第8話 試練
「えっ、えええええ!冒険者依頼受けるんですか!?」
チトと私は驚いた。どうしてこうなったんだろ。
暖かな昼間の時間に二人の少女は扉の前で奮闘している。
チトと私は、扉の前に立ち、思い悩む。それを数分して痺れを切らしたチトは、目配せをする。
内容としては一緒に行く?とかそんな感じだと思う。
「うぅぅ、やっぱり超緊張します!」
「そうかにゃ?簡単にバンッ!てやっててにゃー!ってやれば終わりだにゃ」
隣でジェスチャー的な事をしながら教えてくれてるけど私には全く分からない。
「ごめん、全然分からない」
チトは、そう言われて少し落ち込む。そしてアドバイスの難しさを初めて知るのだった。
「そうかにゃ」
チトは礼儀作法を知らない、なのでスノーが今悩んでいても、普通に入れば良いのにと考えてしまう。チトにとって礼儀などノリと勢いで何とかなると物と思っている。
「ま、そうだよね、良し!悩んでても仕方ない」
チトにジェスチャーとともに言われた、言葉で気持ちの整理がつき、中に入る決心をした。ドアノブを握る手に汗が滲む、やっぱり緊張しないとか無理。
「し、失礼します、レーテさん、お話があります!」
自分が知っている、なるべく丁寧だと思う言葉を選び中に入る。
「ん?どうしたの?スノちゃん」
初めて入ったレーテの書斎は質素な所だった。貴族の家とは思えないほどに物が少なく、女の人らしさがほとんど無い。カーテンは白で机には紙の束、その様子から仕事が忙しいのだろう。
「あ、えっと私・・・」
緊張と驚きに言葉が詰まってしまうが、背中にチトの、重みを感じ前に進む。
チトは私に密着して小さく耳打ちをする。
「大丈夫にゃ、ご主人は優しいから」
アドバイスなのか、そう囁かれて、勇気づけられた。
「うん、何とかやってみる」
私も小さく囁き自信を持つ。その様子を見て、レーテは自分も混ざりたいと思う気持ちと格闘する。
そんなレーテさんを見て苦笑いをし、本題に入る。
「あの!私をここで雇ってください」
頭を下げ、全力でお願いする。
「雇ってほしいの?う〜ん、でもな〜、メイドはいっぱい居るし、要らないよ」
レーテに初めて拒絶され、ショックを受ける。分かっていた筈なのに。
「そ、そんにゃ、私からもお願いにゃ!」
チトはレーテが要らないって言うとは思わなかったので少しびっくりする。
「メイドは要らないよ、私はスノちゃんに養子になって欲しいんだよね、だからメイドとしての君は要らないんだよね」
実際の話、この家には子供が居ない、と言うか作る気が無いし、婚姻を結ぶつもりも無い、あの時、レーテがスノーを助けたのも養子にするためだった。
「よ、養子・・・養子!?えと養子ですか?」
思わぬことを聞き、焦ってしまう。
「そうそう、養子だよ」
微笑み、ウィンクをして、指を指す。
村娘であるスノーが貴族の養子になる事はほとんど無い、異例の自体にスノーとチトは思考を停止させる。
「チト?スノちゃん?どうしたの?」
別段変わった事では無いといった感じで、首を傾げる。
「異例の事ですよ、レーテさん、本当に私なんかで良いんでしょうか?」
冷静になり、震える手を握り締め、レーテに聞く。
「うん、良いんだよ、と言うか、スノちゃんが良いんだよね、私的にね」
レーテは確かに、最初は適当に決めていた。
しかしたった2日であのチトを元気にさせてしまったのだ、その様子からはただの少女かも知れない、でもこの子からは何か普通とは違う何かがある。そう踏んでの事からだった。
「・・・・・私、私頑張ります!養子として」
自分が貴族として、居られると舞い上がりそうになる気持ちをぐっと堪え、頭を下げる。
「まあ、この家の養子として、頑張るのは応援するよ、でも試練的な奴があるから気を付けてね」
この家に住むには、やらないといけない事がある。ただの一般貴族だったらやらない事、でもこの家は特殊な貴族、多分出来るんだろうとレーテは考えているが、どうなるかは分からない。
「え?試練ですか」
唐突にでた試練という言葉、意味は分かっていないけど、何となく緊張して萎縮する。
「ま、試練と言っても、冒険者依頼のDランクの物を受けるだけだから」
「ぼ、冒険者依頼ですか?私が…」
冒険者と言えば本によく出てくる人達のこと、魔術や剣術とかっこいいイメージしかない冒険者、なれる気がしないと思ってしまう。
「うん、大丈夫だよ、チトとミーアを一緒に行かせるから」
自分の名前を呼ばれ、チトが戻ってくる。
「え、えええぇ!冒険者依頼を受けるんですか!」
普段使わない言葉を使い、すごく驚いている。
チトの予想外な驚きに、レーテは苦笑いをしている。
私がやるべき事をする為に前に進む、お母さんが昔言った言葉を胸に私は頑張ります!