貴女のままで良いのよ。
「おはよう」
翌日朝食を食べる為食堂に行くと涼子ちゃんが私に気づいて声を掛けた。
「おはようございます」
「2人は?」
「まだ来てませんか?」
「ええ、てっきり一緒に来るものとばかり」
確かにそうだ、でも私は昨日の真夏ちゃんとの会話で少し気まずい物を感じて1人で来たのだ。
その時食堂に真夏ちゃんと光希ちゃんが入って来るのが見えた。
「おはよう昨日は眠れた?」
「うん、眠れたよ」
「ありがとうございます、しっかり休めました」
「そう、どうしたの愛佳ちゃん」
2人に挨拶もせず黙っている私に涼子ちゃんは不思議そうに聞いた。
いけない私らしくないな。
「あ、おはよう真夏ちゃん、光希ちゃん」
「大丈夫?」
「はい大丈夫です...」
取って付けたような言葉で余計に心配されてしまった。
真夏ちゃんも言葉少なく朝食を食べ昨日の夕飯と全く違った妙な雰囲気に誰も話し掛けず静かな食堂となった。
朝食を終えた私達は発表を見るため校庭に向かう。
今日は高校も休みで校庭には沢山の受験生が結果を見る為に集まっていた。
「よう」
「おはよう愛佳、真夏」
校庭で秀ちゃんと謙一さんが声を掛ける。
2人は合格者を事務所に案内する役目で校庭に待機していた。
(私と涼子ちゃんもだ)
「兄ちゃんおはよう!」
「おはようございますお兄様」
「あ、おはよう光希」
「いやだわお兄様、『光希』だなんて」
「いや、そう呼べとそっちが」
光希ちゃんと謙一さんの小芝居を見ながら笑えない自分に溜め息が出そうだ。
「どうした愛佳?」
「あ、秀ちゃんおはよう」
心配そうに秀ちゃんが私に近づく。
駄目だな昨日の事を引き摺るなんて私らしくもない。
「愛佳はどうかしたのか?」
「ううん」
秀ちゃんは真夏ちゃんに尋ねるが知らない振りをしてくれた。
ゴメンね真夏ちゃん。
「そうか」
「さあ行こう10時に発表だよね?」
「ああ」
合格番号の貼り出される特設の掲示板に着く。
やはり大勢の人が今や遅しと発表を待っていた。
「凄い人だね」
「さすがはマンモス校の静嵐ですね」
「うー緊張する」
「わ、私も」
2人は緊張の面持ちで掲示板に番号が貼り出されるのを待っている。
私も皆と同じように掲示板を見つめるが気持ちが着いて行かない。
そんな中時刻は10時を迎え高校の職員さんが番号を張り出し始めた。
「あ、あったよ!」
「私も!あった!!」
真夏ちゃんと光希ちゃんは自分の番号を見つけ跳び跳ねる。
私も一緒に真夏ちゃん達と喜びたいが生徒会である為跳び跳ねる訳には行かない。
でも嬉しいのはもちろんだ。
「良かったな」
「おめでとう!」
秀ちゃんと謙一さんは真夏ちゃん達に優しい笑顔を向けた。
「お兄様!!」
「うぉ!」
光希ちゃんが謙一さんの胸板に飛び付いた。
結構な突進力だ。
あの謙一さんが思わず後ずさる位だもの。
「兄ちゃん!!」
「頑張ったな」
「へへへ」
真夏ちゃんも秀ちゃんに抱き付いて頭を撫でて貰いご機嫌だ。
羨ましい。
「おめでとうございます」
「あ、桜ちゃん!」
「ありがとうございました」
喜ぶ2人に後ろから生徒会長の山下さんが笑顔で声を掛けた。
「中山さんと謙二さんも含め皆さん合格、広田君、斎藤さん、青山さん、良かったですね」
「ああ」
「うむ」
「青山さん?」
「あ、はい良かったです」
いけない麻里ちゃんを思い出してボーとしてたよ。
「どうしたんだ愛佳さっきから?」
また秀ちゃんに心配かけちゃったよ。
「何でも」
気まずさから素っ気ない返事をしてしまう。
「青山さん」
「はい」
「少し良いかしら?」
「え?」
「お時間は取らせません、少し来てください」
「あのでも案内は?」
「大丈夫です、職員さん達の手も足りてますから」
「はい」
有無を言わせぬ言葉に私は頷き山下さんの後に続いた。
「さあ座って」
「失礼します」
生徒会室の扉を開け私を椅子に座らせた山下さんは向かいに座った。
「中山さんの事ですか?」
いきなりの言葉に私は声が出ない。
「......」
「私のお節介が過ぎましたか?」
「いえ、そんな」
「では何故?」
「分かりません、ただ」
「ただ?」
「ただ何となくスッキリしないと言うか」
「そんな事ではまた秀一君を誰かに取られますよ」
「え!?」
凄まじい言葉に私は頭を殴られたような錯覚を感じた。
「中学時代に一度秀一君を奪われたのでしょ?
その時あなたは中山さんと一枚岩でしたか?」
「え?」
「違いましたか?」
山下さんの言葉に私は中学時代の悪夢を思い出す。
確かにあの時私は麻里ちゃんと違うクラスで秀ちゃんとも違うクラスだった。
麻里ちゃんは玲美と同じクラスメートで親友になり2人に距離を感じていた。
「私は貴女と中山さんが秀一君をしっかり守り固めているから諦める事が出来たのです」
「そうなんですか?」
山下さんの告白に私は驚いて顔を上げた。
「私だけではありません、川井さんや服飾部の皆さんも同じです」
「はい」
「これから新入生も入って来ます。
秀一君の注目度は益々上がるでしょう、貴女と中山さんが一枚岩じゃないと守りきれませんよ」
「私がしっかりしていれば大丈夫でしょうか?」
思わず弱気な言葉が出る。
「私の目に狂いはありません。
自信を持ちなさい。
広田秀一君をこの学校で輝かせた一番の要因はこの1年間一緒に居た青山愛佳さん、貴女ですよ!」
「山下さん...」
「焦っては駄目です、貴女はそのままで良いのよ」
「分かりました」
「良かったわ」
山下さんは慈しむ目で私を見る。
その優しい瞳に私は涙が出そうになる。
なんて強い人だろう、自分も秀ちゃんが好きなのに麻里ちゃんだけでなく私まで応援してくれるなんて。
「ありがとうございました」
生徒会室を出る前に私はもう一度山下さんに頭を下げた。
「最後に決める秀一君も大変ね」
「もっと大変になるくらい私、輝いてみせますよ」
「そうね」
「失礼しました」
静かに扉を閉める。
『もう迷わない、秀ちゃん私もっと自分に自信を持って輝くからね!』
そう心に誓うのだった。




