第1章 冒険者の街:テンラム ーギルドの長
「ここがギルドかぁ〜!!」
ノゾミは独特の雰囲気を持つ建物に少し感動していた。
一見質素に見えるグレーを基調とした建物だが、その大きさはかなり大きく多くの冒険者がいることは容易に想像できた。
それは駆け出しの冒険者やベテランの冒険者まで年齢や出身地も様々な冒険者が集まってくるのが冒険者の街テンラムである。
そしてノゾミの隣にいるゴードンもその1人で
「こっちの奥の部屋だ。ついて来い。」
「おう。」
2人はギルドの一番奥の部屋に入っていった。
何故か言い知れぬ不安を感じたノゾミだったが部屋の扉を開けるとそこには2人の女性がいた。
「予定より少し早いね。相変わらず予定はきっちり守る男だね。」
ギルドの外観には似合わない豪華な椅子に座っている幼女ジムはゴードンを嗜めるように言う。
「そう言わんでください。それに今日は俺だけじゃないんですから。」
少し恥ずかしそうにすると、後ろにいるノゾミがゴードンの前に出た。
「こんちは〜。俺に用があるのって君かな?」
ノゾミは目の前の少女に対して頭を撫でながらそう言う。
「ん…。」
ジムはノゾミに成されるがままにされていると
「マスターに無礼な真似はやめなさい。」
隣にいた女性に手を叩かれた。
「いてっ!何するんだよ。」
ノゾミは思った以上の強さで叩かれたため少し睨みつけていると
「私はカンナ。このギルドの会計を担当しています。それとこのギルドのマスターであるジムのお世話を兼任しています。」
無表情で淡々と告げるカンナという女性はノゾミにも感じ取れるほど異常なオーラだった。
「悪いな。カンナ。それにマスターも申し訳ねぇ。」
ゴードンはノゾミに変わって謝る。
「ううん。それに人に撫でられた事などここ数十年なかったからね。むしろ気持ちよかったくらいだよ。」
少しジムは頰を染めているが
「え?数十年?」
ノゾミは深刻なことに気づき始めていた。
「ああ、言い忘れていたね。私は齢としてはもう60近い老人だよ。」
あははと笑っているが
「笑い事ではありませんよ、ジム。これだからギルドのメンバーにも勘違いされるのです。年齢相応の貫禄というものを持ってください。」
カンナも声色を全く変えずに口を挟む。
「仕方ないじゃないか。私が肉体的に年を取らないのは、カンナだって知っているだろ?」
「それは存じていますが、ジムは服装も幼い少女のような格好をしているのですから。それが問題だといっているのです。」
「それこそどうしようもない問題さ。私サイズの服となるとその類の物しかないんだから。」
「はぁ。わかりました。では私が近日中にジムの服を特注させます。このような問題が起こらないように。」
「そうか。本当に君はいつも気が利くね〜。」
「誰のせいですか。」
無表情のカンナだが少しばかり疲れているようだった。
そして2人のやり取りを見ていたゴードンとノゾミはヒソヒソ声で
「なあ、本当に60歳なのか?」
「多分な。俺がギルドに入った15年前からあのままだ。このギルドの七不思議の1つだと言われているが。」
「へぇ〜。でもって隣の人は少し怖そうだな。」
「ギルマスのこと以外ならあんな風に怒ったりはしないんだがな。カンナは昔ギルマスに命を救われたらしい。だから、付き人をやってるみたいだな。」
「そうなのか。カンナさんってめっちゃ強いよな。あの人からは昨日の大会に出てた人やさっきギルドにいた人たちとは圧倒的に雰囲気が違う。」
ノゾミは直感でカンナが強いことを確信していた。
どれほど強いのかはわからないものの、少なくともそこらの冒険者とは比にならない魔力と雰囲気は感じ取れた。
「お前には分かっちまうのか。カンナは少し特殊でな。俺らも知らないんだが、冒険者でもないが間違いなく強いぜ。うちで悪さした奴らがカンナにコテンパンにされたのを見たことがある。」
以前、ギルドの資金を不正に使おうとしていたギルドのメンバー数名をカンナがその悪事に気づきあっという間に返り討ちにしてしまったという事件があって、それ以来ギルドのメンバーの大多数はカンナを恐れている。
「そんなに強いのに冒険者じゃないのか。」
少しノゾミが考え込んでいると
「少年手は大丈夫ですか。先ほどは叩いてしまって申し訳ありません。ジムのこととなると私は冷静になれない。」
しっかりと頭を下げて謝罪してきた。
どうやらジムにノゾミに謝るよう言われたらしい。
後ろで見ていたジムはニッコリしている。
「呼び出しておいて、関係ない話をしてすまないね。君がノゾミくん。昨日の大会の優勝者だね?」
ジムは話を本題に戻し、ノゾミに問う。
「そうです。俺がノゾミです。昨日は大会をめちゃくちゃにしてごめんなさい。」
「いいさ。ああいうことは以前にもあったしね。開始1分ということは流石になかったが。」
「ごめんなさい。」
再度頭を下げる。
「君は冒険者に興味があるらしいね。」
「はい、ゴードンから話を聞いて楽しそうだなって。」
「そうか。それはよかった。興味がなかったとしても君を勧誘するつもりだったから。」
「え?」
「それはそうだろう?あれだけの力を持っている子が街をうろうろしていたら脅威の対象にされかねない。少なくともあの大会を見ていた者や参加者は君に恐怖のイメージを抱いているだろうね。」
「あ、やっぱり。」
ノゾミ自身感じていた。
昨日の居酒屋や今日ギルドに向かっている途中など街の人々の自分を見る目がどこか怖がっているような。
「そこで君にはギルドのメンバーになって欲しい。そうすれば街の人々の目も変わるだろう。何の首輪も付いていない猛獣は怖いが、首輪がついているなら幾分かマシだと思うように。」
「ギルドのメンバーってそんなに簡単になれるのか?」
「本来であれば正式な手順を踏む必要がある。実力を測るために実技の試験を行ってそれによって冒険者のランクを決めるのさ。」
「冒険者のランク?」
「ああ、冒険者にはクエストを受けてもらうんだが、自分に不相応な依頼は受けることができない。それはクエストの失敗を減らすためや冒険者の安全を確保するといった意味で必要なことだからね。」
「なるほど。」
「だから、この街以外のギルドでもランク制は大体取り入れられている。ランクはS~Eランクまでそれぞれあるんだ。君にはとりあえずCランクから始めてもらおうかな。クエストをこなしていけばランクも上がって行くよ。」
「わかった。これで俺も冒険者かぁ!よろしくな先輩。」
ノゾミは隣にいるゴードンの肩を軽く叩く。
「ったく生意気な後輩だぜ。」
ゴードンはどこか照れ臭そうに花を掻いた。
「ギルドカードは受付でもらうといいよ。すでに私から話は通してある。」
「よし、なら早速行くか。ノゾミ、今日丁度良い依頼があるんだ。ついて来てもらうぜ。」
「オッケー。先輩。」
「じゃあギルマス。これで失礼します。」
「マスター、また今度な〜!」
2人は部屋から扉の向こうに消えていった。
「彼はとても強い少年ですね。」
「そりゃそうさ。なんせ予言の英雄だからね。カンナもそう思うってことはやっぱり彼で確定かな。」
2人がいなくなり静かになった部屋で紅茶を啜っているジムと隣で事務作業をしているカンナ。
「私に最初叩かれたとき、直前でやめたようですが咄嗟の反射で反撃を加えようとしていました。もし、反撃をされていたなら私は回避できていたか、わからない速度でした。」
「そうなのかい。それは本当に楽しみだね。ゴードンはとんでもない拾い物をしてくれたものだよ。」
「王都で問題になっている犯罪集団の件もありますし、優秀な魔術師は多いに越したことはありません。」
「ああ、今クローシアにもいってもらっているけどね。彼女なら何かしらの解決はしてくれるさ。」
「ええ、彼女は少し性格が特殊ですが能力は随一ですね。」
「あ、紅茶のお代わりを貰えるかい?」
「わかりました。では私も少し休憩にして、ジムに付き合うとしましょう。」
「お、それは良い。君にはいつもお世話になっているから、私のプリンをあげるよ。」
「私は子供ですか。頂きはしますが。」
少しの間2人はティータイムを楽しんだ。