第3話 夢のような食事
私はミーアに手を引かれ食堂まで案内される。
その間何度か迷子になったらと想像して、ビクビクしていた。
それほどに広いのだ。
きっとミーアが居なければ、食堂どころかこの家を出る事すら出来ず部屋で寝ていた。
道中、廊下を通るメイドさんに何度も挨拶をされ、慣れていない私はとても恥ずかしかった。
そして気兼ねなく、堂々と前を歩くミーアに憧れを抱くのだった。
「ここが食堂です」
それから、数十分歩き、大きな扉の前で止まり、扉を開けぺこりと頭を下げた。
扉の先にはシャンデリアやきらびやかな彩色が部屋を鮮やかに彩っており、とても自分が居ていい場所ではない気がした。
一番奥の椅子に座っていたレーテさんから声を掛けられた。
「さあ、食事ですし、何処でも好きな場所に座って下さい」
昨日のレーテさんとは違う、貴族様の口調でそう言われる。
どこに座れば良いか分からず、呆然としているとメイドさんに椅子まで手を引かれる。
そういえば、この部屋で座る人は、そんなに居ないのに、十人以上の席が用意されてる。
貴族様は本の中でも不思議な事をするが、現実でも不思議な事をするということが今分かった。
長テーブルの上に大量の料理が置いてあり、涎が出そうになる。
周りには少人数のメイドさんが立っていて緊張した空気が漂っている。料理長は今までレーテの為に作ってきたので、味が合わないのではないかと不安に思っているのか、厨房からちらちらとこちらを見ているが、スノー的には料理が食べられるだけで大満足だった。
「あの、どうしてこんなに席が空いてるのに誰も座らないんですか?」
村での知識はあっても貴族の知識は無い、だから純粋な質問ができるスノーを、愛らしいとレーテは思う。
「それは、まぁ、大体の家も皆そんなものなのよ、あんまり気にしないでね」
あまり気を使わせまいと何となく、適当な事を言って誤魔化した。無駄な知識を教えて、無垢な少女を貴族という名の泥で汚したくは無いのだ。
手を合わせて念仏的な物を唱えてから食べ始めるらしい、ミーアさんが食堂に着く寸前に突然思い出したのか教えてくれた。
「えと···じゃあこれから食べようかな?」
テーブルには大量の料理があるので、あたふたする。なので私は、目の前にあるスープを飲むことにする。
「これ・・・」
一口飲むごとに、美味しい味が広がっていく感じがする。何の味か分からないけどすごく美味しい。
「あれ?もしかしてそんなに美味しくなかった?」
レーテさんに聞かれ、慌てて首を横に振る。
「いえ、とっても美味しいです!でも、私なんかがこんなに貰っていいのかなって思って」
私は、貧乏だから料理とか住む場所も最低限だった。だから、本当にこんなに良くしてもらって良いのかなと思ってしまう。
「そんなに美味しかったかな、まぁ良かったよ」
新鮮な反応にレーテは少し驚いていた。ここに来るのは大抵が上級貴族で、不味いと一言言われて突っぱねられる。故に久しぶりにこの家で聞いた言葉だ。
それと同時に、連れてきて良かったと思い、決心をする。
「・・・とても美味しいです、こんなの味わったこと無いです!」
レーテは手を2回叩く。本来は呼び鈴鳴らすのが普通なのだが、奴隷みたいで好きじゃない。
「はい、何でしょうか、レーテ様」
後ろに居たメイドさんが叩いてすぐに喋りだす。
「料理長呼んできて、お願いね」
レーテさんがそう言うとメイドさんは「今すぐに」と早足に行ってしまった。
数分もしないでメイドさんは帰ってくる。
連れてきた人はレーテさんの所まで行き謝りだした。
レーテは、一番見せたくなかった光景をスノーに見せてしまいため息をつく。
「申し訳御座いません、この様な料理を出してしまうとは、つ、次はこの様な事が無いようにしますので・・・」
レーテさんが手で制すと料理長さんが喋らなくなる。
「違う、美味しくない料理出されて怒ってるんじゃなくて、とても美味しいかったから呼んだんだよ」
微笑みながら、そして感想をつらつらと述べた。
「左様でございますか、ありがとうございます!まさかそう言って下さいますとは」
それを聞くと、料理長さんは笑顔になり、そしてもう一度お辞儀をし、にこやかに食堂を後にした。
料理長さんが帰ると、食器の音などが良く聞こえるほど、静かに食事をした。メイドさん達も一切何も言わず、主人達が食べるのを待つ。
私は、メイドや家の大きさでこの家が上級貴族様の家なのだと理解した。
それに、クロース家って何処かで聞いた、そんな名前だった。
胸の中で何かが引っかる感じがして何とも言えない感じ。
「ん?どうしたの?スノー」
そんなスノーを見て、レーテは心配そうな目で見つめた。
「あっ、その、私、なな、何でも無いです!」
喉のところまで出かかった言葉を押し殺し、心配させない様にする。それに質問ばっかりは迷惑になるかも知れないから必要ない質問はあまりしない様に心掛ける事にしよう。