十一話 大問題
「――――鳥」
矢人は無意識のうちに呟いた。背中から大きな翼を広げている少女をみて。
「ん?なんや?そんな人じろじろ見て?」
窓のふちに立っていた鳥少女はきょとんとした顔をしていたが、「あ、そうやな」というと羽は光の粒子となり溶け消えた。
「――――なッ」
異能力を見たことがないといえば嘘になるのだが、中学校まではあまりかかわることがなかった。遠目で見てるとか、テレビだとかそういうところでしか見たことがなかったので、こんな近くで見られて驚いたのだ。しかし、他の部員たちは特に驚いた様子はなく、落ち着いていた。彼女たちから見れば、異能力は普通なのだろう。
少女がとん、と床に足を付ける。
「なんや?今何しとるん??」
「あ、いや、自己紹介を…」
なるほどと少女は手をついた。
「うちは、金牛夏実ちゅうんや。よろしく頼みますわ~」
夏実は如何やら関西からの出身らしい。背が高く大人びているせいか、少し上に見えた。言わずもがな三年生だろう。
そこで、ドアが開いた。先生が、入ってきた。なんかやつれていた。よほど、長電話で疲れたのだろう。小声で「だからあの上司は…」などとブツブツ呟いていた。
「――――お?あれ?いつの間に来たのきんぎゅーちゃん!」
そりゃあ、窓から入っていたなら気づくはずもあるまい。しかも。
「きんぎゅう違うて毎回言うてるやないか!かぁなぁう~しぃ!か・な・う・し!」
夏実はおぶちゃん先生つかつかと歩み寄ると、頬をつねって、がくがくと左右に振っていた。そのあとから、「いた!いだだだだだ、だだ…!」という声が聞こえた。
「――で、えっと…どっからだっけ……?」
忘れかけている先生に、椿がすくっと手を挙げる。
「せ、先生、一番の問題って…」
先生は、「あ、そうだった…」と苦笑いをして告げた。
「部室がないんだよね…この部活……」
え?
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええ!」
驚きの叫びをあげる矢人に、おぶちゃん先生は「てへ☆」と頭をこてんと小突いた。
背中から羽か、腕が羽化か迷った。