私達が守りますわよ。
「そいつが真夏や謙二を襲った奴か」
「ええ、厳密には真夏ちゃんを襲った犯人よ」
山下は持参した資料の項目を指差す。
「あの男は苛めを放置した責を問われ中学を去ったの。その後教師を諦めて地方で柔道の指導をしながら保護司になったのよ」
「保護司?」
聞きなれない言葉に秀一達は首を捻る。
「保護司って言うのは非行少年が社会復帰できるように保護観察官と一緒に指導やアドバイスをして犯罪を犯した少年の社会復帰を助けるボランティアの人達の事よ」
「そんな人が何故真夏を襲うんだ?」
秀一の言葉に怒気が滲む。
「保護司の担当になった奴が北川だったのよ」
「まさか...」
愛佳が震える様な声で呟いた。
「残念ながら本当よ。私達が学校にお願いして北川を調べたの」
「それで西山は北川から俺の事を聞いて復讐の手引きをした訳か」
「ええ、自分の復讐も兼ねてね」
「ふざけやがって...」
秀一の呟きに怒りが溢れる。
静かにキレる様子に山下と敷島、川井は思わず恐怖を感じた。
「兄ちゃん落ち着いて!」
「そうよ秀ちゃん」
「秀一、気持ちは分かるけど今は駄目よ」
真夏達は秀一を宥める。
「あいつらはどこにいるんだ?」
「分からないけど特定された以上捕まるのは時間の問題ね」
敷島はそう呟いた。
「でもどうやって和田や立花を引き入れたの?北川と接点は無いはずよ?」
「それはここを見て」
麻里の疑問に山下は資料を捲り、ある項目のページを示す。
「西山の父親は教育委員会の関係者だったのか」
「ええ、和田と立花は停学処分を受けて教育委員会に報告されていた。
その情報を聞いたのね」
「なぜ教えたのかしら?」
「[元教え子の非行を指導する為]って書いてあるわ」
「父親も騙された訳か」
報告の内容に離れていた点が結ばれて行くのを感じる秀一達だった。
「ただいま」
玄関の扉が開き秀一の母の声がする。
夜勤を終え帰って来たのだ。
「おかえり!」
真夏が母を迎える。
「ただいま、随分たくさんの靴が有るわね。愛佳ちゃんや麻里ちゃんの他にもお客さんかな?」
「うん。兄ちゃんの高校の知り合いだよ」
「おじゃましてます」
秀一の母を見た山下達3人は立ち上がり頭を下げた。
「いらっしゃい...って、初めて見る子も居るわね」
「はい敷島香織と言います。広田君に大変お世話になりました」
敷島は頭を下げて挨拶をする。
「そんなに緊張しないで、あなたは見覚えが有るわね」
「はい合宿ではお世話になりました。川井涼子です」
「そうよね、涼子ちゃんよね。それであなたは...」
最後の山下を見ながら秀一の母は首を捻る。
「あの覚えてらっしゃらないと思いますが3年前に中学の苛めで...」
「ああ山下桜さんね、随分印象が変わったわね、眼鏡も無いし髪型も...綺麗になったのね。
秀一から聞いたわよ。理事長から助けてくれたのよねありがとう」
「いえ...その節はありがとうございました」
秀一の母の言葉に山下は真っ赤になる。
愛佳と真夏、麻里はその様子に少し複雑だ。
「母さんよく覚えてるな」
「職業柄、人の事は覚えてるものよ。それに秀一が忘れ過ぎなだけよ」
秀一の母の言葉に皆頷くが秀一は別に気にする素振りも見せない。
「そうそう、病院から帰る前に警察が来たわよ」
思い出したように秀一の母が言った。
「警察?何か進展が?」
「ええ、和田君と立花君が保護されて、後北川って子が意識不明で収容されたんだって」
「母さん和田や立花に『君』は要らないぞ、あいつらは真夏や謙二を襲ったんだ!」
秀一は怒りを露にする。
「あのお母さん、北川が意識不明で収容って?」
敷島達が驚いた様子で聞く。
「私も詳しくは分からないけど今朝早くに警察が見つけたそうよ。犯人の1人に暴行を受けて意識不明で重体ですって」
「仲間割れかな?」
「そうみたい、和田君...和田が聞いた話では余計な事を話すから信用出来ないって言われたそうよ」
「ああ、何となく分かる」
「そうね」
「納得」
女性陣は秀一の母の言葉に一斉に頷いた。
「それで北川を襲った奴は?」
「まだ逃げてるって、でも犯人の特定はされたそうよ、情報が寄せられたって」
「西山公平...」
「あら秀一知ってたの?」
「ああ、情報って山下さん達が調べてくれたんだ」
「そうなの?凄いわね桜ちゃん!」
秀一の母は驚きの視線を山下に向けた。
「いえ、あの桜って...」
「あらごめんなさい馴れ馴れしいわね」
「いやそんな...」
真っ赤な顔で俯く山下桜。
「おばさん!!」
「な、何、愛佳ちゃん?」
怒気を孕んだ愛佳の声に驚く秀一の母。
「謙一さんは知ってるんですか!?」
「え、ええ、謙二さんの病室で一緒に聞いたから」
「一緒って謙一さんや斎藤さんのお父さんもですか!?」
「そ、そうよ、どうしたの麻里ちゃんまで?」
「お母さん!」
「な、何、真夏?」
「何でも無い!」
怒りの3人に苦笑いを浮かべる川井と敷島、山下はまだ赤い顔だ。
暫くすると玄関のインターホンが鳴った。
「はい」
「敷島です、娘と山下君と川井君を迎えに参りました」
インターホンから聞こえて来たのは男性の声だ。
「来て貰ったんですか?」
「ええ、安全の為です」
敷島はにっこり微笑む。
「秀一どなた?」
「敷島さんのお父さんだよ」
「え?」
秀一の母は急いで玄関の扉を開き玄関にいた敷島の父と簡単な挨拶を済ませ山下達は敷島の父が運転する車で帰って行った。
「俺をまだ狙っているのか?」
リビングで秀一は静かに呟く。
「そうかもね、でも警察が家の周囲を警戒してくれてるから安心よ」
「そうなのか?」
「ええ安全の為ね」
「まだ安心出来ないわ」
秀一の母の言葉に愛佳は首を振る。
「そうね」
麻里も同意する。
「私もそう思う」
真夏も真剣な顔で頷く。
「何故だ?」
秀一は不思議そうな顔だ。
「だって秀ちゃんの足...」
愛佳は秀一の足を軽く触る
「痛て!」
「ね」
「いや、いきなり触るからだろ?大丈夫だよ」
「秀一」
「なんだ?」
麻里の声に振り返る
「うりゃ!」
麻里の反対側から真夏が無事な右手で秀一の太ももを軽く掴む。
「げ!」
秀一は激痛にしゃがみこんでしまう。
「ほら怪我人の私にも勝てない」
「お前らな...」
痛みに唸りながら秀一は呟いた。
しかし目に怒りは無かった。
「だから私達が秀ちゃんを守るよ」
「そうね」
「兄ちゃん安心して!」
得意気な愛佳達に秀一の母も笑顔だ。
「秀一、諦めて守って貰いなさい」
「分かったよ」
秀一は観念したように呟いた。




