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第1章 冒険者の街:テンラム ー精霊使い

「ったく、あんな力隠してたんなら早く言いやがれ。」


ゴードンは飲み干したビールのジョッキを勢いよく置き、文句を言う。

優勝賞金50万ゴールドを得たノゾミはゴードンと共にゴードン御用達の酒場に来ていた。

と言っても酒を飲んでいるのはゴードンだけではあるが。

周囲のテーブルには仕事を終えた冒険者や街の住人が騒いで、1日の疲れを癒している。


「いや〜、別に隠してたわけじゃなくて…結構強い人が多いってゴードンが言うから全力でやったんだよ〜。」


ノゾミにとっても参加者全員をリングアウトさせたことは想定外であった。


「あんな力がお前にあると思わねえだろ。てかありゃどう言うことだ。」


「あれ?」


ノゾミには皆目見当も付かない。


「あのパンチの威力だよ。今もそうだが、お前からは一般人程度の魔力しか感じねえ。にも関わらずあれ程の威力が出せるわけねえだろ。」


ゴードンは大会を終えてからそれだけが疑問だった。

ノゾミの放った拳の威力は明らかに魔力を膨大に使用しなければありえない威力であった。

しかし、それほど魔力を持ち合わせていない。

現実的にありえない事象が起きていたのである。


「あ〜、それな。俺もおかしいと思ってたんだよ。他の奴らも何で全力出さないのかって。」


「はぁ?全力だったろうが。少なくとも手を抜いてるような奴は俺には見つけられなかったぜ。」


「だって、どいつもこいつも自分の魔力だけで戦ってたろ?」


「そりゃそうだろ。他人から魔力を供給して貰うのはあの大会じゃルール違反だ。」


「いや、そうじゃなくて。あんだけ精霊がいっぱいいるのに誰も使わないって話。何でみんな使わなかったんだろうなぁ。」


「精霊…だと?お前精霊が見えるのか?」


「そりゃ見えるよ。ゴードンだって見えるだろ?」


ゴードンは言葉を失う。

それはそのはず精霊を見ることができるのはおよそ1万人に1人程度のユニークスキル。


「見えねえよ。少なくともうちのギルドで精霊使いはいねえ。」


「え?都会の人って精霊の力を借りないのか。道理で弱いわけだぁ。俺のいた村じゃみんな使えてたから普通だと思ってた。」


「お前があれだけの魔力を使えたわけがわかったぜ、にしてもまさか精霊使いとは。」


精霊は自然に存在する目には見えない生命体。

その正体は膨大な魔力の塊でそれぞれが自我を持っている。

精霊使いはその精霊から魔力を借りて魔法を放つ。

人間が己の魔力を使い魔術を行使するのとは単純に数倍から数十倍まで魔力の量が異なる。


「お前はどうやって精霊使いになったんだ?それは自然に身につくもんじゃねえだろ。」


「俺は昔から精霊と村で仲良くなってたからな〜。小さい頃精霊と仲良くするために精霊の森で1年間暮らしてたんだよ。」


ノゾミは幼い頃師匠であるライネルの方針でアキトやリンと共に精霊の森で修行していた。

カドネ村の風習のひとつで帰ってきた頃には精霊使いの力を身につけることができる。

精霊の森は子供しか入ることはできない。

つまり精霊使いは生まれつき精霊を見ることのできる資質を持った者かノゾミ達のように幼い頃に精霊の森で暮らし精霊とコミュニケーションを取れた者にしかなることはできないのである。


「はぁ、こいつが予言の英雄だってのはほぼ間違いねえな。」


「予言の英雄?」


「いや、こっちの話だ。付き合わせて悪かったな。それと明日俺について来な。お前をギルドに案内してやる。会わせたい人がいるんだ。」


「オッケー。俺も冒険者に興味があったし、ギルドも見てみたかったしな。」


「じゃあ、明日宿屋まで迎えに行くからよ。」


そういってゴードンは代金を置いて帰っていった。


「よし、俺も宿屋に行ってさっさと寝るか。」


ノゾミも残っていた料理を食べ尽くし、宿屋に向かった。


「よっし、到着っと。」


闘技大会前ゴードンの教えてくれた宿屋に到着した。

店の名前はクリオスティ。

大きな店ではなく10人泊まれるくらいの宿屋だが、白い外壁の隅々まで掃除が行き届いており綺麗な印象を受ける。

テンラムの人通りの多いエリアから外れているため、少し落ち着いている印象だが隠れ優良スポットとして認知されている。

早速戸を開けると


「いらっしゃーい!お客さん一人?ってノゾミくん?」

「え?」


目の前の少女はノゾミのことをどうやら知っているようだった。


「私ミナ。さっきの闘技大会で解説してたの。まあ、すぐに試合は終わっちゃったんだけどね。」


「あ〜。解説のお姉さんか。ごめんな。俺もあんなことになるとは。」


ノゾミも思い出し、咄嗟に謝罪する。


「ううん。私実はあんまり大勢の人の前に立つのって得意じゃないから助かっちゃった。むしろありがとうございました。」


「あはは。ミナはこの宿屋で働いてるのか?」


「うん、私のお母さんがクリオスティを作ったんだ。もう死んじゃったけどね。」


「あ、ごめん。そんなつもりじゃ。」


「大丈夫。この街の人は私によくしてくれるし、この街のこと好きだからクリオスティを継ぐことにしたんだ。」


「そっか。ミナは偉いんだな。」


両親が亡くなってしまったのはノゾミも同じであったため、その孤独は理解できる。

そんな時ノゾミを助けてくれたのがアキトやリン、村の人たちであったように、ミナはこのテンラムの人々に救われ今前を向いて生きている。


「ありがと。今日は宿泊だよね?」


「あ、うん。しばらくここに泊まりたいんだけど大丈夫かな。」


「ええ、全然大丈夫。テンラムは冒険者が多くいる街だし、長く泊まる人は珍しくないよ。」


「それは助かる。」


「じゃあ、今部屋の鍵用意してくるね。ちょっと待っててね。」


「ありがとう。」


少し進んだミナが突然振り返って


「あとでノゾミくんの話聞かせてね。」


「なら、ミナにはテンラムのこと教えてもらおうかな。」


「りょーかい!」


2人は日を跨ぐくらいまでお互いのことを話し続けた。

ノゾミは村を出て初めて同年代の友達という関係を得たのだった。

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