化け物のあなたと少女
昔、昔、ある森の中に化け物がいました。
化け物はなんの動物よりも体が大きく、
誰よりも声が大きく、
何よりも恐ろしくて、醜い顔を持っていた。
ある日、化け物は暇つぶしに、森の中から出て、
町へ出かけようとした。
けど、旅の途中に、化け物は魔女と出会ったのだ。
魔女は化け物を気に入ったそうだ。
「化け物よ、
君は一人ぼっちでしょう?
だったら、私のところへ来ないか?」
と、魔女は化け物に聞いた。
「いいえ。
私は他人に好かれなくても、十分幸せです。
何せ、私の周りには、生きてる植物や動物があるから、
それで満足なんです。」
と、他人に感情を持たらず、求めず、
知らずの、化け物は答えた。
「そうかい?」
と、実は同じく、一人ぼっちの魔女は言った。
「ならば、君にはもう必要はない。
私と会ったことを後悔させよう。」
魔女にはとても不幸な魔法を持っていた。
そしてその魔女は、化け物に呪いをかけた。
その呪いは、化け物の両手に触れるものは全部腐ってしまうという
残酷の魔法でした。
呪いをかけたあと、魔女は化け物の前から消え去った。
魔女はもう二度と化け物と会いたくはなかった。
けど、化け物はまだ魔女と話したかった。
「ごめん」と、誤るために。
その時の化け物にはまだ、感情というものはなかった。
けれど、他人に気をつかう気持ちは持っていた。
その日から、化け物に触れられた生き物は全部腐り始めた。
町にも行けず、旅の予定が崩れてしまった。
そして、呪われた化け物は、誰にも愛されなかった。
名前も付けられず、何年も孤独のままで生きてた。
けれどある日、一人の少女が森の中に迷い込んで来た。
彼女は化け物と違って、見た目がとても美しかった。
仕草から性格、完璧でキレイな少女だった。
「あなたの名前は」
と、少女は無邪気に聞いた。
化け物には名前などない。
だから化け物は黙るしかなかった。
「名前、ないの」
と、少女はもう一度聞いた。
化け物は少女の言葉は話せない。
「じゃ、私は『あなた』って呼ぶから、
その時ちゃんと返事してね。
私はあなたの親じゃないから、
名前を付ける権利はないの」
化け物は驚いたが、返事として頷いた。
少女にはとあることができた。
あの少女にしかできなかったことがあった。
それは、化け物に触れることであった。
醜いとも気にせず、少女は化け物と初めて会った日に、
強く抱きしめた。
少女には、化け物が感じてる痛みが見えた。
血も流れてないのに、なぜ?
彼女は化け物の心の傷が見えたのであった。
少女は化け物にこう囁いた
「もういいよ。
痛いなら叫んで。辛いなら言って。これは普通。
あなたはもう十分頑張った。」
そして化け物の醜い顔に初めて、涙が流れた。
その言葉を聞いて、温もりを感じたのだ。
少女の言葉なんてわからないはずなのに、
心の声は通じてたみたい。
なんて幸せなんだと、化け物が思った。
けれどそこにも悔しさも交じってた。
少女の言葉を返せない悔しさ。
少女に温もりを与えられない悔しさ。
少女に同じく幸せにさせる力のない悔しさ。
化け物は少女の言葉は話せない。
化け物は少女がしたように、抱きしめることはできない。
それは、化け物にとって辛かった。
けれど、少女はそんなこと、考えたこともない。
少女は化け物と共に人生を過ごした。
化け物は悪い環境に暮らしてた。
でも、それは化け物のせいではなく、
魔女にかけられた、呪いのせいであった。
それでも、少女はその環境に耐えた。
少女にはいろんな知識を持っていた。
動物の名前。植物の名前。
化け物は餌としか思わなかったもの。
その全てに意味を教えてくれたのは少女であった。
化け物は少女に与えられた知識を大事にした。
全部聞いて、覚えた。
ダメなことに反省し、いいことはした。
叱られても、ちゃんと聞いた。
化け物の気持ち、見る目、少しずつ変化が見えた。
少女が化け物を大切に思うように、
化け物にも初めて大切と思う少女がいた。
化け物は少女を守ることを誓いました。
でも少女の体にも限界がある。
年を取り続ける少女は、
死に近づき始めた。
そのことは化け物にもわかった。
死を迎える生き物を何回もみた化け物には、
一番理解しやすいことだった。
「ね、あなた」と、少女は優しく化け物を呼んだ。
化け物は死にそうな少女を前にして、目線を少女の顔に向けた。
「私の時間は少ないみたい。
だから、行く前にお願いがあるの
私を抱きしめてくれる?」
そんな悪意なこと、化け物にできるはずがない。
化け物は何回も死を見て来た。
最後には愛してた少女を殺すだなんて、
できない。
「私は殺されないよ。」
と、化け物の心を読めたかのように、少女は答えた。
「だって、私もうすでにこんな状態。
明らかに、あなたのせいではない。
だから自分を責めないで。
あなたは悪くない。
幸せに生きて。
愛してるよ。」
そう言ってくれた少女への感情も耐えず、
涙を流しながら、ずっと我慢していたこと、
その両手で少女を強く、けど優しく、抱きしめた。
「愛してる」
と、化け物は少女に呟いた。
「またいつか、会おうね!」
笑顔で去った少女は、少しずつ腐り始めた。
そして化け物は抱きしめたまま、
一度も動かなかった。
永遠にそのまま、少女と一緒に腐っていった。
何十年も何百年もたって、
ようやく、二人は土のなかに埋められたのであった。
もしあの日、町に行こうとしなかったら、
こんな残酷な風景、見ずに済んだかもしれい。
でも、その化け物には知らないことがあった。
それは、もし魔女の提案に賛成していればの話。
もし受けたら、化け物は孤独のまま魔女の虜になって、
一生自由を持てなかった。
生きたまま、恐怖や愛や喪失。
後悔も悲しみも幸福。
魔女が感じられなかったこと、
その全てを感じることができた化け物であった。