。

イカれた白衣人間たちから。

今ならまだ間に合う。

まだ、誰にも気づかれてないはずだ。

しかし、お金がない。

逃げるにはお金が必要だ。

自慢じゃないが安月給なのだ、私は。

貯金などしてないし、出来きる余裕もなかった。

なんたって安月給なんだから。


そんな時、天使が舞い降りた。

いま、世界中でマスクが必須アイテムになった。

蔓延するウイルスは怖いが、

口から顔出すヤツのほうが何千倍、何万倍もコワイ。

白衣人間たちもコワイ。

暫くはこの天使たちに身を預けることにする。


しかしながら、

この状態から、いや、症状というべきか…

ヤツを滅する方法が見つからない。

誰にも相談できないシロモノだ。

相談したら最後、研究室行き間違いなし。

そりゃそうだ。

口から顔が覗いているのだから。


ミギーのように知的生命体なら…。

そう考えて、話しかけてみた。

が、

未だかつて一度も返事はない。

ヤツを引きずり出そうと薄らぐ意識の中でヤツを捕まえるべくトライしてはみたが敢え無く撃沈。


一度だけ、一度だけヤツを見た。

初めて意識が遠のいたとき。

遠のく意識の中でヤツが私の中から口をこじ開け出てきたとき。

正確には私の歯を唇を、らしき頭で押しのけてねじ込むように出てくる。

そして私にネチョリとすり寄るように現れた。

スレスレの意識の中でヤツを見た。

カタチは人間のそれではない。

恐らく手はない。

足はわからん。

全てがネチョリとしていた。

そして、なにより臭い。

えげつないクサさだ。

もしかすると私の胃液のニオイかもしれぬ。

ならば、生活態度を改めなければ…と薄らぐ意識の中で思ったほどだ。

ヤツに性別があるのかはわからない。

けれど、ヤツは可哀想なぐらいブサイクなのだ。

恐らく宇宙一。

よくあるエリア51とかの頭デッカチ宇宙人よりもヒドい。

アレはまだ目が大きくてクリクリして可愛らしさがある。

しかし、ヤツは違う。

目らしきものはあったが、線。

ただの線。

線が開くのかはわからん。

それが顔の真ん中にある。

そして大きい口。

おまけにハゲ。毛はない。


…と、記憶している。



初めてヤツを見たとき、

笑ったんだ、ヤツは。

ケケケとキュキュキュが合わさったような笑い方。

いや、それが声だったと断言はできない。

私がそう感じただけかもしれない。



ヤツはいつ現れるかはわからない。

予測不可能。

ウイルスはまだまだ去りそうにない。

口裂け女が着けるような大きい天使たちに身を委ねながら身を守る術を考えよう。


お金もない。

発見されぬよう、生きなければ。




ヤツのニオイを纏いながら。












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