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第1章 冒険者の街:テンラム ー無謀と臆病

「グルァァーーーーーーーーーー!!!」


咆哮を放つことで威嚇を与えてくる。

通常の魔獣であればBランクの3人は驚くこともなかったであろう。

こういった場面はクエストをこなす冒険者であればよくある事、だが今回はスケールが違った。


「何だよ、こいつ。赤いオーク?」


「凄い魔力にゃ…。こんなの有り得ない…。」


コンとティムは威嚇に気圧されてしまい、一歩も動けない。


「とんでもねえ魔力だ、オークの次元じゃねえ。」


ゴードンは2人よりはマシなもののオークの異常さに驚きと恐怖が刻まれていた。

(魔力だけでも普通のオークの数十倍だ。冒険者10年以上やってるが今までこんなバケモンに遭遇した事ねえぞ。)


深紅の体毛を持つオークは言うなれば新種である。

あらゆる魔獣の情報を記した書物魔獣大全(モンスターレコード)にも載っていない。

つまり人類初の魔獣に遭遇したことになる。


「基本、A以下の冒険者が新種に出会った際は即座に撤退ってのが鉄則だが…。」


2人を抱えて逃げることを考えると現実的ではない。


「3人とも逃げてくれ。こいつは俺が足止めする。」


ノゾミが3人とオークの間に立ち言う。


「馬鹿野郎。何いってやがる。こいつの強さは、お前が精霊使いだろうがどうにかなる相手じゃねえ。俺が惹きつける。」


「そんなのわかってる。けど、ゴードンにも無理だよ。2人を俺じゃ運べない。だからゴードンに2人を守って欲しいんだ。俺だってこんなヤツの相手はそんなに持たない、だから頼む。」


ノゾミ自身無茶なことを言っている事は分かっている。

しかし、この中で一番冷静だったのもまたノゾミだった。

カドネ村にいた時から自然で育ち多くの魔獣と出会ったことのある経験値は冒険者にも決して劣らない。


「くそが。逃げ切る自信はあるんだろうな?」


「ああ、もちろん。何たって田舎育ちだからな。隠れん坊は得意分野だぜ。」


ニカッと笑うノゾミにゴードンは


「ったく、俺もこいつら安全なとこ置いたらすぐに戻る。それまで踏ん張れよ。」


ゴードンは2人を抱えて走りだす。

しかし、3人が逃げ出すのを悟ったオークはその大きな図体の一歩で3人を捕らえようとする。


「速えな。けどやらせねぇぞ。そぉおりゃあァァァァ!」


オークの足元に入り込んだノゾミは精霊使いの特権である膨大な魔力を拳に込め、一撃をボディーに叩き込む。


「グッ…ファァ」


ノゾミの一撃を受けて引っくり返る。

衝撃で地面にズシンと振動が起きる。

その隙にゴードンはその場を立ち去ることができた。


「かってえな。手を抜いたわけじゃねえんだけどな。それにどうやら…ピンピンしてるじゃねえか。」


オークはすぐに起き上がると今まで特定の相手に視点を絞ってはいなかったが明確に望みを敵だと認識して咆哮で威嚇する。


「大っきい声出しても怖くねえな。そう言うことする奴は村によく来るんだ。」


両者共に一歩ずつ近づいていく。

そして2人の戦いが始まったのである。


「おい、マジでノゾミを置いてく気かよ。ゴードン。俺を降ろしやがれ。」


「本当にノゾミっちは大丈夫なのかにゃ…?」


抱えられた2人がノゾミを案じる。


「ならおめえらが残ってどうにか出来んのか?ビビって一歩も動けなかった俺らが。あいつだって怖いはずだ。それだってのに俺らを逃したんだぞ。」


「それは、けどよあんなバケモンに1人なんて無茶だろ。明らかにBランクでも見かけねえようなのだぞ。」


「そうだにゃ。ノゾミっち1人で戦うなんて。」


「あいつは逃げきる自信があるって言ったんだ。俺らが戻ったところで足手まといになるぞ。」


「そんなのあいつの見栄だってゴードンならわかるだろ?なんで目を逸らしてんだよ。俺らがあいつを見捨ててどうすんだ。俺らがあいつを冒険者に引き入れたんだろうが。最後まで責任取るのが役目じゃねえのか?なあ、ゴードン。」


コンは強引にゴードンの腕を振りほどき地に足を着く。


「そんなこたあ俺だって分かってる。こんな情けねえ冒険者がってよ。年が20も離れてるようなガキにバケモン任せて逃げちまうクソみたいな冒険者だってのは。」


ゴードンは俯くが自分のしたことの罪は逃げる前から分かっていた。

オークから逃げたことが罪ではない。

寧ろあの場面で体が動いたゴードンは立派だったと言える。

罪はノゾミが根拠のない見栄を言っていると知っていながら置いていくと判断して諦めた自分自身の心の弱さだったのである。


「今からでも間に合う。俺たちがノゾミを救うんだ。そうすりゃ少しだけマシな冒険者になれるだろ。」


俯くゴードンにコンが手を差し出す。


「私も協力するにゃ。ノゾミっちは塞ぎ込んでた私の恩人、今度は私が救う番にゃ。」


ティムもゴードンに手を差し出す。


「ああ、まだ間に合う。お前たちに諭される日が来るとはな。行くぜ、あの無謀なガキを助けにな。」


2人の手を強く掴み立ち上がったのだった。


「はぁ、はぁ…。タフな野郎だな、キッツイなこりゃ。」


ノゾミは肩で息をして両手を膝についていた。

力自体は両者に大きな差はない。

しかし、問題なのはその防御力の違いだった。

ノゾミはここまで合計20発ほど拳をオークに叩き込んだ。

逆にオークがノゾミに攻撃を与えたのはたった1,2発と言ったところであろう。

にも関わらず、ノゾミは疲弊しオークは多少の怪我しか負っていない。

精霊使いは大きな力を使える反面その力による疲労は通常の魔術師とは比べるべくもない。


「やっぱ()()を使うしかないのか、けど…。なら逃げ切るか。うまく森を使えば…。でもそれじゃ森の精霊は怖がったままだ。いつか依頼者の農家の人たちのところにも行くかもしれない。」


「グルァァーーー!」


走り寄った勢いそのまま硬質な腕を頭上に振り上げる。


「考えさせるつもりは無いってか、せっかちな奴だな。俺もそうだから人のこと言えないけどな。」

振り下ろそうとした瞬間ボォン!と言う音をたてて火の玉がオークの顔面に激突した。


「待たせたにゃ。ノゾミっち。」


杖を持った魔術師ティムの放った日の魔法である。


集束する光線(ライトニング)。そおりゃあー!」


コンが銃型の魔導具から光をオークに照射する。

光線はオークに当たるとその皮膚を焦がしていく。


「ずおおうりゃ!」


ゴードンは拳につけたガントレットでオークの背後から一撃喰らわせる。

3人の攻撃を受け、オークはよろめいていた。


「な、なんでみんな。逃げたんじゃ無いのかよ?」


ノゾミは驚きそして、逃げていなかったことを咎めるように言う。


「ガキを置いて逃げられるかっての。お前こそカッコつけてんじゃねえぞ。」


「そうだにゃ。ノゾミっちは私たちが守るにゃ。」


「ってわけだ。俺は逃げるつもりだったんだがな。こいつらがお前を置いてくのに断固反対しやがってな。俺も懐柔されちまった。」


3人はノゾミの方を見てノゾミがそうしたようにニカッと笑う。


「ほんっと、バカだな〜。3人ともさ。こいつとんでもなく強いぜ?」


「んなもん。俺らにもわからあ。最初1人で戦おうとしたバカには言われたくねえな。」


「それもそっか。お互い様だな。」


ノゾミもニカッと笑う。


「おい、ゴードン、ノゾミ、いつまで喋ってんだ。こっちは待ってくれねえぞ。」


「ノゾミっち〜。」


2人はオークの注意を引くが押されている。


「行くか、足引っ張んなよ。無謀な駆け出し冒険者。」


「へっ、そっちこそな。臆病なベテラン冒険者。」


2人は揃ってオークに向けて一歩踏み出したのだった。


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