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第1章 冒険者の街:テンラム ー深紅の獣

「本日のテンラムの天気は一日中快晴で雨の心配はないでしょう。」


テンラムの街で流れる町内放送は天気やその日オススメの店などを紹介してくれる。

そして放送通り、テンラムは雲1つない快晴で冒険日和というものがあれば、こういった日のことを言うのだろう。

ギルドでも冒険者の多くがクエストを受けて仕事をする。

実際、テンラムは冒険者の街だけあって、それだけ多くの冒険者が居てもクエストの依頼が尽きることはないのだ”普段は”。


「マリンダさん。何かいいクエスト無いかな〜?」


ギルドのクエストカウンターで受付嬢のマリンダに尋ねている少年ノゾミも例外なく今日クエストをしたいと考えていた。


「ごめんなさい、ノゾミさんに出せる依頼は今無いのよ。君、そろそろ昇格試験でしょ。それを受けないと通常クエストは受けられないわ。」


「え〜。だってジムが全然クエスト発行してくれないんだもんよ。」


ノゾミがギルドに属してから既に2週間の時間が経過していた。

その間に多くのクエスト、1日に複数の依頼をこなしていたこともあり短期間で昇格試験を受けることとなった。

クエスト自体はノゾミにとって退屈と言わざるを得ないものばかりであった。

釣りや農家の手伝い、ギルドの雑用といったもの一番面倒な仕事は酒場の掃除といったレベルであった。

どのような冒険者でもこのような低級の依頼をこなして上のランクに上がっていく。

C級になれば魔獣の退治、トレジャーハントといったものも受けられるようになるためノゾミは早くランクを上げたかったのである。

そのために必要な昇格試験とはギルドのランクを上げるときに受ける試験である。

そのランクでの依頼を十分にこなした者が、上のランクの依頼を受けることを認めるための特別クエスト。

昇格試験はいくつか種類のある特殊クエストの1つで、その間は通常のクエストを受けることができない。

本来であれば昇格試験を受けるに値すると判断された場合にはギルドマスターから直ぐに昇格試験が特別クエストとして発行されるのだが、ここ数日ギルドマスターであるジムが所用で王都にいるため特別クエストが発行できないのである。


「誰かの依頼について行くのもダメなのかな?」


「それならば大丈夫ですよ。ただ、受けられるクエストは現在のランクまでのものですよ。」


「そうなんだ!ありがとうマリンダさん。」


「なあゴードン、クエスト連れてってくれよ!今日クエスト受けらんないんだ。」


「お前、もう昇格試験なのか。まあお前の実力なら当然だな。」


ノゾミはギルドで朝食を取っていたゴードン、コン、ティムに話しかける。


「ノゾミ、スピード出世だな。俺とゴードンがC級の昇格試験を受けるまでには半年くらい掛かったってのによ。」


「思い出させるな。」


ゴードンとコンは昇格まで半年掛かったがこれは決して時間が掛かった方ではない。

ギルドの平均としては一年くらいなのである。

最近の冒険者はクエストの数が昔に比べて多いため昇格が早いと言われてはいるが。


「ティムはもっと早かったか?」


「ん〜、3ヶ月くらいかにゃ。ノゾミっちはさすがだにゃ。」


「お前、本当にキャラ変わったな。」


「俺はこっちのティムの方が話しかけやすくていいけどな〜。」


「ありがとにゃ。ノゾミっち。」


ティムはこの2週間でノゾミが必死にコミュニケーションをとった結果、無口だった頃を忘れさせるように性格が変わってしまった。


本人曰く元はこっちだったがゴードンやコンとクエストを頻繁に受けることになった辺りで2人と年齢が離れていたので無口になっていったらしい。

しかし、人懐っこいノゾミの性格が本来のティムを呼び起こしたのである。


「まあ、そんなことはいいんだが。クエストに丁度お前を誘おうと思ってたところだったんだ。タイミングが良かったな。」


本題に戻したゴードンはニヤリとしながら告げる。


「お、ラッキー!ってなんだよ、その顔。」


「お前にとっても初めてだろうが今日は討伐依頼を受ける。」


「討伐依頼?それってC級以上だってマリンダさんに聞いたぜ?」


「普通はな。だが、何人かでクエストに行く場合は冒険者のランクの平均が超えてりゃクエストの受注が可能だ。本来は自分のランク外のクエストは昇格に関係ない上低ランクのやつ連れてっても足引っ張るだけだからあまり知られてねえルールだがな。」


「へ〜、そんなんがあるのか。じゃあ俺もゴードン達のクエストについて行けるんだな?」


「ああ、ちと遠出になるがな。」


「ノゾミの好きな魔道車に乗れるぜ。」


「やった!じゃあ早く行こうぜ!」


はしゃぐノゾミだったが


「ゆっくり朝飯くらい食わしてくれ。」


「早く!早く!」


ノゾミが急かすが、ゴードンは特に急ぎもせずコーヒーをズズッとすするのだった。

その様子を見てティムとコンは笑っていた。

テンラムを魔道車で出て討伐依頼の依頼者の元へ向かっていた。


「キリジャンの丘の向こう側。シン公国との国境ギリギリのとこだな。」


地図を見ながら、コンが呟く。


「そこは普段ゴードン達は行くとこなのか?」


ノゾミが尋ねると


「数えられるくらいしか行ってねえな。普通は依頼者も近い街のギルドに依頼する。遠くまで依頼出してもすぐにはきてくれねえしな。だが、ここ最近はこういった遠くの依頼も多い。理由は最近魔獣の出現頻度が増えてるせいで冒険者の数が足りねえからな。」


「へえ〜。」


「ノゾミはまだD級だからそんなに遠くのクエストは来ないと思うけど、出世すりゃそのうち遠方からの依頼も受けられるぜ。」


「それまでに魔道車運転できようにならないとな!」


「ほんと魔道車好きなんだな。お前。」


「でも、もし運転できるようになったら是非乗せてくれにゃ。」


「おう!じゃあ最初にティムを乗せるよ。」


「お前ら、これからクエストなの忘れんなよ。」


雰囲気がゆるゆるの3人に喝を飛ばすゴードンだったが終始移動中笑顔が絶えなかったのである。


「というわけでよろしく頼むよ。」


「了解しました。俺たちに任せてください。必ず、ゴブリン達を撃退して農家を守ります。」


今回の依頼はゴブリン退治だった。

ゴブリンは低級の魔獣である。

緑の悪魔呼ばれることもあるが、単体としてはそこまで強くない。

群れとなると冒険者も手こずったりするものの今回はそこまでの数ではないらしい。

多くても4~5体だということが依頼者との会話で分かった。

依頼者との会話を終え、ゴブリンがたむろしていると言う農家の向こうにある森林に向かった4人だったが、かなり奥にいるのか直ぐには出てこない。

痺れを切らしたコンが


「そういや、ゴードンあの話受けてくれるんだよな?」


「今することかよ。まあ披露宴の挨拶くらいならな。お前みたいなやつを貰ってくれた嫁さんに免じて受けてやるよ。」


「コン、結婚するのかにゃ。私は教えてもらってないにゃ。」


「俺も聞いてないぞ!」


ティムとノゾミが初めて聞いた事実に驚愕する。


「あ、お前らには言ってなかったか。来月結婚するんだよ、アタックしてた子がプロポーズ受けてくれたんだ。」


少し恥ずかしそうに鼻を掻いたコンは言葉尻早めに言う。


「こんな奴でも結婚するとはな。一生独身だと思ってたぜ。」


「お前こそずっと独身なんじゃねえか?」


「俺はそれでいいんだよ。結婚しちまうと危険な依頼には行きづらくなるしな。」


「へっ。俺らももういい年だぜ。そろそろいいんじゃねえか?」


「バカ言え。俺は一生現役だ。てめえと一緒にするんじゃねえよ。」


「なんだと!」


「あ?」


2人が取っ組み合いの喧嘩をし始める。


「何か子供みたいだにゃ。」


「俺も昔アキトとこうやって喧嘩したな〜。」


1回りも年上のおっさん同士の喧嘩をまだ若い2人が呆れて見ていた。


「ゴアァァーーーーーーーーーー!」


少し離れたところから突然絶叫が聞こえてきた。


あまりにも大きな音だったため、ゴードンとコンは喧嘩の手を止める。


「何だぁ今のは。」


「わからんな。悲鳴みたいだったが、人間じゃねえ。」


「まさかゴブリンかにゃ?」


3人が驚いてるなかノゾミは1人目を閉じて集中していた。


「おい、ノゾミ?」


ゴードンが声を掛けるが、それと同時にノゾミが目を開き


「みんな伏せろ!!」


出来るだけ大きな声で3人に伝える。


咄嗟にノゾミの指示で伏せた瞬間何か高速で目の前を通過し、4人の背後の木に激突した。


ドゴンと鈍い音を立ててそれはズルッと地面に落ちる。


「おい、あれって…。」


「ひぅ。何なのにゃ。」


「ゴブリン…か。」


木に叩きつけられたのはゴブリンの死骸だった。


先ほどの衝突かそれ以前なのかはわからないが手足が欠け悲惨な状態になっている。


「精霊達が怖がってる。」


「どう言うことだ。ノゾミ。」


コンやティムより少し早く現実に戻ってきたゴードンがノゾミに尋ねる。


「この辺の精霊達が怖がってるんだ。普通の魔獣が現れたくらいじゃこんなことにはなんない。何か森の生態系を壊しかねない何かがいるんだ。」


「何だと…。」


精霊は魔獣が生息する以前から自然に存在している。

つまり魔獣といった生物の出現に驚きはしない。

ではその精霊が恐れるのはどんな事態なのか。

それはそこに現れるはずのない脅威が現れた時だけである。


「グゥルルグ…。」


大きな足音と共に唸りのような声が4人の正面から聞こえてくる。

その足音は着実に近づき遂に目の前の木を薙ぎ倒してその姿を現した。


「グルァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」


深紅の体毛に覆われたオークが捕食対象を見つけたように4人を見下ろし咆哮したのであった。


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