序章2
スッキリとした雲1つない青空。
3人の門出を祝福するようだった。
村長が話し始めるまでは…。
「というわけであるからして、聞いておるかの3人とも。」
3人は旅立ちの前から既にぐったりしていた。
「村長話なげ〜よ〜、日暮れちまうよ。」
ノゾミが腕をだらんとさせて抗議すると
「そうか、もうそんな時間経ってたかの。おお、もう2時間も経過しとるわい、これは面白いのぉ。」
これには流石のリンとアキトも
「「やっと終わった…。」」
「わしのありがたい言葉が聞けたんじゃから少しは感謝せい。」
カドネ村の村長"カドネ"はこの村の村長を受け継いできた家系の娘である。
今は推定70歳(ノゾミ見立て)ではあるが、昔は優秀な魔術師であったと言われている。
その腕はノゾミたちの師匠と同等レベルである。
「では旅立つお主らにライネルから与えるものがある。」
ライネル(師匠)がビュンッという効果音を立てノゾミたちの前に立った。
「師匠、昨日冗談だって言ってたじゃないか。」
「嘘つき…。」
ノゾミとリンから非難を受けてもライネルは悪びれることなく
「オッホホ。サプライズになったじゃろう。それにあれを耐えられれば、外の世界で困難にあってもきっと大丈夫じゃて。」
「全然嬉しくないな…。」
気丈なアキトですらこの時は呆れ返っていた。
「遅くなったが、お前たちにはそれぞれ1つずつワシからの贈り物がある。心して受け取るが良い。」
急に真剣になったライネルの表情に釣られて3人とも姿勢を伸ばし、真剣な面持ちになる。
「まずはアキト。」
ライネルはアキトの前に移動し、右手からコンパスのようなものを渡した。
「これは?」
アキトが尋ねると
「コンパスじゃ。それでは説明が足らんようじゃのう。このコンパスは持ち主が最も会いたいと思っている人間の方角を指してくれる。進む道に迷いがあれば使うが良い。お主はこの村の出身で恐らく才能だけであれば最も優秀じゃ。強い才能は道を間違えると取り返しが付かんからの。」
「ありがとうございます。大事にさせていただきます。これがあればいつでもノゾミやリンの場所に駆けつけられるな。」
「ピンチになったら助けてくれよ。アキトが来れば百人力だぜ。」
「ええ、アキトが居てくれれば安心ね。」
二人とも心強そうに感じていた。
「そして次はリンじゃな。」
ライネルはリンの前に立ちポケットから取り出した。
「これは、ポーチですか?」
リンに手渡されたのは青い水玉の模様のあるポーチだった。
「さっきのコンパスに比べて随分手抜きじゃんか、師匠。」
あまりの拍子抜けにノゾミは笑うが
「バカモノ。これは世界に二つと無いポーチじゃぞ。このポーチは普通の布ではなく竜の鱗を素材に使った特別製での。このポーチには加護が付いておる。もし、リンに危険が迫った時にはこのポーチが助けてくれるじゃろう。」
「そうなんですか。守ってくれるなら心強いな。私あんまり戦うの得意じゃないし。」
リンはホッとした様子でポーチを抱きしめる。
「良かったな。リン!」
アキトもライネルの真意が理解でき、納得した表情をした。
「なぁ〜、師匠。俺のはまだかよ〜。」
ノゾミが待ちきれずライネルに聞く
「全く、忙しないの。ノゾミにはこれをやろう。」
ライネルは両手に収まるくらいの本を手渡した。
「げ、何で俺だけ本なんだよ。アキトとかリンみたいに役に立つものにしてくれよ〜。」
ノゾミは心底がっかりしてしまい、俯く。
「ノゾミ、そんなにわかりやすくがっかりするなよ。」
「勉強大っ嫌いだったもんね。本を読むとき、いつも抜け出して森で居眠りしてたし。」
二人に笑われてしまい、ノゾミはますますテンションが下がってしまう。
「俺だけこんな仕打ちってねぇよ〜。何か他のものないのかよ、師匠。」
「待て待て、最後まで話を聞きなさい。この本はお前の父親が記したものじゃ。」
「え…。親父が。それを何で師匠が持ってるんだよ。」
ノゾミだけではなくリンとアキトも驚いていた。
二人はノゾミの過去について、両親からある程度聞いていたためである。
「ノゾミ、お前の両親は10年前の第二次アーカディア王国防衛戦にて戦死した。それは知っておるな。」
「ああ、リンのおばさんから聞いてる。」
カドネ村をはアーカディア王国に属している。
とは言ってもカドネ村のように辺境の村の魔術師が駆り出されることは、普通ではあり得ない。
しかし、ノゾミの両親ホーグ、アマナの二人は自ら志願して王都の防衛戦に参加することにした。
結果的に二人ともカドネ村には帰って来ず、王都から村に手紙が届き亡くなったことが判明した。
「その戦争にお前の両親が向かう前、この本をお前が旅立つ時に渡してくれと頼まれてな。ここまで隠していてすまなかった。」
ライネルは頭を下げる。
「頭を上げてくれよ、師匠。俺は別に怒ってるんじゃなくて驚いただけだから。それに、親父が俺に何か残しておいてくれたってのは素直に嬉しいんだ。」
鼻を書いて恥ずかしそうにしているが、ノゾミが本当に嬉しそうにしていることがわかったことでリンとアキトも僅かに微笑んだ。
「そうか。それなら大切に保管しておって良かったかも知れんの。ではお前の父親ホーグの魔法書を渡す。心して受け取れ。」
「ああ、ありがとう師匠。」
ノゾミは丁寧に両手で受け取り、カバンの中に入れた。
「これで3人ともに渡すべきものは渡せたの。3人とも気をつけなさい。この村の掟で15歳の幼いお前たちを村から出すのはワシとしても心苦しいが、成長して帰ってくることを祈っている。」
「「「はい!」」」
遠くで煎餅を頬張っていたカドネが話が終わったことを察し、3人に寄ると
「ではもう一度掟を確認しておくぞい。1つ村の子供は15歳で一度村から出なくてはならん。2つ村を出る期間は最低2年。3つ旅を楽しんでくること。以上じゃ。」
「目一杯楽しんでくるぞ〜!!」
ノゾミは両手をあげ、空に向かって叫ぶ。
3人は村から出て、森に少し入った辺りで立ち止まった。
道が3つの方向に分かれていた。
「ここからは俺たちも一旦お別れだな。」
アキトがそう告げると
「そうだね。やっぱり寂しいけど、お土産話たくさん持って帰るね。」
リンは昨日の不安は晴れ、微笑む。
「おう!次3人で会うときは村に帰ってくるときだな。その頃にはきっとアキトより強くなってやるぜ。」
ノゾミは自信たっぷりで力こぶを作る。
「あぁ、期待してるよ。俺もその時にはもっと強くなってるさ。」
「二人とも、ケンカ強くなりに行くわけじゃないんだよ。全く。でも私も外の世界の回復魔法には興味あるかも。今よりもっとすごい回復魔法を習得して村に帰るよ。」
「ああ、リンならきっとできるさ。」
「そうだな。俺が怪我したら治してくれよな。」
「はいはい。ってかあんまり大きい怪我はやめてよね。心配するから。」
「わ〜かってるって。でもそれでもリンがいれば安心だな。」
「任せなさい。どんな怪我だって治してみせるわ。それにアキトの怪我ももちろんね。」
「ああ、助かる。俺はノゾミほど無茶はしないだろうけどな。」
そのあと3人で少し別れを惜しむように話したが
「俺は王都セングレアに向かう。最新の魔法学と経済学を学んで村にも取り入れられるよう習得してくるよ。」
「私は水の都アクアプールに向かうわ。回復魔法が栄えてるって師匠から聞いて、前から興味があったの。」
「俺は…特に決まってないけど、気の向くままに進んでみる!」
「って、それ考えなしってことじゃない。」
「ノゾミらしいな。」
そして3人は手のひらを重ね
「ここで一度別れるが、2年後また再会しよう。そのときはあの広場で祝杯をあげよう。」
「「「お〜!!!」」」
そして3人は別々の道を進み出した。
それぞれ困難ことがあってもいつかまた再会できることを信じて。