私の気持ちよ。
「それじゃ行きましょうか」
冬休みも終わり3学期が始まった最初の金曜日。
私(中山麻里)と真夏、謙二と海老名光希の4人は静嵐高校の学校見学会に出掛けた。
もう既に私達は願書(謙二は転入書類)を持っているのだが今回は海老名光希の兄の事を学校に説明をする為に同行するのだ。
決して秀一に会うためでは無い...多分
「兄ちゃん元気かな?」
電車の中で真夏は先程から何度も同じ事を言っている。
「真夏ちゃん1週間前までお兄さんとずっと一緒に居たじゃない」
「光希ちゃん、兄ちゃんと離れている1週間は1ヶ月にも1年にも感じる物なのよ」
「そんなに!?」
真夏のブラコン発言に海老名さんは今更ながら驚いている。
真夏程ではないが気持ちは分かる。
特に冬休みは殆ど一緒に居たせいか秀一と離れて過ごす1日は異常に長く感じてしまう。
「私もお兄様に会えるのが楽しみ!」
「「「は?」」」
海老名さんの発言に私達3人は目を丸くする。
「お兄様?」
「ええ、謙一お兄様よ」
「おい、いつから俺の兄貴はあんたの兄になったんだ?」
謙二は呆れている。
「あら私の理想のお兄様像よ」
海老名さんはそう言って顔を赤らめた。
先程から謙二の隣に座り腕の筋肉を凝視している海老名さん。
触りこそしないが見られている謙二は落ち着きが無い。
「やっぱり光希ちゃんは筋肉フェチ...」
「...ナンノ、コトカナ?」
「だから何で片言?」
本当に賑やかな2人ね。
でも素直に気持を表せる海老名さんが羨ましい。
素直になれていたら秀一は玲美と付き合う事なく、私は愛佳と秀一の3人で同じ高校に通っていただろうに。
『自分を許すことも大事よ』
母さんが先日言った言葉が頭をよぎった。
...でも自分の性格は変わらないものだ。
「麻里着いたぞ」
謙二の言葉に私は我に返る。
どうやら駅に着いたようだ。
「あ、ごめんなさい」
いけない、いけない、完全に自分の世界に入っていた。
「本当に遠いね」
「光希ちゃん初めて?」
「まさか、2回目だよ真夏は?」
「私は今回で5回目!」
「す、凄い...でも何の用で?」
「えーと、文化祭でしょ、体育祭に、学校説明会に、最後は願書を取りに来た時だよ」
海老名さんと謙二は驚いた顔で指折り数える真夏を見て、次に私を見た。
「何、謙二?」
「まさか麻里もか?」
「私は5回も行かないわ」
「そうだね、麻里ちゃんは...」
「真夏ちゃん...」
余計な事を言わないよう少し真夏を睨む。
実は今回で4回目の静嵐訪問なのだ。
「あれ?」
高校が見えると同時に2人の人影が私達の目に飛び込んで来た。
「香織ちゃんと山下さんだ!」
人一倍目の良い真夏が叫ぶ。
少し遅れて私も確認する。
敷島香織さんと生徒会長の山下桜さんだ。
「「「こんにちは」」」
「遠路ご苦労様でした」
「お疲れ様」
2人は私達の姿を見つけると優しく微笑んだ。
「こんにちは、待っていて下さったんですか?」
「ええ」
「皆さん会議室はご存知ないでしょうから」
成る程、学校の見学会の前に海老名さんの事情の聞き取りを高校の会議室で行うと言ってたが、会議室が分からない私達の為に待っていてくれたのか、この2人は隙がないね。
2人に続いて私達は校舎に入る。
学校は既に授業は終わったみたいで生徒の姿はまばらだ。
「こちらよ」
第一会議室と書かれた部屋の前で2人は振り返る。
「ありがとうございます」
私達は頭を下げて敷島さんに続いて会議室に入ろうとする。
「中山さんはこちらに」
「え?」
会議室に入ろうとした私だけを山下さんが止めた。
「中山さんに話があるの」
「話?」
「ええ、海老名さんの説明は広田さんと斎藤さんで大丈夫です。
あなたに話があるのですよ」
優しく山下さんは微笑む。
敷島さんも同じく優しく微笑んでいる。
「大丈夫よ、海老名さんの話が終わるまでに此方の話も終わります。
学校見学会にも間に合いますよ」
私の迷いを見透かす様に説明をする。
やはり山下さんは隙がない。
「分かりました、真夏、謙二、海老名さんの説明を頑張ってね」
「うん」
「分かった」
真夏達と分かれ私と山下さんは暫く並んで歩く。
一体何の用だろう?
海老名さんの説明に私が必要ないなら最初から呼ぶ事は無かったはずだ。
『秀一の事だな』
私は大体の見当をつける。
山下さんは秀一が好きなんだろう。だから卒業する前に何か頼まれる気がした。
「さあこちらです」
[生徒会室]と書かれた部屋の扉を開ける。
「失礼します」
私は山下さんに続いて生徒会室に入る。
予想通り部屋の中には誰も居ない。
「さあ座って」
「ありがとうございます」
[生徒会長]と書かれたプレートが置いてある机の前に置かれた椅子に私は案内された。
山下さんは向かいに座り私達は机を挟んで差し向かいになる。
「早速だけど中山さん、あなた今のままで良いの?」
「は?」
山下さんは席に着くなり私に質問をする。
何の事か分からない私は間抜けな言葉が出た。
「質問が悪かったわね、中山、いえ麻里さん、あなた本当に新入生から静嵐に入り直すつもり?」
ああ、その事か。親友の愛佳や秀一と一緒にならなくて大丈夫か知りたいのか。
「ええ、私は自分の勝手な行動で広田君や青山さんを始めとした周りの人達に酷い迷惑を掛けました。
幸いにも2人には許して貰えましたが私自身まだ自分を許す事が出来ないのです」
「...貴女は私と良く似てるわね」
私の言葉に山下さんは困った顔をした。
「似てる?」
「ええ、完璧主義で悩みや苦しみを外に出せない、まあ融通が効かないのよね」
「う...」
ずばり自分の性格を言い当てられる。
「貴女が何をしたのか詳しくは知りません、しかし青山さんや真夏さんから聞き出した情報で大体の想像はつきます。
本当に広田君を愛しているんですね」
「あ、え?」
『愛している』自分の気持ちは分かっているが、人に言われたらこんなに照れるものなのか。
「私も同じです。広田君が大好きです」
「え?」
山下さんの言葉に顔を上げると彼女は真っ直ぐに私を見ていた。
「考えてもみなさい、中学時代苛められ追い込まれていた時に彼が現れたんですよ?
好きにならない方がどうかしてます」
「確かに...」
納得だ。苛められ絶望していた時に救ってくれた救世主。
それは間違いなく恋慕の対象になるだろう。
「でも中学時代は心の傷が酷く恋愛をする気にはなれませんでした。
しかし高校で思わぬ再会を果たせましたが...諦めました、それは叶わぬ恋だと」
「どうして?」
「広田君には貴女達がいましたから」
「私達ですか?」
「ええ、中山麻里さん、青山愛佳さんがいましたから」
山下さんの言葉に私は何と返して良いか分からない。
いや何も言うべきではない。
「そんな顔をしないで」
「はい」
「叶わぬとしても私はまた広田君...秀一君に会えました。それで充分なのです...」
悲しく呟く山下さんに私まで心が押し潰されそうだ。
「これを」
山下さんは机の引き出しから大きな封筒を取り出した。
「これは?」
「静嵐高校の転入届です。
よく考えてみて下さい。話は以上です」
「...ありがとうございました」
私は山下さんから封筒を受けとるのだった。




