一話 プロローグ。
第一話 プロローグ。
それは、一方的な通信だった。
………ピッ…………ガ、ガガ…。ギギ、ガ、、ピピ…ッピ。ピーーーーーーーーーーー。
無機質な音声が、部屋にこだまする。それだけではない。
「……………………きッ――――――み…………は…!」
――――――え?
声。いや、それだけではない。
自分の声が発せない。なるほど、そうなっているらしい。
「き、み…………は!いつ、か…ッ――――――す、べてにきッづく…………。けッど…!
私は――――――」
途切れ途切れに聞こえていた声は、ある音で掻き消えた。
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピッ!!と、なる電子音。
まるで、意識の向こうから聞こえてくるような……。
「――――――んぁ」
目が覚めると、うつ伏せにでも寝ていたのでろう、シーツと対面していた。なり続ける目覚ましを止めるため、起床と眠りのまどろみの中もそもそと手を動かし……………ない。きっと落ちたのだ、とそう考えるあいだにも電子音は、音を大きく早くしている。ギリギリそのままの体制のままペタペタと床を触り、なにか硬いものに触れる。きっとこれ……
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
とると同時に、バランスを崩してずるうぅぅぅぅぅぅッと滑り落ちた。
「あうーー」
強かに打ち付けた後頭部をもう一度布団にくるまり、抑える。
「いや、起きてよおにーちゃん」
そこで、ようやく声の主の存在に気づいた。美しい銀髪は朝日に反射し、横で髪を一つに結っている。そして怒ったように腕組みして仁王立ちをしている矢人の妹――――――結茉だった。
矢人は「おぅ」と挨拶を済ませると三度布団にくるまる。結茉はふぅとため息をつくと全力で布団をはがしにかかってきた。
「うぅ…。あと三時間半………」
「シャレにならないっ!?」
結茉は、ひとしきり叫ぶと矢人を布団から離脱させた。兄を引きずる冷酷な妹に情けない兄は同様に、「ふえぇ……」と情けない声を発した。
何とか身支度を済ませた矢人は、うんと背伸びをし時計をちらりと見やった。
……まだ六時前だった。どんな時間に起こしやがる目覚ましめ畜生!
すると、昨日の記憶が芋づる式に掘り起こされた。
――――――昨夜のことだった。いつも寝坊助の矢人は明日こそ早起きしてやると意気込み、目覚まし時計を少し遠くに設置したのだ。
結果は今朝の通り、自分の行った良いことを呪わなくちゃいけないなんて今日は、どんなバッドデイだ…先ほど打ち付けた後頭部をさすりながら、矢人はふかぁくため息をついた。
リビングに向かう途中、階段を下りているとリビングの方から「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」という結茉の叫びが聞こえてきた。きっと何かあったのだ。
矢人は全力の駆け足(?)でリビングの戸をあけ放った。
「どうかしたのか?大丈夫か……って…」
矢人は口をあんぐりと開けた。何故ならそこには、苦痛と悲愴に表情をゆがめた妹ではなく、歓喜の笑みに満ちた妹の姿だったからである。すると結茉は、矢人の存在に気づいたのかさらに笑みを濃くした。
「きいてきいておにーちゃんこれこれ乙女座一位だよ興奮しない?」
予想外の言葉に矢人はあきれつつも、半眼を作りいまだファサファサと揺れるサイドポニーテール頭にチョップにをかました。
「あたー、なにするかー!」
抗議の色に目を染めた結茉がこちらを見てくる。
「なにするかー、っじゃねぇ!びっくりさせるなよ」
「むぅ」
唇を尖らせる妹にもう一度しかし軽くチョップをし、キッチンへと歩いた。
調理中に少し、怒りすぎたかなと考えていると後方から「おにーちゃん最下位~」とけらけら笑う声が聞こえてきたので心配した自分を軽く呪った。
矢人の家は両親が一年前から海外出張に出ていてめったに戻ってこない。その為、矢人が家事全般をこなしているのだが、いつの間にか得意になってしまった模様。それにしても、結茉はもうちょっと手伝ってくれてもいいだろう。もう中二だし…そう考えていると気になるニュースが耳に入ってきた。
「速報です。竹鶴市近郊で殺害事件が発生しました」
そこは、矢人たちの住んでいる市だった。
読んでいただき、ありがとうございます!
こんな妹が欲しい…