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第1章 冒険者の街:テンラム ー予言の英雄

ゴードンの操る魔道車で約4時間夕暮れ時にテンラムに着いた。

乗っている間ノゾミは3人に冒険者について色々話を聞いていた。

と言ってもティムは殆ど話さないため厳密には二人にだが。

冒険者とはギルドに登録して仕事をする人たちのこと。

ギルドには人探しや掃除といった軽度な依頼からモンスター退治など命の危険を伴うような依頼もある。

3人は王都の近くの街で盗賊退治をするクエストを受注し、その帰りでノゾミを見つけたらしい。

最近王都の付近で盗賊や闇ギルドが暗躍している影響で治安が悪く、人手が足りないため王都から離れたテンラムでも時々仕事を受けることができる。

そう言った内容を聞いてノゾミは冒険者というものに少しの憧れを抱くことになった。

今まで村ではそう言った誰かを手助けして報酬をもらう仕事というのはなかったためである。

カドネ村は基本的には穏やかな村で村民の殆どは農業、残りはライネルの様に村の子供を育てる教師の様な役職しかなかった。

それ故、ノゾミは冒険者という職がとても輝かしいものに見えた。


「よし、この辺でいいだろ。」


ブロロロとゆっくりブレーキを掛け、ゴードンは魔道車をテンラムにある宿屋の前で止めた。


「ノゾミ、ここが宿屋だ。とりあえず日も暮れるだろうから今日はここで泊まったらどうだ?俺のお墨付きでいい宿屋なのは保証するぜ。」


「お、サンキュー。ゴードンのおっちゃんここまで乗せてくれてありがとな。」


ノゾミは降りてお礼をすると


「おい、待て。無賃乗車は頂けねぇな。ここまでで大体5000ゴールドってところだ。まけてやるからよ。」

ゴードンは掌を窓から差し出すとお金を要求する。


「ゴールド?なんだよそれ。5000ペリカで良いってことか?」


「ペリカ?聞いたこともねえな。まさかお前アーカディア紙幣持ってねぇのか。」


ゴードンはいよいよ呆れ返ってしまう。


「そんなん知らないぜ?村ではペリカコインのことをお金って言うんだから。」


「これだから田舎モンは…。ってことは今お前は金を全く持ってないってことか。」


「まあ、そうみたいだな。困ったなこりゃ。」


あははと笑うノゾミだったがやがてその深刻さに気づくと


「え、ってことは俺今無一文ってことか。じゃあ宿も泊まれないし、飯も食えないじゃんか。」


膝をつき絶望する。


「さっきからそう言ってるんだっての。とはいえこんなガキを野宿させんのはな。おい、コンお前の家泊めてやれねぇか?」


魔道車の中にいるコンに声をかけるが


「流石に無理だぜ。俺の家の狭さ知ってんだろ。とても人なんか止めらんねぇよ。ならティムは…」


「…」


無言で首を横に振る。


「だろうな〜。ゴードンは無理なのかよ?」


「泊めてやりたいのは山々だが、俺はこの後闘技大会の審判をせにゃならん。こいつに構ってる暇がねえ。」


「あ〜、そうだったか。」


話を聞いていたノゾミが


「闘技大会ってなんだ?」


「この街で1ヶ月に1回行われる催し物みたいなもんだ。腕っ節に自慢のある奴が参加する。優勝賞金も出るから結構盛り上がるんだぜ。」


「へぇ〜。ここでもそんなもんあるのか。俺のいた村でも闘技祭って祭があるんだけど、それに似た感じのもんなのかな。」


「俺たち現役の冒険者連中はギルドの規定で参加できねえから本当に強い奴らが出てくるわけじゃねぇが、これからギルドに入るつもりの奴とかもう引退した冒険者が出てたりもするぜ。」


ノゾミは少し考えて


「よし、決めた。俺それに出てみるよ。それで優勝すればお金も貰えるし、万事解決だしな。」


「おいおい、お前みたいなガキが出ても返り討ちに合うだけだぞ。いくら現役はいなくても腕に自信のある奴らばっかりだ。一発でお陀仏だぞ。」


ゴードンはノゾミを心配し、忠告してくれるが


「大丈夫。村じゃアキトに負けっぱなしだっけどそこそこ自信があるんだ。それに外の世界の人たちがどんな戦い方するのか興味あるしな。」


「どうなっても知らねえぞ。全く。」




急遽エントリーし、テンラム唯一の闘技場シンクトゥスに到着した。

途中でコンとティムはそれぞれの家に帰り、今はゴードンとノゾミの二人である。

「へぇ〜広いな〜!村の広場の10倍は広いや。観客席もあるし。」

はしゃぐノゾミだったが、隣にいるゴードンは

(こりゃダメだな。田舎モンだしわかんねえのかもしれんが、コイツからは殆ど魔力を感じねえ。そこら辺にいる一般人と同じだ。闘技大会に出てくる様な連中は冒険者程でなくても魔法をある程度使える。勝負にすらならねえな。)

この世界では魔法力が戦闘力の多くを占める。

屈強な肉体を持つ者でも魔力がなければ貧弱な相手に火の魔法で焦がされて終わり。

肉体の大きさは戦闘力に関わらないが、魔法力の高いものはそれだけでえ強力な武器になる。

それ故魔力を持たない者が闘技大会など滅多に出てこない。

出てきたとしてもすぐに敗れてしまう。


ゴードンはノゾミが無残に敗れる姿をイメージし、不憫に思えた。

(だが、出るって言ったのはアイツだ。少しは痛い目をみるかもしれねえが外の世界の厳しさってのを知流には良い機会かもしれねえな。)


その間に出場者が続々と集まり、リングに上がっていく。


「じゃあゴードン、俺も行ってくるな。審判頑張れよ〜!」


「お、おう。」


元気に駆けていくノゾミを見てゴードンは何ともいえない気分になった。


(結構たくさん人いるなぁ〜。30人はいるっぽい。)


ノゾミは周囲を見渡し、人数の多さとそれぞれが違う服装をしていることに驚きつつもワクワクしていた。


(こんなに人がいるなら優勝はキツイかもな〜、毎年村では10人も出ないし。)


「会場に皆さんお集まり頂けましたでしょうか?実況のミナです。これより闘技大会を開催したいと思います。今回は参加者が多いため、初のバトルロイヤルルールでお送りします。」


ミナがルールを説明しているが


「ばとるろいやる?ってなんだ?」


すでにルール説明の段階で村と文化の違いに詰んでいた。


「あの田舎モン、何もわからねえみたいな顔でボケっとしやがって。」


遠くで審判としてみていたゴードンはその体躯に似合わない小さな声で残念な気分になる。


「久しぶりだね。ゴードン。」


声をかけてきたのは小さな幼女だった。


しかしゴードンはその幼女が普通の幼女でないことを知っていたため


「お久しぶりでございます。ギルマス。」


深々とお辞儀し、荒くれ者の雰囲気を全身から消し挨拶する。


「そうかしこまらんでも良いさ。私はギルドマスターではあっても君たちの主人って訳じゃないんだしさ。」


「いえ、ジム様にはいつもお世話になっていますから。」


「やれやれ、君みたいな大男が私にそんな態度をするからいつまで経ってもギルドのメンバーも私に遠慮するのさ。」


「そんなことは。ですが、ギルマスが何故このような催しに?」


テンラムの冒険者ギルドのマスターであるジムは普段このような催しに参加しない。


それは単に催しが好きではないということではなくマスターとしての業務が多忙でなかなか参加できないことが理由だった。


「何、別に珍しく時間が取れたからね。それだけじゃなく今日来たのはあのメルキアの予言があったからさ。」


「あのメルキア様が。」


メルキアとはテンラム唯一の予言者で、この街を何度も災害から救ってきた。


彼女には街や世界に大きな変動が起きる際、夢で予言を見る。


「メルキア様は一体どのような予言を?」


ゴードンは恐る恐る尋ねる。


「そう固くなるな。今回は災害とか魔族の進行などではない。この大会に出場する選手の中にこの街を救う英雄が現れるらしい。」


「英雄…ですか?」


「そう。その者の容姿や特徴はわからないけど、この大会に出場することは間違いないらしいよ。」


「この大会には冒険者は出ません。一般人の中に英雄が隠れているとは信じがたいですが。」


「普通に考えればね。けど純白の騎士の例もある。この大会も馬鹿にはできないよ。」


「確かに、純白の騎士クローシアはこの大会の出場を気に冒険者になりましたがあれは特殊でしょう。」


「まあね。けどメルキアが予言を外したことはない。これは確定事項だよ。」


強い確信を持って会場を見つめるジム。

それに釣られてゴードンも自然と会場に目を向けた。


(一体どんなバケモンが参加してるって言うんだよ。こりゃ益々ノゾミの優勝は無くなったな。)


「それでは闘技大会開始です!」


ミナの声と共にゴーンと大きな鐘のねが響き渡り、闘技大会は始まりを告げた。

そこら中で戦いが始まる


「あ、これみんなで好き勝手に戦っていいのか。一人ずつやるのかと思ったぜ。もっとわかりやすく言ってくれりゃいいのに。」


あははと笑っているノゾミの頭を背後にいた男がハンマーで思いっきり殴りつけた。


「余所見してるなら一瞬で終わりだぜ。これで一人撃破っと…え?」


喜びに浸った顔が少しずつ驚きに変わる。

倒したはずの少年は倒れておらずそこに立っていたからである。

背後から魔力を込め全力で放った一撃を食らったはずの少年はビクともせず痛そうな素振りすらしない。


「へ?」


「おっさん、卑怯な奴だな。後ろからいきなり叩いてくるなんて。でも全然痛くなかったから手加減してくれたんだろ?ん…ってことは結構優しいのかな。」


んーと唸っているノゾミを見て男は呆然とする。


(手加減だと、そんなことしてねえ。だが俺の全力を食らってノーダメージなんかありえるかよ。なんかの間違いで力が入らなかったのか。そうだ、それなら納得がいく。次こそ全力を食らわせてやる。)


「食いやがれ、ブーストハンマー!」


ハンマーが光り輝く。

込められた魔力がハンマーの先端に集中し、ノゾミの頭に目掛け落ちる


「っと、今度はこっちも反撃するぜ、おっちゃん。おりゃぁ!」


ノゾミはグッと拳を握り、ハンマーに拳をぶつける。

普通に考えればノゾミの拳は砕け、男のハンマーが直撃するが


「なんだとぉ〜〜〜〜!」


逆にハンマーがバキャッっと音を立て砕け散った。

それだけに収まらず男はすごい勢いで場外に吹き飛んでいく。

他の参加者を巻き込んで。


「よっし、先ずは一人っと。次は…。」


ノゾミは次の相手を探そうとリングを見渡すがそこには誰もいなかった。


「な、なんと言うことでしょう。私にも何が何だかわかりませんが、彼が放った拳の風圧で参加者全員がリングアウト。開始からたったの1分で終了してしまいました。」


ミナだけでなく会場の観客も騒然としている。


「おい、まさか予言の英雄ってのは。」


「あの子みたいだね。既にB級冒険者並みの強さはあるじゃないか。」


ゴードンもジムも想定以上の結果に開いた口が塞がらない。


「優勝者は初出場の少年ノゾミです!おめでとうございます!」


と強引に皆が大会を締めることとなったのだった。

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